S2-FILE003(FILE204):ねえ、これからどうしよう?
ロザリアがスカンクガイストとなった
行き先は無論、日本の東京、その大都会の中に建つクラリティアナ家だ。
金髪碧眼の彼女は黒髪の友人を伴い、自宅までダイナミックに帰宅しようというのだ。
「じゃあ、またどこかでね」
「お2人ともお気をつけて!」
送り迎えをしてくれたミュシアとシモーヌ、ほかのメンバーらに指2本であいさつをした2人はワープ走行を行なって日本へと帰って行った。
笑顔で見送った部下たちとは対照的に、彼らを束ねるカイルはどこか寂しげだ。
◆
東京の住宅街の一角に建つクラリティアナ邸は、家主にしてアデリーンの父である【アロンソ】の趣向が反映されたモダンな外観が目を引く、比較的裕福な家である。
家を守る西洋柵に中庭あり、観葉植物を育てるためのビニールハウスもあり、と、限られたスペースを有効活用してもいた。
駐車場にバイクを2台分停めると、アデリーンと蜜月は門をくぐって玄関に上がった。
「ただいま!」
「お帰り、アデリーン。蜂須賀さんも……?」
ダンディな風貌と装いの父・アロンソ、この母にしてあの娘ありと周囲に言わしめるほどの美女である【マーサ】、アデリーンの姉妹である【エリス】とロザリア――クラリティアナ家の一同がそろって、2人を出迎える。
そのうち、マーサが『いの一番』に察したのだ。娘とその友人と一緒に出て行った、少々情けなかったがそれなりに気概はあった元・ヘリックス幹部メンバーの男――ドリュー・デリンジャーが一緒ではないということを。
残るアロンソたちもいっせいに気付いて、気まずそうにしながらもその場は取り繕うこととする。
「……い、いや。いいのよ。落ち着いてから、ゆっくり話を聞くから」
「そうだよな、
マーサに便乗する形でアロンソが下の娘たちに確認を取るが、もちろん彼女たちも気持ちは同じだ。
うまく話しを合わせて、辛い心境の中で帰って来てくれたアデリーンと蜜月に気を遣う。
「母さん、父さんも……ありがとうございます」
靴を脱いで、手洗いもした2人はリビングに移動するが――つい先日と同じく、そこは青のりやソースのにおいが漂っている。
「すまんね、お好み焼きを作りすぎてしまって……。蜂須賀さんもどうだね」
「それじゃ~、お言葉に甘えて」
アロンソが言っていた通り、今は楽しむべきだ、そのほうが殺されたデリンジャーも浮かばれるはずだと信じて2人は前回のオコパーの続きを満喫することにした。
そう、あんな悪党のことなど
◇
辛い話題は避けつつ、雑談しながらオコパーを楽しんでいた一同は食べ終わったところでそれをお開きとした。
だが、落ち着いたところでその辛かった話をすることは避けられなかった。
それでもアロンソたちは、アデリーンとその親友・蜜月の話を聞いて真摯に向き合ったのである。
「……そうか……。あの時無理を言ってでも、僕のほうで彼を引き止めるべきだった」
確実に水を差すことになっていたことを考えれば、今このタイミングでアロンソらに話すのが正しい選択、ではあった。
しかし彼の中では、ドリューを残らせずに行かせてしまった責任が重くのしかかっていたのだ。
「いいのよ、父さん。もう過ぎたことなの。なるようにしかならないっていうし、彼もああしたかったのかもしれない」
≪ぼくにも意地ってもんがある!!≫
彼が死ぬ前に、怨嗟の叫びを上げる前に言っていたことを、彼女は回想した。
要はここで引き下がれば男がすたる、というわけだったのだ。
「ひどいことはされたけど……時間がかかってもいいから、彼にはやり直してほしかった」
おもにダーク・ロザリアがドリューをいじめる側に立ってはいたが、最後はその時の日頃の恨みを晴らさんとばかりに襲われた。
しかしロザリアとしては、彼を許すつもりでいたのだ。
もう彼はこの世にはいなくなってしまったが――。
「違うんだよ。ワタシらがもっと、あいつを手にかけたジョーンズへの対処をしっかりできていたらみんな助かってたの……」
その件で最も精神的に参っていたのは、ヘリックスに雇われていた頃にデリンジャーとしばしば絡んでいた蜜月だ。
油断して、動揺もしてさえいなければ不意打ちなど食らわずに、あの場でスティーヴン・ジョーンズの配下を倒してドリューを守れていた。
