第151話
「どうも皆さんキナコです。第七ブロックへ移る前に、ゲストのリア様がマスコミに揉みくちゃにされていますので、再度エリカ様に来てもらいました」
「すみません、仕事の一つのも真っ当に出来ず」
「いえいえ、むしろお忙しい中でこうして来て頂いているだけでも我々としては感謝の一文字です」
「二文字ですね」
「さて、エリカ様を迎えての第七ブロックを開始したいと思います」
相変わらず大盛り上がりする連中。
俺としては楽しいが、一人によって試合が壊されるところを見ていて面白いのだろうか?
「第八ブロックはどんな美少女が出るのかな」
「可愛くて強いとか最高かよ」
「俺もユーリ様とかと当たりたかったなぁ」
なんか俺と似たような奴らしかいなかった。
目の保養になるのは確かだ。
だが、あんまり彼女達に邪な目を向けると剥いじゃいそうだから気をつけろよな(笑顔)。
「さて、注目選手の紹介に入りたいところではありますが、なんとこの試合とある選手が参加するそうなんです」
「とある選手?」
「はい。実はなんと」
キナコはそのまま場内へとジャンプする。
「この私、みんなの実況キナコの参戦するブロックとなります!!」
おー
そういえば彼女も学園の生徒ということは、選手として試合にも出るのか。
謎の勝ってほしさが湧いてくるな。
「えっと……この場合、実況はどなたがするんでしょうか」
「エリカ様お願いします!!」
「ええ!!」
どんなメンタルしてんだあいつ。
国の宝であるエリカに実況を丸投げしやがった。
「稚拙ではありますが、第七ブロックの注目選手を発表したいと思います」
エリカは少し戸惑いながらも進行を始める。
どうやらしっかりとカンペを用意しているようだ。
しょうがない、許してやろう。
「まずは三年Aクラスのミライ選手。凄いですね。既に騎士への推薦が決まっているそうです。いつか、共にお仕事をする機会があったらよろしくお願いしますね」
隣で獣のような声が上がる。
絶対喜んでるんだろうな、ミライってやつ。
「続きまして……あ、自分を……コ、コホン。え〜学園に咲く一輪の花、太陽の申し子、実況界のカリスマ。数多の二つ名を持つ女帝とは彼女を指す言葉。一年Cクラスの希望の星、キナコさんです」
自画自賛が過ぎる。
ある意味才能だな、これは。
「さて最後ですが……ふふ、楽しみですね」
エリカはほくそ笑む。
「最後の注目選手は、登場してからのお楽しみということで」
随分と焦らすな。
俺としてはパパッと紹介して欲しいタイプだが、まぁエリカの行動に文句はつけたくないな。
「それでは、選手の入場です」
いつものように、次々と舞台へと上がっていく選手達。
だが、他のブロックよりも殺気立つ面々。
これから本当に殺し合いでも起きるのではかと疑う程だ。
フィールド上に選手が集まり、歓声が収まる。
そして選手、観客、そして映像越しに試合を見る全ての人間が、最後の一人の登場を待つ。
「さて」
体を一気に伸ばす。
残念ながら第七ブロックにはヒロインの一人もいない、とてもお粗末な試合になるだろう。
いわば消化試合だ。
こんなものを見る人間も、参加する人も本当に可哀想で仕方がない。
「本当に残念だ」
暗闇から徐々に徐々に光が強まる。
だがそれは希望の光ではなく、地獄への片道切符である。
正に誰かさんにお似合いだな。
「頑張って下さいね」
かつて最弱であり、今もなお世界で最も嫌われる男が今
「よぉ三下共。俺様の踏み台として精々足掻いて無様に負けとけ」
ブーイングの嵐の中で盛大に登場したのだった。
◇◆◇◆
「死ねぇええええええええええでえええええええええええええええええええええ」
「お前が無様に負けんだよこの雑魚野郎が!!」
「テメェの時代はもう終わりなんだよ!!」
試合に参加する者も、観戦する者も、皆が心を一つに俺への侮辱と誹謗を言い放つ。
いや〜好き勝手言うようになったな〜。
さすがに手を出すことはないが、こうして俺への罵詈雑言は以前よりも遥かに増えた。
ザンサ、お前が消えたお陰で世界は本当により良い形になったよ。
消えてくれてありがとう。
「なんでアクトは嬉しそうなんだぞ」
「だってよルシフェル。ここにいる奴らみんながアクトを嫌っているんだ。俺は、それが本当に嬉しくて仕方がないんだ」
「むぅ、でも我は全然嬉しくないぞ」
ルシフェルは何故かご立腹だが、こんなにも沢山の仲間がいると思うと嬉しいもんだな。
ほら、選手もみんなが俺のことを今にも殺さんとばかりの目をしている。
実に愉快だ。
「さて、皆さん楽しそうですので、早速試合を始めようと思います」
「中々乗り気だな、エリカ」
まるで今からデザートでも食べるのではとばかりにテンションの高いエリカ。
何かいい事でもあったか?
