【未完】異世界配信者テオの生活

キョウキョウ

第1話 転生覚醒とチート能力

「あ」


 ある朝、目が覚めた瞬間に覚醒した。そうだ、俺は転生者だった。起き上がって、周囲を見渡す。薄暗い部屋の中に、兄弟達が並んで寝ていた。その中のひとりが俺。両親の姿は見えない。


 ここは、俺が生まれ変わった家族が住んでいる家の中だった。ここで暮らしていた記憶が蘇る。それとは別に、日本という国で生活していた頃の記憶も。


 今まで思い出せなかった、モヤモヤした気持ちで過ごしてきた毎日。それが今日、ガチッとハマった。俺は覚醒したんだ。色々、ハッキリと理解した。


「んっ」


 部屋の中が少し臭い。薄汚れた獣のようなニオイがする。俺の体臭も混ざっているのだろうけれど。風呂に入る習慣なんてない場所のようだし。今まで暮らしてきて、気になっていなかったのに。覚醒した瞬間から耐えられなくなった。


「ふぅ」


 部屋の外に出て呼吸する。まだ少しカビ臭いけど、先程よりはマシかな。しかし、子供の体は視線が低いなぁ。


「おはよう、テオ」

「あ、うん。おはよう」


 部屋を出ると、朝食の準備をしている女性が居た。か細い声に、病弱で幸薄そうな雰囲気の女性が俺の名を呼ぶ。彼女は、俺の母親だった。朝の挨拶を返すと、母親は少し怪訝な表情を浮かべた。だけど、すぐに気を取り直す。


「朝食を用意してあるから。すぐ食べて、畑仕事を手伝いに行きなさい」

「わかった」


 俺の返事を聞くと、母親は朝食の準備に戻っていった。勝手に食べて、早く仕事の手伝いに行かなければならないようだ。


「うぇ……」


 水のように薄いスープと硬いパン。今まで違和感があったけれど、覚醒した今なら分かる。この食事は、とても不味い。こんなものを食べないといけないのか。だが、食べないで残すという選択肢はない。食わないと餓死するから。


 ガジガジ、ごっくん。無心で口の中に詰め込み、よく噛んで、無理やり飲み込む。胃は膨れたが、ストレスが溜まる。美味しい物を食べたい。それは、後で。


 憂鬱な食事を終えて、家を出る。そして、父親が管理している畑に向かった。


 道中で、村人たちとすれ違った。おはよう、と簡単な挨拶だけして通過していく。誰にも呼び止められることなく、すぐ目的地に到着した。


「……」

「父さん」


 呼びかけると、父親は作業の手を止めた。そして無言で俺の顔を見る。元気のない中年男性の顔だ。すれ違った村の人達も同じような、元気の無い表情をしていた。


 この村に住んでいる人達が課せられた税金は重く、生きるのが大変だった。生きていくだけで精一杯だった。俺も、今までよく生き残れたものだ。なんとか生き残れたので、これから先は少し安心なのかもしれない。


 その前に。


「今日も、いつも通りで良いの?」

「……あぁ」


 いつものように、割り振られた仕事を処理する。まだ小さな子供でしかない俺は、労働力としては期待されていないようだ。だけど、子供を遊ばせておく余裕はない。だから、子供でも出来る簡単な仕事を任せられている。


 俺が指示された作業も簡単だった。すぐに終わらせることが出来そうで良かった。


 黙々と作業していると、兄たちもやって来た。彼らは面倒そうにしながら、仕事を手伝い始める。俺と同じように。


「父さん、終わったよ」

「……」


 俺に割り振られていた仕事が終わった。まだ昼食前という時間。今までで一番早く仕事を終わらせることが出来た。


「終わったから、この後は遊んでていいよね?」

「……あぁ。終わったのなら、勝手にしろ」


 父親の許可を貰って、畑から離れる。


「おい、テオ! お前、自分の分が終わったんなら手伝えよッ!」

「ごめんね。これから大事な用事があるから」

「はぁ? 用事だとッ?」


 一番上の兄に呼び止められたが、さっさと走って逃げる。自分の分は終わったんだから、いいだろ。


「おいッ! 待てっ!」


 確認しなければならない。兄たちの仕事を手伝っている暇なんて無い。そんな事をしていたら、1日が終わってしまう。


 そうすると、俺が新たに目覚めた能力について確認することが出来ない。それは嫌だった。




「ふぅ」


 畑から離れた場所。村の人達も用事がなければ来ないような森の中に、俺は走って来た。ここなら一人になれる。


 今朝、突然目覚めた能力について改めて確認する。


「配信する能力、か」


 意識すると、頭の中に能力の使い方について思い浮かんでくる。どんな能力なのか、どう使えば良いのか。


 それは、神様から授かったチート能力だった。俺は、能力によって配信することが出来る。配信の結果によってポイントが支給されて、入手したポイントを使うことによって自由に買い物が出来る。


