料理をする

「お父様、まだ試練は始まっておりませんの。よって合格もありませんの」

「そんなこと言われてものう、もう必要ないんじゃが」

「そんな、二人の手料理を楽しみにしていましたのに」


 私達は試練が始まる前に試練の合格条件を満たしてしまった。嬉しいことは嬉しいのだが、寝室で寝させてもらう代わりに美味しい料理を作るという約束が無くなってしまう。


「試練じゃなくても料理は作っていいんじゃない? おじいちゃん、別にいいよね?」

「ふむ、そもそも試練と試練の間に一日空くから今から明日にかけては休みじゃ。それまでは好きに過ごせばよい。食材も下に用意しておる」

「分かった。アレクシア、美味しいもの作るよ」

「うん!」

「楽しみにしていますの」


 料理を作ることになったので皆で一回に戻る。材料見ていないけれど、友達とは言えお姫様に出す料理なのであまり変な料理は出せない。プレッシャーを感じつつキッチンに向かう。

 食材として用意されていたのはパン、牛すね肉、ベーコン、卵、レタスやニンジン、カブなどのいくつかの野菜と調味料だった。


「二人は料理をするのは得意ですの?」

「私はよくやるから得意かな。アレクシアにも何回か食べてもらったけど美味しいって言ってくれたしね」

「エマの料理は本当に美味しいんだよ! ボクはお家のお手伝いで料理をしたことが有るけれど一人でやったことは無いよ。今日も出来ればエマのお手伝いがいいかな」

「そうですの。それではエマ、今日は何を作りますの?」

「この食材だと……牛肉のポトフとサラダかな」


 このレシピで大丈夫だろうか。お姫様にふさわしい料理と言っても具体的に思いつくものが無い。デザートならケーキとか作ればいいのだろうけどデザートの材料までは無かった。


「ワタクシも料理しているところを見てもいいですの? 今まで料理には興味が無かったけれど、お二人が料理をするところは見てみたいですの。決して邪魔はしないからお願いしますの」

「うん、いいよ。あんまり面白くないかもしれないけどね」

「そんなことはありませんの!」


 ということでお姫様もキッチンにいることになった。キッチンは広いから邪魔ということにはならないけど見られるというのも緊張する。でも、途中で味見をしてもらえるのは有難いかもしれない。好みの味じゃなかったら途中ならアレンジをできるし。

 まな板などの調理器具を用意したら早速作り始める。まずは下準備からだ。まず鍋に水を入れてお湯を沸かす。沸くのを待つ間に野菜の準備を始める。

 アレクシアにニンジンや玉ねぎの皮むきを任せ、私はレタスを洗いカブの葉を切り落とし、皮をむく。その間にお湯が沸くので鍋に卵を入れ、火を止め蓋をして火口から外して放置する。


「剥いた皮や切り落とした葉はどうするんですの?」

「全部捨てるよ」

「食べ物を捨てるんですの? 野菜への冒涜ですわ!」

「いや食べられないよ!?」

「食べ物なのに食べられないんですの?」


 そう言ってお姫様は首をかしげている。野菜には食べられる部分と食べられない部分があることを説明したら驚いていた。本当に料理したことが無いようだ。

 続いてにんじん、玉ねぎを半分に切る。アレクシアはセロリを葉と茎に分け、茎は筋を取り除き10cm幅に切る。

 新しい鍋に牛すね肉、セロリの葉の部分、塩、粗挽き黒こしょう、ローリエ、水を入れて火にかけ、沸騰したらアクを覗き、蓋をして2時間煮込む。


「とりあえずポトフはこれでいいね、あとはサラダだ」

「二人とも凄いですの。あの……ワタクシも何かやってみたいですの」

「そうだね、ミニトマト半分に切るくらいなら大丈夫かな。アレクシアお姫様に教えてあげれる? 私はベーコン切るから」

「いいよ! お姫様こっち来て」

「はいですの」


 私はベーコンを薄切りにして5mm幅に切る。お姫様は包丁を持ったこともないから包丁の持ち方から教わっている。


「お姫様、左手は猫の手だよ、こうするの」

「こ、こうですの?」

「そうそう、失敗すると指切っちゃうから気を付けないとね」

「それは怖いですの、慎重にやりますの」


 やはり包丁を初めて持つ時は緊張するものでお姫様はゆっくりとやっているようだ。その間に私はどんどんベーコンを切っていく。それにしてもミニトマト切る時に猫の手は使うのだろうか。


