第39話
こういう強い主人公を見てると、私自身の気弱さを思い知らされて少し落ち込むから、あんまり見る気がしなかったけど、改めて読んでみると、意外と面白いわ。私もジェランドさんのお荷物にならないように、これからは強くならなきゃいけないんだから、この主人公から少しでも『強さ』ってやつを学ばなきゃね。
そう思い、黙々とページを読み進めていると、不意にコンコンと、控えめなノックの音がした。
「誰?」
誰も何も、私のほかにはアリエットしかいないのだから、アリエットに決まっている。間抜けな質問をした自分がおかしくて、私は少しだけ笑った。
ドアの向こうから、アリエットの、どこか淡々とした声が響いてくる。
「私よ、姉さん。少し、話さない?」
「ごめんなさい、今、ちょっと忙しいの」
「ふうん、そうなんだ」
正直に言えば、別に忙しくはない。やるべき準備はすべて完了し、さほど興味のない小説を読んでるくらいなのだから。
それでも、アリエットとはもう、話をしたくなかった。拒絶の意思を表すように、私はそれ以上言葉を返さず、小説を読み進める。二枚ほどページをめくったところで、アリエットは乾いた声を出した。
「でも、旅の準備はもう、全部終わってるでしょ?」
小説のページをめくる指が、ぴたりと止まった。
それから私は、「ふぅっ」と小さく息を吐く。
流石は耳ざといアリエット。
やっぱり、知ってたのね。
アリエットに話したのは、ヘイデールか、それとも、他の情報網か。
どちらでもいいわ。
いくらアリエットでも、今から私とジェランドさんの邪魔をすることなんて、できっこないだろうから。
ずっと黙っている私の代わりに、アリエットは少しだけ寂しそうに言う。
「ねえ、明日には旅立つんでしょう? なら、こうして二人で会えるのは、これが最後になるわ。話しましょうよ、姉さん。もう、最後なんだから」
明日旅立つことまで知っているなんて。
アリエットの情報網は、いったいどうなっているのだろう。
私は驚いたが、それ以上に、アリエットの囁いた『もう、最後なんだから』という言葉が耳に残り、それはやがて、さざ波のように心に響いて、感情を動かした。
アリエットのことなんて、嫌いだ。
だが、それはそれとして、小さなころから面倒を見て、今まで一緒に暮らしてきた家族であることも事実だ。これで本当に『最後』なら、話くらいしてあげるのもいいだろう。
私は、もう一度だけ小さく息を吐き、「ちょっと待って」と言ってから、部屋の鍵を外した。ドアを開けると、そこには、やけにめかしこんだアリエットが立っていた。
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