掌編小説・『黄金の招き猫』
夢美瑠瑠
掌編小説・『黄金の招き猫』
招き猫について、知っている人は知っている。
右手を挙げている猫が「金運招来」で、左手を挙げている猫が「千客万来」という「縁起のいい」意味を持っている。
(両方挙げているのもあって、「欲張り」みたいだが、「運」を多めに求めても神社でする神頼みと一緒だから「がめつい」とは言われない。福が重なっている感じでほほえましい。)
だからとりわけ客商売の店には招き猫が似つかわしい。
私はコロナ禍においてはスケープゴートのごとくに?時短要請をされて、同情されたり、給付金をタダもらえるというので嫉妬を受けたりするツライ立場の”飲食店の店長”である。
経営が苦しいのは事実で、バランスシートは完全に赤字なのだが、なんとか自転車操業をして、閉店の憂き目は見ないようにと頑張っている。貯金を切り崩してはピンチをしのいでいる。
しかしそれもいよいよ切迫してきた。逼迫してきた。
全財産が17万円。月末には手形を落とさないとならないが、300万円以上足りない。家族の生活費は勘定の外だしどう計算しても足りない。しかしあと10日ほどで金を作らないと店はつぶれる。
私も自己破産するしかない。
給付金は遣り繰りの中でとうに遣ってしまった。
「どうしようか」
「どうしましょうか」
妻と一人娘と3人で額を寄せ合って相談するが、妙案は浮かばない。
夜逃げ、一家離散、一家心中、銀行強盗…
家族間で真面目にそういう言葉が飛び交うような極限状況…
絶体絶命で万事休すという状況のその時、玄関で「お届け物で~す」と、宅配便が来たらしい呼び声がした。
「お前、頼んだか?」
妻は首を振る。
届いたのはずっしりと重い荷物。そうして梱包を解くと、中から出てきたのは…ナント!「黄金の招き猫」だった!
「…ナニナニ、“この度、飲食業者の皆様にわが社から新発売された『マネーキンキャット1号』のモニターになっていただきたく、任意抽出された100名の方に製品をお送りしております。この『マネ…』は先端科学の粋を集めて開発された集客マシーンで…」
要するに新製品の宣伝だというのだが、「これをお店の要所に陳列するだけで商売繁盛間違いなし!」なのだそうだ。
「お父さん、溺れる者はなんとやらよ。夜逃げは一日待ってこれを置いて店を開いてみる?」
もう一週間休業している店の真ん中の壁際、玄関口の真正面にその「黄金の招き猫」を配置して朝10時に開店した。
で、結果から言うと…「招き猫」はドラえもんの「カムカムキャット」のごとくに本物だった。どういうご利益だか科学技術だか知らないが、ひっきりなしに客が来て、豪勢な注文をしてくれる。「すごい効果だ」私は目を
仕入れていた材料がすっかりさばけて、その日の終わりは、時短で20時だったのだが、売上金はゆうに500万円を超えた。これで余裕で手形を落とせる。
妻と私は泣きながらビールで乾杯した。
「お猫様様様様、だな。だけどあの黄金の招き猫の秘密というかどういう原理で出来ているのだろう?」
「お父さん、金の卵を産むガチョウを殺すようなバカなことはやめてね。とにかくご利益があるんだし、きっと神様だかご先祖様だかが見兼ねて助けてくれたんだわ。このまま黙って商売を続けましょう」
「う、うん…」
「鶴の恩返し」とか「雪女」などの昔話みたいだが、しかし私はどうもその招き猫の秘密が気になった。
なぜ閑古鳥が鳴いていたつぶれかけの料理屋に突然ひっきりなしに客が来るようになったのだろう?
あの招き猫はいったい何なんだ?
私は店の真ん中に鎮座している「ありがたい」ご本尊様に近づいた。
「モーターみたいだな。やっぱり機械仕掛けか?どういうテクノロジーが機能しているんだろう?」
「あーもー!気になるー!もう我慢できない!」
もう好奇心が抑えられなくなって、私は招き猫を両手で持ち上げ、思いっきり床に叩きつけた!中身がどうなっているか一目見てみたいという衝動が
「ガシャーン!」と木っ端みじんに招き猫が壊れてしまうとともに、人間の消費衝動と食欲を助長する誘因フェロモンを大気中から蒸留、精製して一定の広さの空間に瀰漫させる超小型の超原子炉が破壊されて、すさまじい爆発が起こった!
人類は地球ごと吹っ飛んだ!
「黄金の招き猫」は人間の好奇心や欲望を逆手に取った時限爆弾としてエイリアンが開発したものだったのだ!
エイリアン曰く「これがホントの「飯テロ」でございます。お粗末。」
<了>
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