第27話 カフェをオープンしよう!
なにはともあれ、私とルイはこの日夫婦になることになった。
それをアーキさんとマチトさんに報告して、役所に届けを出しに行く。
この国は私たちのようなワケアリの人間以外、みんな『入れ物』であるため、戸籍のようなものはない。
それでも届けを出しに行くのは、一応町の住民の把握のためだという。
町長さんに挨拶はしないのだろうか、とアーキさんに聞くと「まあ、基本町にいないしねー」とのこと。
町にいない町長さんとは……?
それに、かなりの大金がもらえる。
記録に残しておく必要があるんだろう。
「……ところでルイさんにこの国は基本物々交換だと聞いたんですが、祝い金というのは……」
役所にアーキさんとマチトさん、ルイさんとともにやってきて、リオとコルトを背負ったままちらりとカウンターで届けを受理してくれた犬の獣人を見る。
祝い金を用意するから、ロビーで待っていてくれと言われているのだ。
やっぱり普通にお金がもらえるのかしら?
「お金だよ」
「やっぱりお金があるんですか?」
「あるけどあんまり使わないんだよね。価値がないわけじゃあないんだけど」
お金の価値が高くないと言われると、店の備品を買う時に不安なんですが!
「お待たせしましたー。こちらになります!」
「えっと……これは?」
受付さんに差し出されたのは緑色の中型の魔石だ。
緑色ということは、植物の魔石ね。
これを畑の土の中に埋めておくと植物がよく育つ。
しかも中型ということは、かなり長期間使える。
「この国のお金は中型以上の魔石なんです。ルイさんは魔石を作って売ってくださってますけど、日常使い用の小型だけです。中型以上の大きさの魔石は資格が必要で、そのほとんどがオーダーメイドですからね」
「へ、へぇー」
受付さん曰く、魔石はお金の代わりになる。
生活が便利になるから、みんながほしがるものなのよね。
けれど魔石は普通の石から精製する【魔石精製】以外だと、魔物、もしくは邪霊獣を倒して採取する他なく、【魔石精製】はレアスキルに部類されるから持っている人は珍しい。
さらに中型を作れる人は限られているので、資格を与えて居場所を把握し、必要ならば護衛がつく。
魔石は物によっては攻撃に使える物もあるし、犯罪者に誘拐されてしまう可能性もあるためだそうだ。
なるほど、職人も結構厳重に管理しなければならないのね?
言われてみれば希少職だからそれも当然だろうか。
「こちらの中型緑魔石は一年ほど畑が水や肥料を与えずともよくなります。こちらを五つ、結婚祝い金として贈呈いたします。どうぞお役立てください」
「そ、そんなにもらえるんですか!」
「結婚は御入用ですものね。我が国では子をもうけるには、最西端の町にある『生命樹』の御前に行って祈らなければなりませんが、あなたたちは人間。そんなことをなさらなくても、子を作ることができる。とても素晴らしいことです」
「っ」
受付のお嬢さんが、手を合わせて祈る。
この国の人たちは『魂の入れ物』だから、子を成すには夫婦であっても『生命樹』に行って双方の血を捧げて祈らなければならないそうだ。
そうして、人間の国——コバルト王国で死んだものの魂を新しい『入れ物』に入れる。
『生命樹』はそういう“機関”。
人間がこの世界で子どもを得るということは、自我を持った『入れ物』を新たに生み出し、壊すということ。
いえ、不慮の事故や魔物と戦って亡くなる人だっているとはいうけれど、それでも。
「……そうですね」
私やリオのように、異世界から招かれた魂でなければこの国の誰かの犠牲で生まれてくる。
それが人間という生き物。
誰かの命日は誰かの誕生日。
そんなの、前世でも当たり前のことだったじゃない。
なのに、なんでこんなに切ないのだろう。
「本来なら、西の都への旅費などにもお使いいただければと思ってお渡ししているお祝い金ですが、ティータさんは飲食店をオープンなさるとのこと! 町に住む者として楽しみにしておりますね!」
「は、はい。ご希望に添えられますよう、がんばります!」
そうだった、気分を切り替えよう。
お金が手に入ったのだし、お店に必要なものを買い揃えなければ。
アーキさんとマチトさん、ルイさんにつき合ってもらい、この町の家具屋さんや大工さんに相談しに行く。
私の無計画っぷりが露呈しまくるだけだったけれど、お店をやる先輩たちに囲まれていたおかげで足りないところをかなり補足してもらえた。
リオがお乳やオムツ交換の時もその都度協力してもらったし、本当にありがたい限りというか!
「お帰りなさい。赤ちゃんってこんなに頻繁にご飯食べたりオムツ変えたりするんだね?」
「そうなのよー。でも、生まれた頃よりはだいぶ楽なの。1.5時間置きにミルク、オムツ替え、夜は沐浴、オムツ替えの時は温めたタオルで丁寧にお尻を拭かないとうちの子はすぐかぶれてしまって……」
「お、おおぉう……」
「それに私、母乳はよく出るので助かるんだけど少食らしくてすぐお腹いっぱいになってしまうのよね。その分ミルクの時間が頻繁だったみたいで睡眠時間が一時間半ぐらいしかなくて。人に頼んで一週間に一度だけ三時間、四時間確保したりはしてたけど今考えるとそれでも足りないよね」
「え、あ、う、うん」
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