第53話 ルチア襲来
教室に入り、いつものようにダイアナとユミールに挨拶をし、
軽く話しをした後で席に着いたところだった。
教室の出入り口付近が騒がしいと思ったら、一人の女子生徒が入ってきた。
制服のリボンを見ると二学年の生徒のようだ。
どこかで見たことがある気はするが、すぐには思い出せない。
うちとは違う派閥の令嬢だと思うが、三学年の教室に何の用だろう。
キョロキョロと誰かを探していると思ったら、私と目が合った。
にやっと笑ったかと思ったら、こっちへ向かってくる。
私?と思ったら、周りにいた護衛がその生徒を止めた。
「二学年の生徒だと思うが、何の用か?」
「アンジェ様にお願いがあってきました。」
「アンジェ様、どういたしますか?」
知らない生徒だと思うが、この教室にはたくさんの人がいる。
断るのは簡単だが、全く話も聞かずに帰すのは得策ではない。
「授業が始まってしまうから、少しならいいわ。
どなたかしら?」
「オビーヌ侯爵家のルチアと申します。
ナイゲラ公爵家のミリアとは母方の従姉妹になります。」
「…ミリア様の。」
言われてみれば、金髪琥珀目のミリア様とは少し色が違うけれど、
栗色の髪と目…同系色に見えなくもない。
小柄な身体や目がぱっちりとした顔だちも似ているように見える。
だけど、ミリア様の従姉妹が私に何の用で?
ミリア様が隣国の側妃になることはまだ発表されていない。
表向きにはミリア様はまだ謹慎中ということになっているが、
もしかしてそれを解いてほしいとか?
「私…**********************!
******************!!
*****?*******!!」
「…え?」
ルチア様が話していることが聞こえない。
いえ、音は聞こえていると思うのに、意味が分からない。
言語にも聞こえない…いったいどういうこと?
この状況はおかしいと思って周りを見ると、
近くにいるダイアナもユミールも戸惑っている。
護衛騎士たちを見ても、何が起きているのかと言った顔している。
みんなで首をかしげている間も、ルチア様はずっと何かを話している。
しばらくそれが続いた後、パーンと音が鳴って、教室内の誰もがそちらを見た。
「やぁ、アンジェ様。ごきげんよう!」
そこにいたのは、ハインツ兄様の側近シモン様だった。
黒髪を一つに束ね、満面の笑みでこちらへと向かってくる。
もう二年前に卒業しているはずのシモン様がなぜ学園に?
「シモン様、どうしてこちらに?」
「ふふ。アンジェ様、話はあとでね。
さ、仕事してくれ。」
私の前まで来たと思ったら、振り返って誰かに指示を出した。
教室内に騎士たちが入り込んできたと思ったら、
ルチア様を取り囲み縛り上げていく。
「******!!」
「うるさいから、口ふさいで連れて行って~。」
「「「「はっ!」」」」
口をふさがれたルチア様は担ぎ上げられるように連れて行かれた。
何が起きているのか全く分からないけれど、
シモン様の指示であれば、王太子命令で捕縛されたということ。
「大丈夫だった?アンジェ様。
驚いたでしょ~。」
「…はい。あれは、どういうことですか?」
「うん、ちょっとね、彼女はおかしくなっちゃったみたいなんだ。
他の貴族に危害を加えるかもしれないから保護する予定だったんだけど、
その前にここに入り込んじゃったみたいで。
教室にいたみんなも、驚かせて悪かったね~。
もう大丈夫だから、安心してね!」
シモン様の説明で、騒いでいた教室もおさまっていく。
ルチア様のあの態度は、どう考えてもおかしかった。
王太子命令で保護されたと聞かされ、それならもう大丈夫だという雰囲気になる。
ただ、どうして一度も会話したことのない私のところへ来たのか、
それが不思議で仕方なかった。
「ルチア様は…どうして私に会いに?」
「あぁ、その辺は…あぁ、来た来た。」
「アンジェ!」
慌てたように教室に飛び込んできたのはジョーゼル様だった。
私を送り届けた後は王宮へ行ったはずなのに、戻ってきた?
「ゼル様、どうして?」
「無事だった…わけじゃないか。
シモンが助けてくれたんだな…ありがとう…。」
「うん、詳しいことは王宮に行って話そうか。」
「あぁ、わかった。
アンジェ、今日は帰りも迎えに来る。
その時にゆっくり話そう。」
「わかりました。」
すぐそこに先生が来てしまっている。
これ以上ゼル様とシモン様がここにいたら、授業の邪魔になってしまう。
それに気がついて、二人もすぐに教室から出て行った。
あれは何だったのかと気になったけれど、話題に出すのもためらわれたのか、
ダイアナもユミールもルチア様の名を出すことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。