そのくらい、彼女にとって造作も無かったのだ。
「姉様?」
そう訊ねたロザリアの隣に座るエリスもあまり口には出さなかったが、思うことがないわけではなかった。
しかし、余計な口は挟むまいと気を遣ったのだ。
「ごめんね。……ロザリア1人で事件を起こしてた怪人をとっちめてたの、改めてえらいと思う! けど、危ないから頼ってほしかったな」
ここでアデリーンが流れを変えようと笑顔を作り、別の話題に移った。
これ以上は悲しい事ばかり話したくなかったからだ。
アロンソたちも「はっ」とさせられ、空気は少しずついい方向に変わろうとしている。
「アンチヘリックスの方と会談されてたんでしょ? しょうがないですって、あたしも心細かったけれどなんとかやれました」
「すっかり頼もしくなっちゃって……嬉しい」
それからしばらく、可能な限り明るい話題を続けてはいたものの、何か思うところがあったアデリーンは離席。
何か察した顔のエリスが彼女にこう問いかけた。
「どこ行っちゃうの姉さん?」
「シャワー浴びて仮眠するわ。いろいろありすぎて疲れちゃったもの」
そう答えてその通りにしようと思い立ったアデリーンだが、なぜか思いとどまり少しの間考え事をする。
代わりに何をやろうか、思いつくのにはそれほど時間はかからなかった。
「あいや待たれい……どうせ
◇
クラリティアナ邸の地下には秘密基地が点在している。
アデリーンはここにある研究室で家族の手も借りて武装や各種ガジェットの自主製作を行ない、客人のうち、ともにヘリックスと戦う同士ならばここの休憩室やモニタールームに招き、そして、後天的になったものとはいえサイボーグでもあるため、ボディメンテナンスも定期的に専用の部屋で行なっているのだ。
『メンテナンスの全シーケンス終了……お疲れ様でした』
アデリーンが一糸まとわぬ姿となって培養液で満たされたカプセルに入ってからしばらく経つと、ガラスで仕切られた向こう側で、メイド服を着たヘーゼル色の髪の助手らしき若い女性がコンソールを操作。
この基地を管理しているスーパーコンピューターも終わりのアナウンスを告げて、アデリーンはカプセルから出た。
「どうもありがとう。せっかく、
タオルで拭いて、あとは自然乾燥に任せることにしたアデリーンは上半身のみ下着姿で助手の女性がいるコンソール付近まで移動。
このメンテナンスルームの間取りは広めだ。
彼女の言葉は助手――だけでなく、スーパーコンピューターに向かっても投げかけられていた。
『アー、おほん……』
人間くさく咳払いをする女性の声が響いたかと思えば、何も言わずアデリーンの手伝いをしていた助手の口がシンクし出し、そのグリーンの瞳にも光が宿った。
「……
そう、この助手の正体は最新技術が使われた人間に近いアンドロイドだったのだ。
スーパーコンピューターの【ナンシー】が人格を転送し、作業を円滑に進めるための。
「
「ナンシーは
とぼけてみせたアデリーンは、困り顔をしているアンドロイド・ナンシーの前でいたずらに笑うと、彼女の背後に回って両手で唐突に胸を鷲づかみしたのだ!
感情に乏しそうなナンシーも、恥じらいや緊張が表情に出てしまう。
「Ah, 冗談は……およしください……」
「ナンシーのおっぱいがしっかりコアを守れているか、確かめただけよ。突然だけれど健全な喜びを味わうことを許してほしいな」
本人が述べているように、アデリーンの中にも人並みに
単に人前でやったら間違いなく怒られるし、自らも進んで流行らないことをやりたくなってしまったほど、疲れていたのかもしれないが――。
「そもそもナンシーがいけないのよ。私がメンテやるたびにデリケートなところを指摘してさ、スケベAIめ」
「お、お体のほうは問題ないのでメンタルケアのほうをしっかり……? それで大丈夫だと思われます」
「……そうね。助かるわ」
毎回毎回一言多いナンシーを逆にからかって反応を楽しみながらも、急にいつものまじめで冷静な彼女に戻ったアデリーンは、ナンシーを揉んでいた手を離して感謝の言葉を告げる。
その後、帰ってくるまでの間にロザリアが倒した敵のデータの閲覧と、協力者である【テイラーグループ】への戦闘・研究データ転送などを行なうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます