【10-2】

「カミュ……!? いつからそこに……!?」

「ああ、すみません。扉からきちんと来ればよかったのですが……、ポッポがミカさんの様子が変だと知らせてきたので、転移魔法で失礼したのです」

「ポッポが……?」


 黒い鳥のほうを見ると、ちょっとだけ申し訳なさそうな様子で「ごめんね」と言いたげな視線を向けてくる。そういえば、僕に何かがあった場合、ポッポはカミュに通知するように能力を与えられているんだっけ。寝起きの僕の様子に違和感を感じて、カミュに教えたんだろう。


「カミュも、ポッポも、あときっとクックも、心配を掛けてごめんね。久し振りにおじさんの夢を見たから、ちょっとぼーっとしちゃっただけなんだ」

「そうでしたか。……悲しくはありませんか?」

「ううん、大丈夫。悲しい夢ってわけじゃないし、大丈夫なんだけど……、ねぇ、クック、マティ様に何もお知らせした……?」


 ポッポがカミュに報告したということは、同じようにクックがお知らせの紐づけ先であるマティ様に何かを伝えた可能性もあって、そうなるとあの過保護な王子様が駆けつけかねないわけで……。

 白い鳥をじっと見つめると、クックはふるふるふるっと勢いよく首を振った。どうやら、マティ様には何も伝わっていないみたいだ。


「ミカさんが体調不良でもなく、ご気分が沈んでおられるわけでもないというのは一安心です。……ところで、ハロインとは?」


 僕のこともマティ様への伝達についても問題無いと判断したのか、カミュは自身の好奇心を追うことにしたようで、わくわくした表情でツイッと近づいてくる。間近で見つめられると、だいぶ慣れてきたとはいえ、カミュの美形さに改めてビックリしてしまう。


「ミカさん? ハロインとは何でしょう?」

「ぁ……、えっと、ハロウィンっていうのはね……、」


 ぼけっと見惚れていると、カミュが小首を傾げて促してきた。ハッと我に返った僕は、自分が持っている限りのハロウィン知識を掘り返そうとしたけれど、──そういえば、そんなに詳しくはないんだよね。


「えっとね……、ハロウィンっていうのは、僕が過ごしていた国が発祥の催しじゃなくて、他の国がやっているのを真似したっていうか取り入れたっていうか……、良いとこ取りしていたというか。元々は、とある宗教においての聖人たちに祈りを捧げる祝日の前夜祭にあたるのがハロウィンで、悪霊を退けるために作っていた小道具とか仮装とか、子どもたちにお菓子を配るとか、そういう楽しげなところだけ僕のいた国のほうでも真似して楽しんでいたんだよ」


 僕のぼんやりした説明では具体的なことは何も分からないだろうけど、それでもカミュは一応は納得したかのように頷いてくれた。


「なるほど。つまり、ミカさんは何か作りたい道具や衣装があるのですか? 楽しげな感じの……?」

「あっ、ううん、僕はそういうのじゃなくて……、あっ、でも、ジャック・オ・ランタンを作るっていうのもアリなのかなぁ」

「ジャック? どなたですか?」

「あっ、ううん、違う! えっと……、僕がなんとかしたいのはガボンなんだ」

「ガボン? ──ミカさんにとっては、カボチャですね」


 カミュもジルも僕の言葉……というか地球(日本)の言葉に合わせてくれるから、とても有難いし話しやすい。僕もこっちの世界の言葉に少しずつ慣れていこうとしているけれど、それよりも彼らがこちらに合わせてくれている部分のほうが遥かに多いんだよね。僕も、もっと頑張らないと……。

 それはさておき、──そう、ガボンの話だ。


「僕の勝手な印象ではあるんだけど、ハロウィンではパーティー……えぇっと、みんなで祝宴みたいなのをしたりして、そういうときにカボチャを使ったお菓子を多く作ったりしている感じがするんだよね。ハロウィン当日だけじゃなくて、その前後の時期ではカボチャを使った料理やお菓子がお店なんかにもよく並んでいる気がして」

「なるほど。つまりミカさんは、カボチャを使った料理やお菓子が並んだ宴を催したいと……?」

「宴じゃなくてもいいんだけど、カボチャをたくさん使ったおやつを作りたくて。……でも、あの量のガボンを使い倒すってなると結構いっぱい作ることになるし、僕たちだけで消費しきれない気がして」

「ああ……、我々の勘違いで、たくさんガボンが収穫できましたからね」


 そう言って柔らかな苦笑を浮かべたカミュだけど、次の瞬間、なぜか急に表情を引き締めて僕を背中に庇いながら窓のほうを向いて仁王立ちになった。クックとポッポも、心なしか緊張しているようだ。


「えっ、カミュ……? クックもポッポも、どうしたの……?」

「予期せぬ来訪者です。危険な相手ではないのですが……、魔王の城を直接訪れるのは違和感があるので……」

「えっ? 誰?」

「──『聖なる者』です」


 カミュが囁くように言った瞬間、窓の外で、聞いたことがない感じで羽ばたく翼の音が響いた。

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