「じゃあ切ってみようね」

「はいですの。こうして……わっ!」

「きゃっ!」


 スポン。  べちゃ。

 ミニトマトが私のもとに飛んできた。ベーコンの上に落下し、少し入っていた切れ目から汁が飛び出してきた。ベーコンが赤く染まる。


「ごめんなさいですの、大丈夫ですの?」


 お姫様は私とベーコンを見ておろおろしている。初めての料理でのいきなりの失敗だからどうしたらいいのか分からないのだろう。


「大丈夫だよ、私とベーコンも問題ないよ」

「それならよかったですの。このトマトはどうすればいいですの?」

「普通に使っていいよ。でもミニトマトを切る時は猫の手じゃないよ。ちゃんとトマト押さえないと」

「そうだったの? ボク猫の手しか知らなかったよ、ごめんね」

「いいですのよ、これも勉強ですの」


 お姫様はまたトマトを切るのに挑戦し出した。今度はうまく切れている。私は安心してベーコン切る作業を再開した。

 ベーコンを切り終わりフライパンで炒める。


「後は盛り付けるだけだしポトフもまだ時間かかるから先お風呂入ってきてもいいよ」

「エマは一緒じゃないの?」

「私は一応鍋見ないといけないから。その代わりに食器の片付けよろしくね」

「うん、じゃあ先に入ってくるね」


 二人を見送った私はドレッシングを作りサラダを盛り付けた。その後、鍋にセロリの茎とカブを加え更に煮込み、器に盛りつけたところで二人が戻ってきた。


「只今戻りましたの」

「おかえり、ちょうどできたところだよ」

「もうできてるの? うわあ、お皿きれい」

「ここにこんな皿はありませんでしたの。どこの物ですの?」

「私が作ったんだよ、錬金術でね」


 そう、私が二人を先にお風呂に行かせたのは内緒で皿を作って驚かせたかったからだ。ここにあった皿はどれも地味でサラダを盛り付けるには少し似合わないと思ったから自分で作ることにした。


「それじゃあ食べようか」

「うん!」

「はいですの」


 三人で一緒に食事を始めた。アレクシアとお姫様が隣に座り、対面に私が座った。二人はお風呂に入っている間に更に仲良くなった様だ。そのことは嬉しいが、少し妬ける。


「とても美味しいですの」

「それは良かった。味が濃いとかは無い?」

「完璧ですの」

「エマだからね、当然だよ!」


 お姫様にもちゃんと喜んでもらえたようで安心した。アレクシアも満足そうだ。料理を喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい。

 食事を終えた私達はそれぞれ食器洗いと入浴を終え、お姫様の寝室に来ていた。外も暗くなって大分経つ、寝る時間だ。

 壁から私、アレクシア、お姫様の順でベッドに並ぶ、背の小さい順だ。


「二人とも、ぎゅ~」

「二人はいつもこうして寝ていますの?

「そうだね、アレクシアと寝るようになってからはずっとこうかな」


 と言ってもわずか数日の話だけれど。


「本当に仲がいいですの。明日はお母様に会いに行くということでよろしいですの?」

「うん! お姫様のお母様に会うの、楽しみ!」

「じゃあ明日起きるために早く寝ないとね、おやすみ」

「おやすみなさいですの」

「おやすみ~」


 最後お姫様の顔が少し暗くなった気がしたが、お姫様はもう寝てしまったので私も寝ることにした。

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