第11話 京都にあなたと1
十一月に入ると、街はハロウィンから一気にクリスマスに衣替えした。ケーキ屋さんでアルバイトしている身としては、クリスマスはひたすらケーキを売ることになるんだろうな。というか、店長や長年働いている先輩スタッフさんからも「クリスマスは休めないよ」と早くも釘を刺されている。一か月後の話なのに早くも気が重い。先のことを憂いていても仕方ないけど、物語のように恋人と過ごすクリスマスは夢のまた夢だなぁ。
クリスマスは一緒に過ごせなくとも、大学の授業がある限り平日は会える。
今日は大学の奥にある一番広い食堂・第二食堂で食事しようと約束していた。窓際の二人掛け席は埋まっていて、四人掛け席を確保する。荷物を置いて、『到着したよ』と、メッセージを送る。送ると既読がすぐついて返信が来るけど今回は来ない。まだ授業が終わってないみたい。
君彦くんと食堂でお昼を食べる。これはわたしたちにとって大切な時間だ。課題のためとはいえ、一緒にお昼ご飯を食べたのが仲良くなるきっかけだったからだ。わたしが無理矢理誘ったこともあって、最初は嫌な顔されたけど、いつの間にかこの時間を彼も楽しいと感じてくれるようになった。あ、返信が来た。『今終わった。すぐ行く』。
五分後、
「真綾、待たせたな」
君彦くんがやってきた。少し息を切らしている。
「そんな急がなくても全然大丈夫だよ」
「真綾を一人で待たせると、こないだのような輩に絡まれるかもしれないからな」
「心配かけてごめんね」
「いや。守るのは恋人として当たり前だ」
そう言われると照れちゃうな。照れを隠すように、わたしはカバンから包みを取り出す。
「今日はお弁当の日だよね。はい、これどうぞ」
「ありがとう」
お付き合いを始めてから、一週間に一度、君彦くんの分のお弁当も作っている。君彦くんから「時々でいい。俺の分も弁当を作ってくれないか」と言われた時、わたしはほんと嬉しくて、「毎日でもいいよ」って言った。けど、「それでは真綾の負担が大きい」と週一、水曜日をお弁当の日に制定した。君彦くんはわたしの作ったお弁当や料理をとても気にいって食べてくれるから作り甲斐もある。
わたしと君彦くんは一緒にお弁当のふたをあける。甘く煮つけたかぼちゃ、いんげんの胡麻和え、焼き塩鮭、そして君彦くんが好きなたまごやき。ご飯には梅のふりかけで彩りを添えた。
「今日もおいしそうだ。いただきます」
「いただきます」
「うまい」
「よかった」
食べていると、
「よっ! 真綾、神楽小路~」
「こんにちは。お隣よろしいですか?」
咲ちゃんと駿河くんがやってきた。咲ちゃんはわたしの隣、駿河くんは君彦くんの隣に座る。
「あー、お腹空いた。おっ、神楽小路は真綾の手作りお弁当の日か」
「うむ、今日も美味い」
「真綾はえらいなぁ。朝から自分と家族分と今日は追加で神楽小路のお弁当作ってんだろ」
「ほとんどはお母さんと休みの日に作った作り置きから入れてるだけだけどね」
「それでもちゃんとお弁当作ってるの尊敬するぜ」
「えへへ、ありがとう」
「神楽小路は幸せモンだな。こんなカワイイ彼女の手作り弁当食べれて」
「お前にはやらん」
「人の弁当横取りするほど、ワタシは悪人じゃねぇし」
咲ちゃんは手に持ってたビニール袋からサンドイッチを取り出し頬張る。
「あ、駿河くんはお弁当だね」
「食費がバカになりませんからね」
取り出したお弁当を開く。たまごやき、にんじんのきんぴら、シリコンカップにほうれん草とベーコンの炒め、もう一つのカップには肉じゃがが入っている。ご飯はおにぎりにして持ってきている。
「わぁ、おいしそうだね!」
「ありがとうございます。こないだ佐野さんが教えてくださったお弁当のレシピ本やサイトに載っていたものを作ってみました。とてもわかりやすくて簡単で重宝してます」
「いえいえ! どれも簡単でおいしくていいよね」
「総一郎ぉ、ワタシの分の弁当作ってくれよ」
「咲さんは甘やかしすぎると駄目になりますから」
「なんでだー! 愛おしい彼女だろ?」
「だから尚更です。自分で出来るところは自分でやる。咲さんはしっかりお料理出来るんですから」
「くそぉ、ワタシが料理出来るばっかりに……」
「たとえ出来なかったとしても、僕はそこまで甘やかしません」
「見捨てるなよー!」
そんな咲ちゃんと駿河くんのやりとりにわたしは笑みがこぼれて、お弁当がいっそう美味しく感じる。
「真綾からもなんか言ってやってくれよ」
「二人とも本当にラブラブだね」
「はぁ⁉」
咲ちゃんの顔が一気に紅くなってかわいい。駿河くんは目を丸くしてる。
「二人が付き合い始めたんだと思うと嬉しくて」
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