S2-FILE018(FILE219):ついに4人目が!?
アルマジロガイストは打ち倒されたが、それとは関係なしに取り壊し中のビルが1件あった。
Eの頭文字とそれを模したロゴで知られる複合企業の本社――だったところだ。
「どういうことだ……」
目の前の現実は到底受け入れがたいものだった。
――ただし、それは驚愕と衝撃でその場に崩れ去っている彼にとっての話。
長髪でヒゲを生やした、雰囲気だけはダンディな男ではあったが、それも表情が歪んでいて台無しだ。
「ジョーンズ社長! いや……
部下か同僚または知り合いと思われるスーツ姿の女性と解体現場を見物していた、茶色いスーツの中年男がジョーンズへと声をかける。
煽るような口調で――。
「私のエイドロン・コープはどこだ? 私の、私の権威の象徴は!!」
嫌らしく嘲ってきた男に腹を立てたスティーヴン・ジョーンズは彼に突っかかり、胸倉まで掴んで鬼の形相でにらみつけ罵倒した。
少しだけ相手はおびえたが、すぐニンマリと笑ってますますジョーンズを煽る。
更に、若い女性のほうも彼に接触し出した。
「
心底嫌悪しているゆえにせせら笑う彼女も、まだ嘲笑っている彼も、どちらも元々はエイドロン・コープで働いていた者だ。
いつまでも掴まれているようなタマではなかった男性のほうは、ジョーンズを突き飛ばし、振りほどくと転倒させた。
「……おれも、もうあんたにアゴで使われずに済むってもんだ。名残惜しいからここまで見に来てやったがね、こうしちゃいられん。女房と娘を食わせていかなきゃあならん!」
「あははははははっ! あばよ!! このクソ社長!!!!」
この2人は上司と部下の関係であり、共通点はジョーンズからこき使われ、些細なことで罵声を浴びせられるなど様々な理不尽を味わわされてきたこと。
思いっきり笑って罵倒すると、女性のほうは男性とともにエイドロン社のビルの跡地から去って行く。
残ったのは、破壊されてゆく栄華の跡をむなしく見つめるスティーブン・ジョーンズのみ。
「何も、聞かされて……いないぞ……」
「はっはっはっ! 無理もあるまい」
その時である、ミリタリーコートの上からアウターを肩掛けした50代手前の男が現れたのは。
中華風なサングラスで隠れてはいるが、その目からは圧を感じさせる。
――ヘリックスの上級幹部の一角を務める、久慈川東郎だ。
「お前が一世一代であそこまで築き上げたエイドロン社だが、
久慈川は少しだけかがむと目線を合わせて、冷たい視線を向けながら皮肉な笑いを浮かべる。
余裕があったなら笑い飛ばしていたところだが、屈辱を味わわされ続けたジョーンズはいきり立つ。
「久慈川ァ!」
《グレートホワイトシャーク!》
ホオジロザメの紋章入りの白いジーンスフィアを起動して、彼はGホワイトシャークガイストへと変身し、禍々しいツルハシ型の武器・【デスピッケル】まで取り出して振りかざす!
だが久慈川はあっさりと身をかわしてしまう。
「やれやれだ。いい歳した大人が」
久慈川は呆れ気味に笑い、カマキリの紋章入りの緑がかったシルバーのジーンスフィアをひねろうとしたが、「相手と同レベルになってはいけない」という考えにより思いとどまる。
錯乱していたスティーヴン・ジョーンズもこれには逆に戸惑い、もう一度デスピッケルを振るい右肩から切り裂こうとしたところで、自然と手が止まった。
「怒るなよ! 信頼は大事だという、当たり前の話をしただけではないか」
客観的に見ても見なくとも、異様な光景である。
怪人に襲われ殺されそうになっているのに、その対象はひとかけらも恐怖も絶望もしていないのだ。
「なあに、心配することはない。お前が社屋の地下に隠していた設備も施設も、既にキュイジーネ君が転移させてくれたさ。お前にも、該当施設を基盤とした研究所の最高責任者の座を用意してある! ……もっとも? これまで通り、
「なんだとォ……? 紳士ぶった虫ケラがあ!!」
まったく動じない久慈川から威圧され、ジョーンズは仕方なく変身を解除する。
薄ら笑いしてから、久慈川は怒りで興奮状態のジョーンズの肩に手を置いてこう告げた。
「これは、お前がドリュー君を勝手に切り捨てた罰でもある。それだけのことをしでかしたのだということを自覚しろ、愚か者め!」
そうして久慈川東郎も去り、置いてけぼりにされたジョーンズは怒号を上げ地面のコンクリートを叩いた。
◆◆
あれから正気に戻った有馬志津夫は逮捕され、まずは病院へと入院し適切な治療を受けた上で刑務所へと収監されることが決まった。
また敵が現れるかもしれないが、街にはひとまず平和が戻り復興もはじまったことにより、アデリーンたちもようやく落ち着けるというものだ。
その後日――、妹たちとの勉強会を終えたアデリーンはテイラーグループの日本支社を訪ねて虎姫に会いに行く。
「アルマジロガイストとの戦闘データは受け取ってもらえて?」
最上階のVIPルームにて、アデリーンは壁にもたれて少し気取った笑顔と態度で虎姫へそう聞いてみた。
「まあね。あとは、【タイガーガイスト】こと【
「アムール……。最期までヘリックスの一員とは思えなかったわ」
その言葉は彼女にとっては愛だけでなく、敵ながら称賛と尊敬に値するある女性の名も意味する。
今でも彼女の姿がアデリーンの脳裏に焼き付いて、離れない。
――誇り高き女戦士だったのだ。
そんな光城アムールへの物思いに耽るアデリーンの顔を見て、虎姫も含みのある笑みを浮かべた。
「わたしの両親やテイラーグループの皆をはじめ、たくさんの方々に支援してもらってきたこのプロジェクトも……ついに完成を迎えようとしている。これからも支えてくれるか、アデリーン」
「そりゃ、もちろんよ」
やがて話し合いの場を、テイラーグループ日本支社の敷地内に点在する科学研究所へと移してからのことだ。
彼女は虎姫から、とあるものを紹介してもらえたのだ。
無数のミラーが置かれた実験室の中で、ガラス越しにアデリーンは目撃する。
無数のミラーに映り込んで反射している、その新たなるメタル・コンバットスーツを。
「ふふふふ、ついに世に出ようってわけね。ブレイキングタイガーとして……」
ホワイトタイガーをモチーフとする白銀色と黒のボディ。
頭部からはトラの耳を模したアンテナが伸び、バイザーに守られた鋭いカメラアイは深紅に光る。
全体的に洗練された無駄のないデザインが施されていた、その立ち姿こそは――。
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