【10-7】
◇
「わぁぁ、本当に美味しいですねぇ」
オピテルさんは背中の真っ白な羽をパタパタさせつつ、カボチャのコロッケを頬張りながらニコニコ笑ってくれる。普段は手掴みの食事だという彼は、それでも器用にフォークを使いこなしていた。
「特にこれが美味しいですぅ! サクサクでぇ、ふわふわでぇ、トロトロでぇ」
「そう言ってもらえると、僕も嬉しいです」
「ぼくはもっと、もーっと嬉しいですぅ!こんなに美味しい朝ごはんがいただけるなんてぇ、今日は幸せな日ですねぇ」
ウサギ天使は、カボチャコロッケもといガボンの揚げ物が非常にお気に召したらしい。その言葉に、魔王と悪魔も頷いて同意を示しつつ、彼らも黙々とコロッケを食べていた。
カボチャ──いや、ガボンは正確にはカボチャじゃないんだろうけど、味も食感もほぼ同じだから、今後も僕の中ではカボチャという認識にするとして。
これだけ生まれた世界が異なる他種族が揃っているのに、同じものを「美味しい」と感じているのは面白い。そういえば、地球──というか日本でも、カボチャが嫌いっていう人は比較的少なかった気がする。勿論、苦手な人はそれなりにいるだろうし、僕自身が他人との関わりが希薄だったから断言は出来ないけれども。でも、他の野菜に比べたら好んでいる人が多いイメージだ。
──やっぱり、ハロウィン……というより、カボチャパーティーをしてみたいなぁ。難しいだろうけど。参加者のために大量にカボチャスイーツを作るとか、大変そうだけど、作りごたえがありそう。
まさか自分が、他者と積極的に関わる機会を求める日が来るなんて。お菓子作りが目的だとしても、地球で生きていた頃の僕では考えられないことだ。これも、ひとつの成長なんだろうか。そうだといいなぁ。
──などと、僕がとりとめのないことを考えている間に皆の朝食はお皿から胃袋へと消えていき、つつがなく「ごちそうさまでした」まで到達した。
気まずいというわけではないけど会話が途絶えて沈黙が続きがちだったのは、皆それなりに緊張していたからかもしれない。
きちんと話が出来るように先に片付けたほうがいいだろうと僕が動くと、カミュもさりげなく一緒に立って手伝ってくれた。お皿を下げて洗うのをカミュが魔法でこなしてくれている間に、僕は食後のカボ茶ラテを用意する。それぞれの前に温かなカップを配り終えたところで、ジルが静かに口を開いた。
「──さて、ひと心地ついたところで、オピテルの目的である話をしようか。といっても、俺には関わりの無いことだから、この場を仕切るのはカミュに任せよう」
「承知しました。特に隠し立てすることでもありませんし、お時間をいただけるなら、ジル様とミカさんにも聞いていただいてよろしいでしょうか?」
僕とジルは揃って頷く。オピテルさんも一緒になって、うんうんと何度も頷いていた。ゆるキャラっぽくて可愛い。
「では、お話しますね。……といっても、私も多くを語れるわけではないのですが。ただ、オピテル殿が探しておられるセレーナは、私も知っています。直接的に顔見知りというほどではないのですが、私に懐いているノヴァユエという悪魔がおりまして、セレーナは彼の妹分のような存在でした」
「おやおやぁ! セレーナさんにはお兄様がいらしたのですかぁ?」
ちょっと嬉しそうに言うオピテルさんに対し、カミュは小さく首を振って見せる。
「いいえ。先にもお話した通り、我々魔の者には家族という概念がありませんし、同じ父から創られたといっても兄弟姉妹という感覚もありません。……ただ、私もまぁ大概変わり者なのでしょうが、ノヴァユエもまた変わっているというか、気に入った同族に執着する妙な癖がありまして。彼はセレーナを大変気に入っていて、自分よりずっと後に生み出された彼女の面倒を見てあげていたのですよ」
……あのノヴァユエが、他人の世話を?
一瞬、脳裏に疑問が過ぎったけれど、そういえば一度打ち解けてしまえば、彼はかなり人懐っこかったし、僕のことも色々と気に掛けてくれたっけ。意外と、面倒見がいいタイプなのかも。
僕と同様にジルも微妙な表情をしていたからか、カミュは柔らかな微苦笑を浮かべた。
「ジル様とミカさんは、駄々っ子のノヴァユエの印象が強いでしょうが、あれは年長者である私に甘えているからのものです。年少者であるセレーナに対しては、なかなかしっかりした兄らしい一面を見せていたのですよ。セレーナはあまり出来がいい子ではなくて、『父』からも見放されがちでしたのですが、割と出来のいいほうであるノヴァユエが盾になって庇ってあげたりしていたようですね」
自分の恋人を「出来が良くない」なんて言われたら、オピテルさんが怒ったりしないかなと心配になったけれど、ウサギ天使は「ああ、確かに」と言いたげに頷いている。……セレーナさんは、ちょっとドジっ子な感じの悪魔なのかな? 女性タイプの魔の者がいるというのも初めて知ったし、この話の流れは僕にとっても興味津々だ。口は挟まず黙って耳を傾けていると、カミュが深々と溜息をついた。
「まぁ、そんなわけで……、ノヴァユエはセレーナをとても可愛がっています。そんな彼が、貴方とセレーナの仲を知ったとき、『父』以上に面倒くさい状態になりそうで、正直、嫌な予感しかしないのですよ」
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