第1章ー⑨
ギルドを出ると、早速頭の中で組んだ順番で依頼をこなしていく。
まず最初に行くのは微妙な位置にある届け先から。効率は悪いが、伝票を見ると割れ物注意の表記があったからまずはそれを届けようと思った。
そんなもの冒険者ギルドに頼むのもどうかと思うが……。
重い荷物に関しては、歩いている限りは問題ないな。
「これをお願いします。あ、割れ物らしいので気を付けてください」
そう依頼された割れ物の道具を無事に届けたら、思わずホッとしてため息が出た。
っと、ここで気を抜いては駄目だ。配達の依頼はまだ始まったばかり。改めて残った荷物の届け先を、ここ数日間で覚えた王都の地図と頭の中で照らし合わせる。
「こっちを通れば近道出来るんだけどな……」
確かあまり治安が良くなかったはず。変に
昼食はグレイの屋台で串焼きを買った。行儀が悪いが食べながら歩く。今は一分でも時間を無駄にすることはしない。
ギルドが夜遅くまで開いているのは、依頼を終えた冒険者が併設された酒場で夜遅くまで飲むかららしい。
だからといって、受付もその時間までやっているわけではない。
また街灯がともるとはいえ、それはあくまで主要な大通りを含めた一部の通りだけのため、場所によっては暗闇の中を歩くことになる。出来ればそれは避けたい。
「確かに受け取りました。体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、特に問題ありません」
「それは
「……七つ目で。残るはあと一つですが」
「そ、そうなのか。噂通りだな」
変なことを聞く依頼人だ。
再び歩き出した時には日が大分沈んでいた。もう半分以上が、城壁に隠れて見えない。
最後の依頼人のところに行ったら、
「そ、そうか。ご苦労だったな」
と、やっぱり何故か驚かれた。どうしたんだろう?
そして最後の荷物を届けた時、ちょうど反対の城壁から月の姿が現れるところだった。
大通りに戻り、街灯の照らす光の中を歩く。思えばこの時間に外に出ているのは初めてかもしれない。
昼間見る街と夜見る街では、同じ場所を歩いているはずなのに、不思議と違う場所を歩いているように錯覚させられた。
ギルドの前まで戻ってきたら、ホッと
おっと、ギルドに報告するまで依頼が完了したわけじゃなかった。
顔を引き締めてギルドの扉をくぐると、視線が一気に集中した。びっくりだ。知らない顔が多いから、特に緊張する。それにこんなに多くの人のいるギルドは、初めて見た。
「ソ、ソラさん。心配したんですよ!」
受付から身を乗り出してミカルが大声を上げる。
その声に反応して、さらに注目が集まる。
ミカルの方に近付くと、何故か順番を譲られた。いいのかな?
「あ〜、これ頼むよ」
差し出した複数の用紙には、全て完了のサインが入っている。
ミカルが食い入るように見るが、どんなに見ても結果は変わらないと思う。それよりも早く完了の手続きをしてもらいたい。
「た、確かに確認しました。ソラさん、ご苦労様でした。まさか本当に達成出来るなんて……す、凄く格好良いです」
その言葉に一部から歓声が上がる。一部からは悲鳴が上がった。何事かと見ると、そこにはよく受付嬢をナンパしていた男たちが集まり、こちらに来るように手招いている。戸惑っていると両脇を抱えられ、連行された。
「やるな、ルーキー。まさかあれを終わらせるなんてよ」
「ああ、全くだ。お陰で俺は破産だ、畜生」
悔しいはずなのに何故か笑っている。
「今日は俺たちの
「そうだな。それにミカル嬢の格好良い発言。ちょっと聞き捨てならないな。少しお話ししようか?」
一部目の怖い人がいるのはミカルのファンか?
次々と料理が運ばれてきて、テーブルに所狭しと並べられる。出来立てのようで、お皿からは湯気が立ち上り食欲のそそる匂いが立ち込めている。
どれも見たこともない料理で、使っているのは魔物の肉のようだ。鑑定で確認したところ、ウルフを中心に、バードアイとオークの肉を使った料理もある。
量はそれほど食べられないので、少しずつお皿から料理を取って色々な種類を食べていく。一番美味しかったのはオーク肉か。スープもいいが、シンプルに塩コショウを振っただけのステーキが衝撃的だった。
お腹一杯になり、これ以上食べられないところまできたら解放された。酔っ払いに絡まれて拘束されるのかと思ったら、俺の背後に立つミカルの笑みを見て、何人かが今日は疲れただろうから、ソラは帰りなと声を掛けてきた。反対する者は誰もいなかった。
ミカルは先輩たちと寮に戻るということで、その場で別れて一人宿に戻った。
宿に到着すると帰りが遅かったため女将さんに心配されたが、先輩冒険者にご飯を奢ってもらったことを話すと、驚くと同時に良かったねと言われた。確かにいつも一人で朝食と夕食を食べていたからな。
ベッドに横になると急激に眠くなったが、寝る前にやることがある。
「今日だけでもかなり歩いたけど、ステータスはどうなったかな?」
ここ数日ゆっくり確認したことがなかったから一度今の自分を確認するのもいいだろう。
「ステータスオープン」
――――――――――――――
名前「藤宮そら」 職業「無職」 レベルなし
HP170/170 MP170/170 SP170/170
筋力…160(+1) 体力…160(+1) 素早…160(+1)
魔力…160(+1) 器用…160(+1) 幸運…160(+1)
スキル「ウォーキングLv16」
効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1取得)」
経験値カウンター 44017/80000
スキルポイント 8
習得スキル
【鑑定Lv 4】【鑑定阻害Lv 2】【身体強化Lv 4】【魔力操作Lv 3】【生活魔法Lv 2】
――――――――――――――
――――――――――――――
NEW
【気配察知Lv 1】
――――――――――――――
鑑定阻害以外は熟練度を上げてレベルを上げている。
スキルポイントで鑑定阻害を上げたのは、何をしても熟練度が上がらなかったからだ。
今回新しく覚えた気配察知は、周囲の気配を感じ取ることが出来るようになる。これは探索系のスキルみたいで、街の外に出た時に魔物の気配を察知出来たら不意打ちを防いだり、戦いを避けることが出来るのではないかと思い習得した。
順調にステータスは上がっているけど、これが高いのかどうか基準がないからやっぱり分からないな。一度何かで確認したいけどどうすれば確認出来るかな?
それと経験値。ウォーキングのレベルが9までは1000ずつアップしていたのに、10からは10000ずつアップしている。徐々に必要経験値が増えているのを見ると、スキルポイントはある程度余裕を持たせておかないと、いざ欲しいスキルが出た時に覚えられなくなる恐れがある。
鑑定阻害をLv 2で止めた理由はこれが原因だ。
だから、スキルに関しては実用的なものばかり取っている。一番役に立っているのは鑑定だけど、生活魔法も負けていない。洗浄がなかったら今頃汚れまみれになっていたに違いない。
今後配達以外の依頼を受けることを考えると、街の外に出ることになる。そうなると剣術とか
さて、明日は依頼を受けるのをやめて、街の外に出るための準備をしよう……かな……。
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