第21話 長女は美人な陰陽師③


「弟くんをイジメるなああああああああああっ!」


 いったい、どうしてそんな場所から現れたのか……空から落下してきた華音姉さんが両手を合わせ、鋭く叫ぶ。


「式神召喚――『桐壺、帚木、賢木、須磨、明石、澪標、絵合、薄雲、玉鬘……悪鬼羅刹を打ち払え!』 お姉ちゃんボンバアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 華音姉さんの叫びに呼応するかのように、その周囲に9つの光玉が出現した。

 光り輝く球体からレーザーのような光線が放出され、僕の周りにいた一つ目雪男に降りそそぐ。


「ど、わあああああああああああああああああああっ!?」


 周囲で爆発が生じて、雪煙が嵐のように巻きあがった。

 まるで爆心地にいるような衝撃に顔を目を閉じて防御姿勢をとるが……そんな僕の頭部を柔らかな感触が受け止める。

 覚えのある感触。まるで天国で雲のクッションに包み込まれたような極上の柔らかさ。

 恐る恐る目を開けた僕の眼前にあったのは、肌色の巨大な膨らみだった。


「大丈夫ですか、弟くん? 怪我はない?」


「…………ういっす」


 予想通り、僕の顔を包み込んでいたのは華音姉さんのおっぱいだった。

 華音姉さんはエッチな本で未亡人が着ているような黒い和服を着ており、その胸元は大きく開いている。

 腰に巻かれた帯もかなり乱れており、まるで1分間で着物に早着替えしたような有様だった。


 僕の周りには惨憺たる状況になっており、一つ目雪男がバラバラになって倒れている。

 とりあえず危機は脱したようだが……依然として、訳のわからない状況に頭が混乱の極致にあった。


「か、華音姉さん!? 何でここに!?」


 校門をくぐるや雪原に放り出され、雪男に襲われて……義理の姉が空から降ってきて助けてくれた。

 うん、わからん。

 僕の身に何が起こっているというのだろうか? ある意味では異世界に召喚された時よりも混乱している気がする。


「弟くん、事情を説明したいのは山々だけど、このままだと凍えてしまうわ。まずは避難して身体を温めましょう」


「避難って……こんな雪の真ん中でどこに……?」


「大丈夫、お姉ちゃんに任せてください! 顕現せよ――『式神結界・匂宮』!」


「おおっ!?」


 華音姉さんが何やら呪文を唱えると、雪原の真ん中にいおりのような建物が出現した。

 古めかしい佇まいの庵は小さな庭に囲まれており、そこには春の草花で覆われている。

 突風とともに押し寄せてくる雪も何故か庵の周りを避けて通っており、まるでその空間だけが周囲の景色から切り取られたようである。


「ここはいったい……」


「お姉ちゃんが張った結界だから安心してください。さあ、こっちへどうぞ」


 華音姉さんが僕の手を握り、庵の中へと引っ張っていく。

 庭に足を踏み入れる瞬間にまるで透明の膜を突き抜けたようなぬるっとした感触がして……途端に温かな空気が肌を優しく包み込んでくる。


「…………!」


 これは魔法なのだろうか?

 異世界に召喚されてから多くの不思議体験をしてきたが、こんな魔法は初めて見た。

 どうして華音姉さんがこんな術を使えるのだ。ひょっとして、僕や風夏がおかしな事態に巻き込まれていたように、華音姉さんにもとんでもない秘密があったりするのだろうか?