 早速、試しに配信してみる。まずは、それからだ。


 目の前の空中に、撮影用のカメラが現れた。そして、配信の画面とコメント欄も。まるで、ゲームの世界のようだと思った。


 本当は、転生してチート能力を手に入れた、異世界ファンタジーのようだけど。


 どこかに繋がって、配信中の画面に俺の顔が表示された。視聴者の数が1になる。これは、俺が表示している画面の1ということかな。つまり、まだ誰にも俺の配信は見られてはいない。


「あー、えっと……。これで配信、出来てるのかな?」


 喋ってみて、手を振って、画面を確認する。そんな事を続けていると、視聴者の数が2に増えた。


「あっ!」

【はじめまして】


 コメント欄に変化があった。誰かが、コメントを書き込んでくれた。その文字が、俺の目の前に表示される。これ、本当に誰かが見ているのか。少し疑いつつ、自分の能力を信じて続ける。


「あ。えっと、はじめまして……。テオ、です」


 コメントを書き込んでくれた視聴者に向けて、自分の名前を名乗る。一瞬、別名を考えて名乗ろうと思った。だけど、そのまま本名を名乗る。面倒なので。


 何を話そうかな。自分の能力について確認するために、勢いで配信を始めてみた。だから、特に話すことも考えていなかった。


 とりあえず、自分の状況について簡単に説明してみるかな。


「この配信を始めたのは、実は今朝、配信というチート能力を手に入れたからです」


 空中に浮いているカメラを操作して、森がある方へ向ける。カメラの位置や方向は、意識すれば自由自在に動かすことが出来るようだ。


「俺は今、こんな自然豊かな村で貧しい生活を送っています」


 再び、自分の顔が配信に映るようカメラの向きを思考で動かす。視聴者の数が5に増えた。


【へぇ、すごい大自然だね】

【生活、本当に大変そう】

【木がいっぱい。空気が美味そう】


「確かに、ここの空気は美味しいですね」


 家の中は臭かったけれど。というか、配信を始める前に水浴びして体の汚れを落としておくべきだったかな。目覚めた能力について、早く確認したいから急いでいた。なので、気づかなかった。


 今から水浴びしようかと思ったけれど、止めておく。どうやら配信では、エロがNGらしい。BANされて、配信が出来なくなってしまう。そんなルールが、頭の中に刻み込まれていた。男でも、子供の半裸はダメっぽい。


「それで、まだ配信とかには慣れてなくて。今日は、とにかく思いついた事を話してみようかなと。そう思っています」


【初々しい】

【かわいい】

【どういう方向性で配信する予定なの?】


「えーっと、そうですね……」


 コメントに質問されて、なんと答えるべきか悩む。正直に言うと、まだ何も考えていないから。今朝、この能力に目覚めたばかりだから。


 でも、俺が配信でやれることは限られているよな。今だと、俺が村で生活している様子を配信で垂れ流す。それぐらいしか思いつかない。


「どんな配信をするのか。それは追々、考えていきます」


【ものすごい思いつきで配信を始めたんですね】

【すごい度胸だ】

【配信するなら、もう少し考えるべきじゃ……】

【心配です】


「うっ……」


 コメントの指摘に、俺はうめき声を漏らしてしまう。その通りだと思ったから。


 ただ、視聴者の数は徐々に増えている。今は11人が配信を見ているらしい。このまま数が増えて、どんどんコメントを書き込んでほしい。


 その結果によって、俺はポイントを入手することが出来るらしいから。


「とりあえず、話を戻して。俺の住んでいる村は、100人ほど暮らしていて……。村の近くに、そこそこ大きい町もあって……。時々、商人とか村に立ち寄って……。それから……」




 俺の今の生活や状況について視聴者に話してみたり、今後の配信の方針や内容など考えてみたり、コメントとやり取りした。そうしているうちに、かなりの時間が経過していた。


「あ。じゃあ、そろそろ配信を止めるね」


【はーい】

【初配信、お疲れ様】

【次の配信を楽しみに待ってる】

【それじゃね】


 配信を止める。すると、配信の結果が画面に表示された。


 配信時間は、1時間32分44秒。

 瞬間最高視聴者数は、39人。

 瞬間最高コメント速度は、2コメント/分。


 今回の配信の結果、355ポイントを入手しました。


 この結果が良いのか悪いのか、まだ俺には分からない。だけど、無事にポイントを入手することが出来た。早速、そのポイントを使って何か購入してみる。


 画面を操作して、ショップのページを確認する。膨大な数のアイテムが、ズラリと並んでいた。検索して、欲しいアイテムを探し出すことも出来るようだ。


 画面を操作して、俺は欲しいをアイテムを見つけ出して購入した。


 鮭おにぎり、98ポイント。購入します。


「おお!」


 目の前に、コンビニで売っている鮭おにぎりが出現した。手に取り、包装フィルムをはがして食らう。


「う、うめぇ……」


 パリパリした海苔に、塩味と米に鮭。口にした瞬間、涙が出るほど美味しかった。


 最初に購入するものが、こんなもので良かったのか。そう思ったが、食べた瞬間に後悔は消え去った。美味しい食事は、一番に大事なんだ。


 大体、能力の使い方について理解した。俺は、この配信する能力を駆使してもっと豊かな暮らしを目指す。そのために、能力を使って配信していこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る