まぁいい。
今は
「それでは開始まで」
エリカは指を5本突き出し
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
そして拳が握られ
「試合開始です」
戦争が幕を開けた。
「生まれて初めてモテ期がきたな」
「初めて????」
全ての切っ先が俺に向かって降り注ぐ。
おかしいな。
ユーリは言葉でみんなの視線を集めたが、俺はいるだけで攻撃の対象になっちまった。
こりゃ困ったな。
本当に困った。
何故ってそりゃ
「俺様が活躍し過ぎて困っちまうぜ!!」
「死ねアクト!!」
最初に俺へと突っ込んできたのは、さっきエリカに褒められ喜んでいたミライ。
勇ましい姿は騎士に合ってるようだが
「遅いな」
俺が剣を抜きぶつけ合うと、ミライの剣は空へと吹き飛びそのまま姿勢を崩す。
「嘘……だろ……」
ミライは絶望したように腰を抜かす。
「アクトは……アクトグレイスはZクラスにすら負けるような……」
「いつの話をしている」
何も不思議なことじゃない。
マユが言うには、アクトの体はレベルが上がらないような作りになっていた。
それがルシフェルの魔力により、無理矢理そのシステムが破壊されアクトのレベルが上がっているわけだ。
そんな状況で、俺は今までどれだけの強敵を屠ってきたことか。
ヒロインを助ける為に奔走した日々により、俺の体は今ではもう
「最強クラスなんだよ」
ミライの結界を破壊し、空へと打ち上げる。
まさかの光景に、全ての人間が呆然とする中
「カッコいいですよ〜」
ノリノリなエリカの声だけが響き渡る。
あ、いや嘘だ。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
微かに遠くからどっかの
「あんまり調子に乗ると足元を掬われるぞ」
「わーってる」
ドヤ顔で最強と言ったが、才能も努力もしている彼女達には程遠い。
魔力無しで、残りの98人を相手どれば流石に体力も技術も足りないだろう。
だが、魔力を使おうにも準決勝まで上がりたい俺としてはここで無駄な魔力は使いたくない。
だからせめて
「こいつらが大人しく倒されてくれたらなぁ」
俺の言葉に、見渡す人々が綺麗な青筋を立てる。
安い挑発に乗るもんだなぁ。
「来いよ雑魚共」
怯んでいた連中もこぞって俺を倒そうと躍起になる。
結果
「退けよ!!」
「ふざ!!お前から倒していいんだからな!!」
「少しは考えて行動してよ!!」
軽い暴動のようなものが起きる。
やはりミライとかいう奴を先に倒して正解だったな。
ユーリ戦では彼女の発破、そしてサースというリーダー、そしてネイトという攻略法が合ってこそ成りなった試合だ。
その点で、ミライとかいう奴を中心に全員が団結してしまえば流石に厳しい。
だが、こうして統制のとれていない敵であれば
「問題はない」
「お、おい!!アクトが向かってくるぞ!!」
「バカだ!!囲んで袋叩きにしてやる!!」
俺は敵陣へと一気に突っ込む。
中々広いフィールドにも関わらず、団子のように一箇所に集まり出す面々。
あまりの人の多さに魔法は撃てず、剣を振れば誰かに当たり、身動きすらまともに取れなくなる。
後は隙だらけの奴らを
「グヘッ」
「ガハっ」
「ドホッ」
個性豊かなやられ台詞を披露し、次々に退場していく選手達。
次々と倒されていく仲間達に焦りか不安か、益々動きが悪くなっていく面々。
さて、このまま順調に終わってくれればいいのだが
「皆さん落ち着いて下さい!!」
後方で大きな声が響く。
聞き覚えのある良い声だ。
「……って!!何やってんだお前!!」
「躱さないと退場ですよ!!」
キナコがデカめの魔法を放つ。
「Cクラスじゃなかったのかよ!!」
「魔力だけはいっちょ前なので!!」
俺の回避と合わせるように、皆が同時に場を離れる。
混沌としていた環境が、たったの一手で崩壊した。
「アクト様は本物です。皆さん、このまま力を合わせないと本戦へは進めませんよ!!」
大きいながらも耳辺りの良い声。
「最初に潰しとくのはあいつだったな」
皆が冷静さを取り戻す前に
「叩く」
俺は全てを無視してキナコを倒しにかかる。
「ちょ!!タイムタイム!!」
「試合にタイムなんてねぇんだよ」
一気に距離を詰める。
先程の魔法の大きさに比べ、Cクラスということはおそらく接近戦は苦手。
「さぁ、俺様の栄光への道の為に」
死ね
剣がキナコの胴体に見事に一閃を決め
「……」
「さすがアクト様です」
「お前一体……」
「もう少しだけ……ほんの少しだけ、アクト様と戯れる無礼をお許し下さい」
俺の目でも視認できない速度で剣を弾かれる。
「僭越ながら、ショーの時間を始めたいと思います」
キナコはニッコリと笑うのだった。
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