第20話 葉から鳥へ

 レイルのスキルだ。戦闘を開始した時点で、バックパックから落としたピッカリ草を目印に発動させていた。もちろん基地を出る前から打ち合わせ済みだ。

 二十メートル以上の深さだ命は無いだろう。


「それにしても、サチェル、キャラ変わりすぎだろ」

「あんちゃん!? 速く来てくれないかな!?」


 レイルが相手にしてる兵士をひとりあずかる。サチェルに傷を負わされたので、レイルによる各個撃破を行う。

 七人を引き受けていたナディンの助けに入ろうとしたが、すでに四人にまで減らしていた。


 レイル、ナディンの連携で危なげなく残りの兵士を撃破し、国外でパパトたちと合流。ナディンに背負われる俺を見て心配そうにパパトはオロオロしていた。


「やったな。あんちゃん!」

「ああ。だがもっと力をつけないとな、正直ギリギリだった」

「素晴らしいですぞ! ざっと見ても百人以上、国と呼んでも差し支えないでしょう!」

「サチェルって人と戦っていたら、僕は負けていたと思う」


 思い思いの言葉を口にしながら帰路を進む。


 しかし、サチェルの強さは異常だった。国外での戦闘経験が無く、スキル制限も知らないはずだ。

 圧倒的不利な条件であるにも関わらず、俺の速度に対応していた。

 そんなことを考えているうちに基地についた。


「転次郎殿つきましたぞ。ささ、アリシア殿から治療を──あ、わたくし呼びに行ってきます!」



「すごい……」

「本当に自由になったのね」

「もう、衛兵さんにいじめられない?」


 誘導されてきた人たちが解放を実感している。


「転次郎さん! すぐに治療します!」


 胸に受けたキズを見たアリシアは、泣きながら救急セットで治療を施してくれる。


「心配していた人間が大怪我で帰ってきたら不安になっちゃうよねぇ~」

「……転次郎くん! んがっ! ──薬草!」


 ネアも大量の草を持って出てきてくれたが、前が見えずに一回転んでいた。



 あらかた処置がすんだので、来てくれた人たちにアリシアから挨拶をしてもらう。


「アリシア。みんな不安だろうからね。ひと息つかせてあげてくれ」

「はい」


 あらかじめネアが作ってくれていたステージにアリシアが立つ。

 パパトに誘導され、ステージ前に集まった約百人を見て息をのむ。

 

「私はクク国第一王女、アリシア・ククです。────

あなたたちは川にながれる一枚の葉でした」


 ん、葉?


「流れに逆らえず、悪い流れにのって何かに引っ掛かれば朽ちるのを待つだけでした」


「……葉っぱかわいそう」


 ネアが小声で葉に同情している。


「しかし、今日からは鳥になるのです! もう選んで川から飛び出しました! あとは自らの力で飛ぶのです! 自ら考え、選ぶのです! ようこそ、自由の国ボヘミアへ!」




 ──パチ──パチパチ──パチパチパチパチパチ

 どこからともなく拍手が沸き上がる。

 いいスピーチだったよアリシア。

 

 パパトは万歳を繰り返し泣いている。

 ナディンは隅の方で剣を振り訓練をしているが、唇の端があがっている。

 ネアは『葉っぱさんに自由は……』とつぶやいている。

 レイルの姿は見当たらない。


 これからもっと人が増え、自由な発想でボヘミアは発展していくだろう。

 

 アリシアの挨拶のあと、パパトから部屋の場所や食料の場所を伝える。従う必要はないが、鳥になったと言われても、ずっと管理されてきた人々に突然全てを選ばせるのは酷だろう。最低限ここの生活方法だけは知ってもらう。後はパパトたちに任せよう。



「さて、明日から忙しくなるぞ」



 自室へ戻るなりベッドに倒れここみ、そのまま意識を手放した。

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