第3話 旅立ち
「村を出よう」
俺のつぶやきに視聴者たちが反応して、コメントが流れていく。
【お】
【またいつもの発作?】
【今回は本当だろうね?】
【嘘じゃない?】
「いやいや、本気だよ。ようやく決心がついた」
今までに何度か村を出ようと思ったことがあった。その時は面倒になって、途中で断念したこともある。今までは何も困らない、平穏な暮らしを続けられていたから。わざわざ危険なことを行いたくない。
だけど、思った。
いい加減、生まれた村での平穏な暮らしを終わらせるべきなのだろう。このまま、この村に留まっていても人生は好転しないと気がついた。新しいことに挑戦しないといけない。
配信というチート能力があるから、貧しい村でも暮らしに不自由はない。美味しい食事も自由に用意できる。今までの生活に不満は一切なかった。
けれども、視聴者数は目に見えて減っている。このまま何も対策を立てなければ、配信で入手するポイントも減っていく。アイテムを購入するため消費するポイントが足りなくなる。それは困る。だから、何か対策を考えないといけない。
今度こそ、本気で村を出る。そして俺は、冒険者になることを決めた。
ダンジョンの攻略やモンスターの戦いは、視聴者に人気だった。視聴者数を増やすためには、視聴者が求めている内容を提供する。そのために、冒険者になるのが良いと考えた。
「それじゃあ、村から旅立つために両親を説得してくるよ」
【がんばって】
【まぁ大丈夫でしょう】
【すぐ許可は貰えそうだな】
「ということで、ちょっと行ってくる。次の配信で結果を使えるね」
一旦、配信を終わらせてから両親との話し合いに挑んだ。
冒険者になるために村から出ていく。両親にも事情を話して許可を得た。視聴者の予想した通り、簡単に許可は貰えた。
「父さん。俺、旅に出るよ」
「そうか」
父親は、あっさり一言だけ返ってきた。それで会話は終わり。何事にも関心が薄いのは、いつもの事だ。そのおかげで、難なく許可は貰えた。
「母さん。俺、トトサ村から出ていくよ」
「村を出て、どうするつもり? 旅の金は出せないよ」
「いや、お金は別に要求してないよ。大きな街に行って、冒険者になる」
「あんたが? まぁ気をつけなさい。何かあったら、すぐ村に帰ってくるのよ」
「うん」
母親も、特に引き止めることなく淡白な対応だった。好き勝手、俺の自由にさせてくれる。それが、俺と両親の関係だった。面倒が少なくて都合が良い。だけど、少し寂しい気持ちもある。
「村から出ていくらしいな? もう、村には帰ってくるなよ! あれは、長男の俺が引き継ぐ畑なんだからなっ!」
「わかってるよ。心配しなくても、村には戻るつもりはないから」
「ふんッ!」
一番上の兄は、俺が村から出ていくことを喜んだ。両親の財産を奪い取ろうとする弟が居なくなって、もう村には居場所が無いと告げてくる。
財産を奪い取るつもりは皆無だし、俺は自分の力で畑を開拓したのに。兄たちは、言うことを聞かずに一人で行動している俺のことを嫌っていた。それもあって、村を出ていくという話を聞いて喜んだのだろう。
俺も、兄弟と積極的に親しくなろうとは思わなかった。兄弟だけれど疎遠のまま、関係は冷え切っていた。
配信に集中していたから、周りの人たちとの関係を深めようとはしてこなかった。その結果、今では家族関係が良好とは言えない状況。そんな事もあって、村から出る覚悟は簡単に決まった。
すぐさま旅の準備を終えて、一人旅を始める。俺を見送るような人は誰一人として居なかった。当然か。
「それじゃあ、出発」
早朝、生まれた村から旅立つ。とても静かな旅立ちだった。
【誰も見送ってくれないのか】
【一人ぐらい見送りが居ると思ったけど予想が外れたな】
【テオの方にも原因がある。配信ばかりで村人たちと関係を深めようとしなかった】
【隠しカメラで配信してたから村人からは怖がられていたのかもね】
隠しカメラではない。俺の配信能力で出現させたカメラは、村の人達には見えないようだった。何度か村人たちの目の前で配信をしてみたこともあるけれと、カメラや配信画面について一度も質問されなかった。カメラに気づいた反応も一切ない。
そのせいで、俺が虚空に向けて独り言をぶつぶつ言っているなんて勘違いされて、村人たちから怖がられていた。あの子は変だなと、陰口を叩かれたこともある。
彼らには何も見えないから、仕方ない。わざわざ彼らに、俺の配信能力についてを説明しようとは思わなかった。まだ誰にも言っていない、秘密の能力。
とりあえず今は、過去のことは置いておく。旅のことを考えよう。
まずは、近くにある町へ向かおう。そこから馬車に乗って、王都を目指していく。王都にある冒険者ギルドで登録するため。
旅の道中の様子も配信してポイントを稼ぐ。ポイントを貯めておけば、困った時にショップでアイテムを購入することが出来る。
配信能力があるから、不安は一切無い。むしろ、新しい挑戦にワクワクしていた。これから、どんな出来事が巻き起こるのだろうか。とても楽しみだ。視聴者と一緒に楽しんでいくつもりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます