第8話 何だか大ごとに

僕は鏡に映る新しい髪型を見て満足気に頷いた。うん、男っぽい。結局野村さんに見つかって自分ではそれ以上切れなかったんだけど、美容室で優しいお兄さんがかっこよく切ってくれた。


後ろはバッチリ刈り上げて、テッペンはふわふわしてるけど、おでこを出してスッキリした。髪を洗うのも楽だし、何で早く切らなかったのか不思議だ。



僕はウキウキと教室へ入っていった。クラスメイトは一瞬誰が入ってきたのか分からなかったみたいで、僕が自分の席に着いた途端凄い騒ぎになったんだ。何なの?後から来た悠太郎とミコトが僕に駆け寄って、びっくり顔でマジマジと見つめた。


「すげぇカッコいいでしょ?」


僕がニンマリして言うと、悠太郎は固まっちゃうし、ミコトは何か怖い顔してるし。え?何なの?


「何で髪切ってんの。」



え?ミコト怒ってるの?僕は何だか昨日の夕食の時の両手を上げて賛同が得られない家族の反応に似てる気がして、クスクス笑うと言った。


「髪が短い方が男っぽいでしょ。大体、何で髪長かったのか、そっちの方が謎だよ。これで女の子たちから睨まれなくて済むし。」


怖い顔した悠太郎が、僕の肩を掴んで言った。


「理玖、いじめられてたの⁉︎ 」



僕は悠太郎の剣幕にびっくりして、慌てて顔を振ると言った。


「そうじゃないよ。でも女の子みたいって言われて、それもそうだなって思って。でも切って良かったよ。すげぇさっぱり。」


最近の僕はちょっと悪い口調で喋るのがブームなんだ。そんな僕を見てミコトは肩をすくめて言った。


「悠太郎、理玖は全然自覚ないから、これ以上聞いても無駄だぞ。授業始まるから席つこうぜ。」


僕はミコトが妙な事を言うなと思ったけど、自分の首筋の刈り上げ部分を撫でると気持ちいいことを発見して、すっかりそっちに気を取られた。先生も入ってくるなりちょっとびっくりした顔をしたけど、よく似合うって言ってくれた。



そう言えば、誰もその言葉言ってくれてない。もしかして似合うと思ってるの僕だけかな?そんな事を考えつつ、いつもの様に校庭で遊んでいたら、フェンス越しに涼兄が僕を手招きしていた。涼兄の隣になんとあっくんもいた。


久しぶりに会うあっくんは随分背も伸びてたし、何ならちょっと違う人みたいに見えて、僕は気恥ずかしく思っておずおずとフェンスに近づいた。


「篤哉に理玖の事話したら、会いたいって言うから。」


涼兄はそう言うと、あっくんを残して友達のところに走っていってしまった。僕は妙に恥ずかしく感じながら、以前よりグッと大人びたあっくんの顔を見上げた。

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