第百八話 白銀と漆黒の演舞
【午後七時五十八分】
千里 智太郎 黒曜
癒刻時計塔前 雪原にて
《千里視点》
内側に巣食う
私達と黒曜は睨み合いになった。柘榴石の瞳と、黒曜石の瞳は、虚空さえ氷漬けにして互いの時を奪い合うかのようだ。黒曜は唸るように言葉を発する。
「
「つい最近まで俺達の前に姿すら見せなかったくせに、親のような事を言うんだな。そして今更、千里を渡せと言うのか! 」
貫くような柘榴石の双眸のまま、咆哮した智太郎は、黒曜へ、花緑青の陽炎を纏わせた弾丸を撃つ! 私は胸から突き上げる衝動により、叫び出したくなる声を必死に押さえ込んだ。
「そうだ。千里を守り、愛を与えるという
黒曜の荒々しい叫びに、私は貫かれたように動けない。黒曜は黒い焔の刀を一閃させ、花緑青の弾丸を切り裂いた! 黒曜は茜色の輪郭をもつ黒い焔を纏わせ、雪原ごと焼き払うかのような焔の疾風になり、智太郎へ向かう!
智太郎は花緑青の陽炎で、肌が焼き付くような衝撃波を防ぎ疾走したが、私から距離を離されてしまう。金属音が耳を切り裂く! 一瞬、智太郎の柘榴石の双眸と視線が交わり、私の心臓は智太郎への危惧に射られて跳ねる。智太郎は目の前の黒曜が構える黒い焔の刀を、花緑青の陽炎を纏わせた右手の鉤爪で受けたままギリギリと動けずに、舌打ちする。
「その約束をしたのが、
智太郎は生じた苛立ちのまま、花緑青の陽炎を纏わせた左手の鉤爪を黒曜に奮う! 花緑青の陽炎の軌跡が掠める前に、黒曜は漆黒の翼を翻して後方に避ける!
私は何方にも傷ついて欲しく無いのに、彼らは互いを
「何故今更、俺達の前に現れた! 半不死の
黒曜は飛翔し、花緑青の弾幕を避けた! 漆黒の翼が
「千里には、人と妖の
「千里を
「生力を視る者には、訪れる
「……そして、千里の意思を否定し、同じ
「前世のお前も同じ事を私に告げた。だが結局、己穂、そして千里自身が望む願いを叶える為には、避けられない
「かつての俺、だと……? また、それも秘匿されていたって訳か。本当に嫌になるな! 」
智太郎が花緑青の弾丸を再び放ち、弾幕が漆黒の翼を襲う! しかし、黒曜は茜色の輪郭をもつ黒い焔を纏わせ、再び焔の疾風と化して智太郎へ、一閃を奮う! 黒い焔の残影に、私は背筋が氷の刃で切りつけられたように竦む。再びぶつかり合う、
「千里! お前は、人で在りたいんだろう! なら
私は智太郎の言葉に答えようと唇を開きかけるも……声を発する事が出来ない。
私は千里として人で在りたいと願うのは、結局智太郎と共に生きたいからなのだ。己穂のように私は人その物を愛している訳じゃない……!
智太郎を救う為には、その手を取ることを諦めなければ行けない。覚悟したはずなのに、鋭い刃で切り裂かれたような痛みが常に染みていく甘やかな切望は私を逡巡させる。
しかし……このまま逡巡していては、智太郎と黒曜の戦いは終わらない。私が答えを出さないせいで、二人を残酷な結末に導く訳にはいかない!
「助けが欲しいでしょ……? 千里」
智太郎に叫び返そうとした答えは、突然耳元で囁かれた、覚えのある高い男の声に奪われた。
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