第51話 王太子の側近(ジョーゼル)
午前中を薬師室で過ごし、昼前に兄上の執務室に顔を出すと一人足りなかった。
兄上とケイン、ガティナ公爵家のジャックしかいなかった。
マルクニ侯爵家のシモンが来ていないようだ。
「おはようございます、兄上。今日は俺のほうが早かったですね。」
「あぁ、シモンもそろそろ来ると思うよ。
夜の仕事を頼んでいるからね、午前中は寝てていいって言ってあるんだ。」
そんな話をしていると昼食が運ばれてくる。
兄上の分の毒見をしていると、眠そうな顔でシモンが部屋に入ってきた。
「おはよぉございまーあうぅす。」
「あくびしながらの挨拶はやめろよ。」
いつも通りのんきな感じのシモンに思わず笑ってしまう。
兄上も注意をしているものの、面白がっているようにしか聞こえない。
「いや~眠くて。でも、頼まれてた仕事終わりましたよ。」
「あぁ、やっと終わったのか。お疲れ様。
じゃあ、食事しながら話してくれる?」
「はぁーい。」
全員が席について食事が始まると、シモンが説明を始める。
食べながらのんびり話すものだからわかりにくいが、
どうやらミリアの教育を任されていたようだ。
あのミリアの教育。
どうやっても無理だろうと思わず顔に出してしまう。
それがシモンに見られてしまい面白そうに笑われる。
「ふふ。ジョーゼル様、安心していいよ。
もうミリアはジョーゼル様のことあきらめたから。」
「…本当に?」
ミリアの言動がおかしすぎるから教育すると聞いた時には無理だと思っていた。
それでも何も言わなかったのは、それがアンジェの要望だと知ったからだ。
まさか…本当に教育できるとは思ってなかった。
「うん、きっちり心折ったから、もう大丈夫だと思う。
また何度も会ってたら惚れ直すこともあるかもしれないけど。
隣国に嫁いだら二度と会わないし。」
「じゃあ、この後は礼儀作法の教師を手配して、
ある程度まともになったら向こうに送るか。
一月もあればなんとかなるか?」
「うーん。どうせ人目につかないところで軟禁されて終わるんだろうし、
礼儀作法はそこまで頑張らなくても大丈夫でしょ。
ただ、気になることを言ってたんですよね。」
「気になること?」
「ルチアに言われたからって。
やたらルチアに言われたことにこだわっていた感じがして…。」
「…オビーヌ侯爵家のルチアか。ミリアとは従姉妹だな。
それがミリアを操ってたとでも?」
「なんか…話を聞いてると俺の手口に似ている気がして。
単純なミリアをそそのかしたのはそいつかと思うんですよね~。」
「従姉妹ならミリアの謹慎中でもナイゲラ公爵家の屋敷にも行けるか。
誰がアンジェの噂を教えたのかと思っていたが、ルチアだったか。」
オビーヌ侯爵家のルチア。
あまり関わりたくない者の名が出てきて、少し迷ったが話すことにした。
兄上に話しておけば、何かあった時に対処してくれるはずだ。
「兄上、実はルチアは以前から手紙が来ていました。
ミリアと初顔合わせした後からです。
最初の内容はミリアの態度を謝るものでしたが、
だんだん内容が変わっていって…
二年前くらいからミリアとの婚約を解消したら自分が代わりになると。」
「ルチアの狙いはお前か…ジョーゼルがもてるのは知ってるが…。
まさか従姉妹の婚約者を狙うとはなぁ。
それで…今でも手紙が来ているのか?」
最後に手紙が来たのはいつか思い返す。
去年の収穫祭を祝う夜会以降は来ていない…。
というよりも、アンジェと婚約してからは来ていないかもしれない。
「そうですね…アンジェと婚約したころから来なくなりました。
ミリアと婚約解消したことでルチアとの縁も切れたと思ってましたが。
あの一件の裏にルチアがいるんだとしたら…。
もしかしたら、アンジェの件もルチアの指示かもしれない。
まだ何かしてくるでしょうか?」
「ルチアはまだ学園にいるな?
ミリアと一緒だったということは今は二学年か…。
シモン、ちょっと調べといてくれるか?」
「いいですよ~俺も気になるんで。」
そうか、ルチアは学園に在学している。
学年は違うが…もしアンジェに何かしようとしていたら。
シモンが俺の手口に似ていると言っていた。
言葉を扱うスキルを持っているのだとしたらまずいことになるかもしれない。
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