5・イヴリンのギャラリー
クレアに案内されてアヤカとジュリはイヴリンの家にやってきた。美術館と聴いていたが、外観は他の民家とあまり変わらない。ピンク色の外壁がいかにも「KAWAII」を感じさせる。
「内装は当時の状態を再現しているの。調度品のいくつかは、実際にイヴリンが使っていたものなんだって」
館内を歩きながら、クレアが得意げに解説する。ジュリは「すごーい! このソファーも二百年前のものなの?」と目を輝かせているが、アヤカは何も感じなかった。
古い調度品なら、実家にも三百年前から使われてる桐の
一行はリビング、書斎、アトリエと進んでいき、最後にギャラリーに改装された部屋へとやってきた。
「これが私の一番好きな絵だよ」
クレアが壁にかかった絵のうちの一枚を示す。石積みの城と港を描いた絵だ。
「グロリアーナ城塞……?」
「そう! 解るんだ!」
嬉しそうな様子のクレアだったが、アヤカはそこまで驚かれることでもないと思った。
アヤカを始めとして、オリーブタウンの空軍基地のパイロットはグロリアーナ城塞を離着陸の時の目印としているので、城の姿は見慣れていた。また、空軍基地がある場所は軍港だったというのも知っていたので、帆と蒸気を併用したフリゲート艦が描かれているのも不思議に思わなかった。
「クレアはグロリアーナ城塞が好きなの?」
アヤカの質問にクレアは大きく頷く。
「童話に出てくるお城みたいに、素敵な建物だよね?」
「童話? お姫様と王子様が結ばれる場所ってこと?」
「そうそう!」
クレアは途端に早口になって、イヴリンの絵とグロリアーナ城塞について雑学を披露し始める。その話の中で、アヤカは彼女がグロリアーナ城塞をずっとグロリアーナ城と言っていることに気付いた。たしかに、かつてはグラウクス王国の王族の別荘として機能していたこともあったから、そう言う意味の《城》でも間違っていないだろう。
だが、街や港の様子をよく見渡せる丘の上にあることからも解るように、あれは元々海からの攻撃に備えた軍事要塞だ。八十年前の戦争の時は、空軍基地の防衛のために高射砲の陣地にもなった場所だ。
クレアはあの城に対しておとぎ話のような印象を抱いているらしいが、アヤカは軍事施設としてのイメージの方が強い。ただ、ことさらその認識の違いを指摘して夢を壊す気も無かったので、アヤカは適当に相槌を打ってクレアの話を聞き流していた。
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