おねーちゃん

 今日は寝起きがあまり良くなかった。最近の心配事が全て解決したので安心して寝ることが出来た分疲れが出たのだ。目が覚めた私は、ここ最近の習慣になりつつあるおはようのキスをアレクシアにした。昨日はアレクシアとキスできたけどその前の二日間はできなかったからまだ少し寂しい気持ちが残っていた。


「きゃああああああ!」

「え、なに?」


 急にアレクシアが叫び出した。目の前で大声を出されたので耳が痛い。驚いた私は半開きだった目を開いた。


「あれ? お母さん?」


 目の前にいるのはお母さんだった。昨日私がお母さんと寝たのを忘れていた。今私がキスをしたのはお母さんだった。


「エマ、今のはOKの合図だな! アタシの気持ちを受け入れてくれるってことだな! 大好きだぞエマ!」


 今日もお母さんは元気だなと思っていたら、お母さんがいきなり私に馬乗りになってきた。


「お母さん重い」

「うっ」


 お母さんが重かったのでつい私は声に出してしまった。お母さんを傷付けたかった訳では無いが、お母さんは大ダメージを受けたようで掛け布団にくるまって震えている。流石に言い過ぎた。


「ん、寒い」

「あ、ごめんシュラ。起こしちゃったね。おはよう」

「おはよう」


 お母さんが三人で使っていた布団にくるまったのでシュラが寒くなって起きてしまった。シュラは起きた途端ベッドを這って私の横に来てぴったりとくっついた。尻尾も私に絡めてくる。可愛い。鈴が冷たいけれどこれくらいなら大丈夫だ。


「アタシはだめで、シュラはいいのか?」


 お母さんが完全に涙目になっている。いい年してそれでいいのか。


「シュラは体重かけてないよ。お母さんは自分の欲望のとだけじゃ無くて私の事も考えて欲しいな」

「じゃあ、こうすればいいのか?」


 お母さんが恐る恐るシュラとは逆の方から寄り添ってくる。私に体重をかけないことを意識し過ぎて触れているか触れていないか分からない。髪だけが触れてくすぐったい。


「もうちょっとくっついていいよ」

「はうっ」


 私はお母さんを抱き寄せた。するとお母さんは変な声を出して顔を赤くした。正直ちょっと可愛かった。お母さんが私にぴったりとくっつく。二人に挟まれて暖かくなってきてまた眠くなってきた。瞼が重くなってくる。


「すんすん。はぁ、いい匂い……。」


 お母さんが私の髪の匂いを嗅ぎだした。そのこと自体は良いが、表情がまずい。興奮一歩手前の顔だ。


「エマー。起きてるー? ご飯作ろー」

「あっ、うん!」


 アレクシアが良いタイミングで声をかけてくれた。私はお母さんと離れて皆で着替える。服はお母さんに用意された。断れなかった。

 着替え中はシュラに隠れて着替えたのでお母さんが暴走することは無かった。今思うとお母さんに会った日私が襲われなかったのは奇跡だ。目の前で着替えたし一緒にお風呂にも入ったのに、あれだけで済んだのはお母さんが緊張していたからだろうか、そうは見えなかったが。


「おはようアレクシア」

「うん! みんなおはよう!」


 台所に行きアレクシアと挨拶をする。キスもした。シュラとお母さんもアレクシアに挨拶を返していた。お母さんは私とアレクシアのキスを見て嫉妬していたが、今日偶然キスしていたことと、私達のキスはロリコンのお母さんにとっては興奮材料でしかないので、「尊い……」とだけ言ってそれ以上は何もしなかった。


 私達は料理を終え、朝食を食べていた。


「わたくしの仕事がありません……」


 グレースがメイドとしての仕事を取られて悲しんでいた。相変わらず表情には出ていない。でも、なんとなく悲しいような雰囲気を出している気がした。


「じゃあ、掃除と洗濯は任せるよ、今日はアレクシアの精霊の契約もあるし」

「畏まりました」


 グレースの悲しそうな雰囲気が消えた。グレースは家事好きなのだろうか。私も料理は好きだからそこは分担か一緒にさせて欲しい。グレースに交渉したところ、分担でたまに一緒にやろうということになった。


 朝食が終わり私とアレクシアとシュラは寺から出て散歩していた。グレースは掃除でお母さんもそっちに残った。私達はお姫様の家を目指していた。


「ほらそこ危ないよ、気を付けて」

「あっ、ありがとう」


 アレクシアはこの里に来てから里の雰囲気を気に入って、よく里の景色に見とれている。そのおかげで足元が危うい。だから私が注意することがたまにある。


「何かエマってお姉ちゃんみたいだよねー」

「そうかな?」


 実際私は19歳だから年上だ、姉妹だとしたら見た目は双子、中身は年の差離れた姉妹みたいな感じになるのだろうか。アレクシアだったら大歓迎だ。

 急に、アレクシアが私の顔をのぞき込んできた。


「エマおねーちゃん」

「ん゙っつ」


 やばい、変な声が出た。アレクシアが可愛すぎて我慢できなかった。変に思われてないかな。とりあえずごまかしておこう。


「よしよし、お姉ちゃんだよー」

「えへへ」


 とりあえずアレクシアの頭を撫でる。アレクシアは笑顔で私に頭を向けてきた。もっと撫でろと言いたいのだろう。私はアレクシアの髪が崩れないよう気を付けながら頭を撫でる。


「シュラも」

「はいはい」


 シュラが膝を曲げて私に頭を向けてくる。私は反対の手でシュラの頭も撫でた。そのまま家に向かう。


「ほら、着いたよ」

「お姫様―!」


 家に着いたらアレクシアが玄関のドアを叩きながらお姫様を呼んだ。シュラは相変わらず私にくっついたままだ。少ししてドアが開く。


「いらっしゃいですの」

「おはよう」


 お姫様に連れられて家のリビングに向かった。皆で中に入る。そこではお母様が洗い物をしていた。アレクシアがお母様の元に向かう。


「もう大丈夫なの?」

「ええ、あの薬を飲んで一晩寝たらすっかり良くなりましたわ。本当にありがとう」

「どういたしまして、お母様が元気になって良かった」


 お母様はもう良くなったようだ。笑顔で皿を洗っているところを見ると、私も嬉しくなる。


「今日はアレクシアの契約の日よね」

「もう相手は決まっていますの? まだならワタクシが」

「うん! ボクおじいちゃんと契約したい!」


 お姫様がアレクシアの横で固まった。

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