第2話 日常の配信風景

「皆様、こんにちは。トトサ村の住人テオです。本日も作業配信を始めていきます」


 いつものように俺は、空中に浮かんでいるカメラに向けて配信開始の挨拶をする。そして、カメラの横に表示されている画面を確認した。


 現在の視聴者の数は121人。配信を開始したばかりだけど、それなりに集まっているようだ。コメントも、ちょこちょこ流れているのが見える。これから、少しずつ視聴者が集まってくるはず。


 覚醒してから10年の月日が経っていた。この10年で、配信にも十分に慣れた。まだまだ視聴者の数は少なく、面白い配信が出来ているのか不安になることも多い。けれど、配信を毎日のように行っていた。そして、ポイントをガンガン稼いでいる。


【おっ、始まった】

【こん】

【こん】

【今、どんな感じ?】

【こんにちは】

【待ってた!】


「見えてる? じゃあ早速、本日の作業を始めていきますね」


 カメラに向かってそう言ってから、俺は農作業の道具を手に取って作業を始める。配信で貯めたポイントで購入した特別な道具だ。


 俺が作っている最中の畑。余計な雑草を刈ったり、育てている作物が虫に食われていないか入念にチェックするのだ。その様子をカメラで撮影して配信に乗せる。


 俺は、農作業に集中する。時々、コメントの内容をチェックしながら。


【今日も晩酌しながら見てるよ】

【作業は昨日の続きかな?】

【チューハイ?】

【今日は、何の作業から始めるのかな】

【いや、日本酒】

【うまそー】

【おれも飲も】

【育ててる野菜、見せてよ!】


「うん。育てている作物は、こんな感じかな」


 コメントに反応して、カメラの位置を操作して畑全体を見えるようにする。立派に育った作物が画面に映し出された。これで、俺の作った畑の状況が見えるはずだ。


【美味しそう】

【立派な野菜が育ってる】

【凄いな】

【そこの畝は、もうちょっと間隔を狭めても大丈夫そうだけどね】


 色々な人達が、この配信を見ているようだ。時々、アドバイスを頂くこともある。有用なものから、無価値なものなど色々と。そのコメントの選別は、ちょっと大変。良いコメントを見極められるように、判断していく。


「なるほど、ありがとう。次に作物を植える時、色々と調整が必要そうだ」


 視聴者数の増減とコメントの内容を随時チェックしながら、農作業を続けていく。この畑には、俺と視聴者しか居ないので集中できる。


「ん?」


 その時、危険を察知した。遠くの方から何かが迫ってくる。この気配は。


【どうした?】

【あっ】

【またか】

【キタキタ!】

【戦闘だっ!】


 俺は農作業の手を止めると、危険を感じた方に向いて様子を確認する。木々の間に隠れるようにして立っている緑色の何かが迫ってきていた。なかなかのスピードだ。あれは、対処しないといけない。


「モンスターが接近してくるね。畑を荒らされないように戦いの準備を始めようか」


 今の世界には、モンスターや魔法が存在している。アレを放置すると、俺が大事に育ててきた畑が荒らされてしまうだろう。それだけでなく、村まで襲いに行く可能性がある。なので、ここで止めておかないと。


【おおおお!】

【戦闘する様子が見れるのか!】

【楽しみッ!】


 盛り上がるコメント欄。農作業の道具から武器に持ち替える。長い柄に先の尖った刃が付いた武器。突き刺して使用する長柄武器の槍だ。前回襲ってきたモンスターは剣で倒したので、今回はコッチで戦う。武器や戦い方を帰ることで、配信を見ている視聴者を飽きさせないようにする。


 視聴者数を確認すると、1,109人が配信を見ているようだった。今までの経験から予想すると、この後に視聴者が2倍ぐらいに増えそうだ。俺がモンスターと戦う様子は、配信で人気のコンテンツだった。


【長っ!】

【おっ、今回は槍での戦いか!】

【戦い方、練習していたもんね】

【身長と同じぐらいある?】

【武器は剣じゃないの?】

【いやいや、この槍の戦いも見応えありそうだよ】

【大きく振り回して、モンスターなんて寄せ付けないで!】

【せっかく育ててきた畑だ。モンスターなんかに好き勝手させるな】

【へぇ、面白そう】


「俺の身長が低いとか言わない! それから槍での戦いはまだ練習中だから、ここで失敗しても大目に見てくれ」


 確かに、この槍は俺の背丈よりも大きい。こんなに長い武器を振り回すだけでも、筋力が必要だろう。けれど、ちゃんと鍛えているので問題ない。戦える。


 ちなみに、俺の身長は子供にしては大きい方のはず。村で暮らしている子供たちの中では一番に背が大きい。十分に成長していた。美味しいものを食べて栄養をとり、ちゃんと運動もしているから。日々、ぐんぐんと成長している。


