S2-FILE005(FILE206):アルバレストをより強く
「まいど! サファリでテイクアウトさせてもらったケーキよ、みなさんでどうぞ」
「オーッ! 助かる……ありがとうございます!」
「ありがたくいただいときます! 疲れた時にはスイーツがよく効くんだよな……」
クラリティアナ邸地下の秘密基地――ではなく、世界にその名をとどろかせる複合企業【テイラーグループ】の日本支社が擁する科学研究所の一室にて。
日頃のお礼の証である差し入れと道中立ち寄ったスーパーで買った600ml入りの微糖コーヒーをお供に、アデリーンは親友にして社長令嬢の【虎姫・T・テイラー】と対談をはじめようとしているところだ。
彼女らのそばには、ミディアムヘアーをした秘書の【磯村環】や研究員の片桐たちもいる。
「アーチェリー用の弓ね、確かにカッコいいけどぉ……。なんでこんなものを?」
彼女は、テーブルの上に無造作に置かれたその弓を見て訝しがる。
定番とも言うべき、赤と白を基調としたカラーリングはある種の格好よさもあったが――。
そんなアデリーン側の事情を知ってか知らずか、いやあらかじめ知っていたからこそか、虎姫は上機嫌な素振りを見せている。
彼女の人柄を考慮するなら、アデリーンを元気づけようと気丈に振る舞っているとも受け取ることは出来た。
「それ、オリンピックで使われてたものを我が社で買い取った払い下げ品なんだけどね」
「え~出場しないわよ?」
アーチェリーの弓を元の位置に戻して、ケーキとコーヒーをたしなみながら冗談交じりに雑談を楽しむこととする。
「違うって! それを基にして、ロザリー君の使ってる弓とを組み合わせてみてほしいの!」
「ウチの末っ子は十分強いと思うけどなぁ……。まあ、持って帰って試してみるわ。ナンシーもいてくれることだし」
虎姫側のリアクションを楽しみながらも、アデリーンは今回は自力で装備の改造・開発を行なうことに決める。
これまでもテイラーグループに頼りきりではなく、自作したことは何度かあったのだ。
トートバッグに入れて、持ち替える準備をしようとしたが――。
「それじゃ悪いよ。こちらからデリバリーさせてもらうんで」
「このくらいはお安い御用です。今ならスイーツもおつけして……」
環がアーチェリーの弓を預かって、クラリティアナ邸の秘密基地と通ずる転送装置まで運ぶ旨を告げる。
今なら嬉しいおまけもついてくるらしいが、アデリーンは微笑みつつも少し困った。
「そこまでしてもらわなくてもぉ」
しかしもらえるものはもらっておく、という考えもあるのが世の中だ。
社内の喫茶店で売っている上等なケーキでもくれるというのか、あるいは駄菓子か――アデリーンは予想してみる。
◆
その頃、都内にある【ユザメホールディングス】のビルの屋上……。
その社屋はそれなりに大きな規模で、推定10階建てほどはある高さだった。
そこでゴルフの練習をしている中年の背広姿の男と、同じくスーツ姿の若者がキャディ代わりに上司に付き添い、他愛のない話をしていた。
「また世の中物騒になったもんだよな」
「帝国ガスの社員がバケモンに変身してやらかしたって話ですよね? ホントに何が起こるか、わかんなくなっちゃいましたよね」
心配性な部下とは対照的に、上司とみられる中年男性は余裕があるのか落ち着いた様子で練習に精を出している。
どの角度から打つべきか、ホールインワンを決めるためにはどう狙いをつけるべきか、どのようなコースでやることを想定して頭に叩き込むか。
上役への接待と言えども彼は、いかなる状況でも対応できるようにしておきたいのだ。
「そだなー。でも、あたしらサラリーマンはサラリーマンにしか出来んことをやるしかないわな。ディスガイストによる犯罪は恐ろしいが、お互い気を引き締めて行こうな
「
ジョークを口にした中年の係長に部下が訂正を迫った次の瞬間、なんとボールは見事に跳んだ!
場外には届かなかったものの、彼らから見れば上出来だった。
「よっしゃあ、ナイスショットぉ! これで今度の接待ゴルフも安泰だ」
「ちょっと見逃しましたがお見事でした!」
盛り上がる上司と部下、しかし――。彼らは気付いていない。
気付く
そのエイの怪人は自身と同じようにエイを模した機械的なアーマーを着込み、不気味に笑う。
「エーイ」
エイの怪人が片手をかざした瞬間、部下から係長と呼ばれていた中年男性の体は
1階の広いロビーまで落ちると床に激突して、そのまま血を流し息を引き取ったのだ。
当然ユザメホールディングスのビル内部も、野次馬が集まってきた外部も騒ぎとなるが、その張本人である怪人は背部についたジェットエンジンを勢いよく噴射して飛び去ってしまう。
「死ね……」
「なに、うっ、うわあああああああああああ!?」
惨劇はそれだけでは終わらない。今度は高速道路のサービスエリア周辺まで移動すると、走行中の車を適当に選んで手をかざし、どんな手品を使ったのか――
ドライバーをなくした車はそのまま暴走して玉突き事故を引き起こし、爆発炎上して多くの犠牲者が出てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます