2・デートのお誘い

 翌朝には、アヤカはレストランで出会った少女のことはすっかり忘れていた。


 しかし、向こうは忘れていなかったようだ。


 アヤカが基地に出勤すると、航空団の司令から一通の手紙を渡された。司令の話によると、昨日の夕方に一人の少女が門の前にやってきて、「馬頭アヤカというパイロットに渡してください」と言って手紙を守衛に預けたそうだ。


 送り主の名前はクレア・キャロル――アヤカはレストランで出会った少女がクレアだと直感した。彼女が名前を知っているのも、フライトジャケットに縫われた名札を見たからだろう。


 手紙によれば、クレアはアヤカとデートをしたいという。その際、フライトジャケットではなく、一緒に食事をしていた少女(おそらくジュリのことだろう)に選んでもらった服を着るようにと彼女は指示していた。日にちや待ち合わせ場所はこちらが指定していいとのことで、手紙の最後にはクレアの住所が添えられていた。彼女は基地の裏手にある住宅街に住んでいるらしい。


 服装が気に入らなかったらデートをしようなんて、馬鹿げた話ではあるが、ここまでの執念はむしろ称賛に値すると思った。


 午後、スクランブル発進に備えて待機している間、アヤカはジュリに手紙のことを話してみた。


「アヤカ先輩がデートですか……」


 手紙の内容を聴かされて、ジュリの顔に影が差す。彼女の反応はアヤカには予想外だった。てっきりクレアの意味不明な行動に困惑するか、もしくは「いいですね!」と食らいついてくると思っていたのだが……


「もしかして、ヤキモチ焼いてるの?」


 アヤカの問いにジュリは頷く。


「そりゃそーですよ! 昨日いきなり話しかけてきて、デートしようなんて……アヤカ先輩は私のものなのに……」

「いや、ジュリちゃんのものになった覚えもないよ!」


 ツッコミを入れながらも、アヤカはクスクスと笑ってしまう。弟は小学校に上がるころからアヤカと距離を置くようになったので、ジュリがこんなに懐いてくれるのが嬉しかった。


「ジュリちゃんが嫌なら、行かない方が良いか……」

「いいえ。行ってください! とびきりオシャレな服を選んで、そのクレアって子がアヤカ先輩と不釣り合いだってことを証明してみせます!」

「何だか代理戦争に巻き込まれた気分……」


 アヤカが重い息を吐き出した時、待機室にサイレンが響き渡った。リラックスしていた筋肉を瞬時に緊張させ、待機室の外へ飛び出す。


 格納庫に向かって走りながら、ジュリは一瞬だけこちらを向く。


「帰ってから詳しく相談しましょう!」

「はいはい! 急ぐよ!」


 アヤカは適当に受け答えをして、格納庫に収容された自機のコクピットに乗り込む。


 エンジン始動。電力、油圧、各種コンピューター……いずれも異常なし。フラップや水平尾翼など、各動翼も正常に作動する。


 離陸前の点検を終えると、アヤカは自機を滑走路まで自走タキシングさせていった。

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