第2話 目標

「……はぁ」

 入学後の手続きを終えて、女子寮の自室で息をつく。

 私の婚約者兼、攻略対象者であるアルフレッドは二年生だ。なので、彼から呼び出されたり、私から接触をしたりしない限り、今後の学園生活で関わることはないと考えていいだろう。


 ヒロインとの出会いを終えたであろう彼は、今ではヒロインにぞっこんになっているだろうと思われる。


 そして、もうすぐ元婚約者になるのだから、私から接触する必要がないし、彼も気まずくて私を呼び出したりなんて出来ないはずだ。


 また、今の私にアルフレッドに対する未練は全くない。何といっても、自分のルート以外でもヒロインに惚れる薄情者だと思い出したからだ。


 つまり、私はヒロインであるアメリアをいじめないし、いじめる必要もない。


 ……もしかして。


「普通に生活してるだけで、死亡フラグが折れた?」


 ……なんて、一瞬浮かんだ考えを打ち消す。


 いや、まだわからないか。物語が全くその通りに進まないことに対するセーフティ──

つまり、強制力が働く可能性も考えなければならない。


 強制力とは、私がなにもしていないのにアメリアをいじめた、ということにされる力だということも出来る。


 それを阻止するためには、もしかして。

「ある程度、目立つ必要があるわね……」


 さっきは目立たず生きていこうと思っていたが、非社交的な人よりも社交的な人の方が、信頼を得やすい。それは今までの人生からも明らかだ。


 ……といっても、今までの私こと、ユメコはアルフレッドにベタ惚れのイエスマンだったため、地味だった。


「まずは、この格好をどうにかすることからね」


 ユメコは、ひとつ結びの方が可愛いね。

 ユメコは、メガネをかけた方がいいよ。その方が似合ってる──などという、アルフレッドの趣味に完全に合わせた私はおしまいだ。


 私は、鏡の前まで行き、髪の毛をまとめていたリボンを取り、伊達メガネを外す。


 すると──自画自賛と鼻で笑われるかもしれないが、それなりに美人が立っていた。


 まぁ、それも当然だろう。なにせ悪役令嬢だ。美しくないとヒロインのライバル足りえない。


 相手からの破棄とはいえ、婚約破棄という傷が付いたとしてもこの顔だったら、貰い手はいるんじゃないだろうか。


「よし、目標を変更よ」


 学園生活でそれなりに目立ちつつ、新たな婚約者──実家が太いとなお良い──を探すことにしよう。

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