「中で火を焚きましょう。あったかくしないと風邪をひいてしまいますよ」


「あ、うん」


 されるがままに建物の中に連れていかれる。

 庵は6畳程度のスペースだったが、部屋の中央には炉端があって、日を起こして煮炊きができるようになっていた。


「顕現せよ――式神『篝火』」


「おおっ」


 華音姉さんが短くつぶやくと、炉端に火が点ってオレンジの明かりが庵の内部を照らす。雪原での戦いで冷え切った身体に炎から発される熱が染み込んでくる。


「これは有り難いね。生き返るみたいだ」


 僕はほっこりとした気持ちになって炉端に近づき、手をかざしてかじかんだ手を温める。

 スキルによって寒さをしのいでいたが、それでもまったく影響が出ないわけではない。こうやって温かい火に当たっていると、心を安心感で満たされるのがわかった。


 一息ついたところで自分の身体を確認してみると、寒さで凍えていた以上にダメージはない。

 一つ目雪男の攻撃は当たっていないし、自爆攻撃である『滅殺術』も発動させる前だったため、影響はなかった。


「さて……それじゃあ、落ち着いたところで話を聞かせてもらいたいな」


 僕は身体が温まってきたタイミングを見計らい、華音姉さんのほうを振り返った。


「姉さん、僕達はいったいどうしてこんなぶがあっ!?」


「どうかしましたか、弟くん?」


 後ろにいた華音姉さんのほうに顔を向けた僕であったが、予想だにしない光景を目にして奇声を発する。

 後ろにいた華音姉さんはさっきまで身に着けていた黒い和服を脱ぎ捨てており、全裸に近い格好になっていたのだ。

 ギリギリで白いパンツだけが局部を隠しているが……まさにそれをズリ下ろそうとしている最中だった。


「惜しいっ! じゃなくて、なんで脱いでるんだよ!?」


「何でって……急いでいて着物が乱れていましたし、それに雪で濡れてしまったので乾かさないと風邪をひいてしまうでしょう?」


「それは……そうかもしれないけど……」


 僕はむき出しになった華音姉さんの裸身から視線を逸らし……磁石に引きつけられたように目を戻し、それでも根性で視線を背け、やっぱり見てしまって……そんなことを何度も何度も繰り返す。

 見たら悪いとはわかっているのだが、華音姉さんの身体は相変わらずのナイスバディ。セクシーでダイナマイトな女神のような身体つきで自然と目が引きつけられてしまう。

 腰はほっそりとしているのに胸だけはスイカ並に大きく、先端の突起はまるでサクランボ。

 あの瑞々しい果実を両手に掴み、思うがままにむしゃぶりついたらどれほど満ち足りた気持ちになれるのだろうか?


「クソッ、兄貴め……よくもあのおっぱいを自由にして……!」


 人類最高峰とも言える母性の塊を目の当たりにして、亡き兄への嫉妬のあまり血の涙が出そうな心境だった。

 自分の兄がこの極上の果実を手中に収めていたと思うと、今すぐにでも仏壇の遺影を殴りつけたくなってくる。


 僕は理性を総動員させ、目の前の美女に襲いかかりたくなる衝動を堪えた。

 しかし、そんな僕の努力を踏みにじるかのように華音姉さんが追い打ちをかけてくる。


「ほらほら、弟くんも脱いでくださいな。せっかくですし、人肌で温め合いましょうか」


「なあっ!?」


「映画とかでよくあるでしょう。裸で抱き合って温め合うやつですよ? ひょっとして知りませんか?」


「知ってる。知ってるけど…………いいの?」


「良いに決まっているじゃありませんか。私達は家族なんですから。いざという時は助け合わないと」


「…………!」


 ゴクリと、自然に喉が鳴る。

 おっぱいに触る……じゃなくて、抱き着いていいと許可が出た。それも裸同士で。

 これはどんな試練だというのだろうか。それとも、ご褒美なのか?


「さあ、濡れた服を着ていたら身体が冷えちゃいますよ? 早く脱いでこっちへ来てください」


「う、ぐうっ……ううっ……」


 裸になって手招きをしてくる華音姉さん。

 プヨプヨと、タプンタプンと手の動きに合わせて巨大な双丘が上下する。

 おっぱいが揺れるたび、自分の理性がガラガラと音を立てて崩れていくのがわかった。


 もう、我慢なんてする必要ないんじゃないか?

 華音姉さんは純粋に家族愛として、僕のことを気遣っているだけ。抱き着いて暖をとるなんて、少しもイヤらしいことではない。

 華音姉さんの夫である兄貴はすでに鬼籍に入っている。浮気認定されることもないし、本人の許可を得ているのだから誰に遠慮することもない。


「う……わああああああああああああああっ!」


 僕は着ていた学生服を脱ぎ捨てて、華音さんの胸めがけて飛び込んだ。


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