【誰も身長が低いとか言ってないよwwwwww】

【つまり、それって気にしてる……】

【って、こと!?】

【可哀想に。まだ子供だから、諦めるんじゃないぞ】

【小さいのは子供だから、仕方ないね】

【そうそう、成長期だからさ】

【俺も、子供の時は一緒ぐらいの身長だったし】

【まだ諦める時間じゃないぞ】

【そのコメントが、彼を傷つけるッ!】


「ええい! もういいから、戦うよ!」


【がんばれー】

【ガンバレー】

【負けるなー】

【フレーフレー】


 そんな配信コメントの雰囲気を楽しみながら、俺はモンスターとの戦いに備えた。武器だけで、防具は必要ない。攻撃を受ける前に仕留める。畑に入ってくるのを阻止するため、俺は少し前に出る。森の中に立ち入る。


 視界に見える5体のモンスター以外は、他に気配は無さそう。前方に槍を構えて、モンスターとの戦いが始まった。


「ふっ!」


 ギャウッ!?


 一番前を走っていた狼型のモンスターをターゲットに定めて、まずは突き刺した。接近すら許さずに、一体を倒し切ることに成功。


 ギギャッ!?


 突き刺した槍をモンスターの体から引き抜くと、断末魔を上げて地面に倒れる敵のモンスター。血が流れる映像が配信に乗る。だけど問題ない。何故なのか、グロ系の映像は規制されていない。エロ系に比べて、配信のルールが緩かった。モンスターと戦う様子を映像に乗せても、BANされて配信が出来なくなる、なんて心配も無い。


 これは駄目と規制されていたら、配信するコンテンツが減って困っていたと思う。なので俺は、モンスターとの戦いを配信することを許されて助かっていた。


【おお! 素晴らしい一突き!】

【見えなかった!】

【すごい速さ!】

【まず1体!】

【油断せずに、いこう!】

【ほぼ即死だ】

【グロっ!】

【耐性ない人は注意して、視聴を止める選択も】

【槍は練習中らしいけど、十分に戦えてるじゃん】

【余裕、余裕!】


 残り4体のモンスターが危険を感じて、立ち止まる。前傾姿勢で唸り声を上げた。攻撃する機会を狙ってきているようだ。俺が気を抜けば、飛びかかってくるだろう。敵モンスターの攻撃を待つ必要はないので、今度は俺から仕掛ける。


「ふっ! はっ! とう!」


 下段に構えていた槍を振り上げながら、横に薙ぐ。木々に当たらないよう注意して回転させつつ、連続で敵を狙って攻撃した。練習してきた成果を、ここで披露する。とはいえ、森の中で槍を使って戦うのは選択ミスかな。少し戦いづらい。


 ギャイン! グゥゥゥ! ギャウス! ギギャッ!


「ふぅ」


 戦いづらくても、敵のモンスターは倒せた。特に苦戦することもなく。


【スゲェ!】

【お見事!】

【敵の全滅を確認!】

【倒したッ!】

【秒殺じゃん】

【俺だったら、逆に殺られてたね】

【自慢することじゃねー】

【奇襲は? まだ周辺に潜んでるかもよ】


「おそらく、敵は全部倒したかな。周辺に他の気配は無いから安全だよ」


 振り回した槍を止めると、地面に5体のモンスターの死体が転がっていた。戦闘で怪我もせず、全ての敵を倒し切ることに成功した。ちょっと簡単に倒しすぎたかな。もう少し配信のために、戦いを演出するべきだったかもしれない。


 視聴者数を見ると、2,091人。戦闘が終わってから、徐々に減っている。


 ただ、そんなに強い敵でもなかった。なので下手な演技をして、舐めプをしているようなことがバレたら視聴者が一気に離れていたかもしれない。なので、別にこれで良いのか。


 ちょっとした反省をしている間に、俺が倒したモンスターが光の粒になって消えていった。それは、よく見る現象だった。


「おっと。モンスターの死体が光の粒になった。つまり奴ら、この近くのダンジョンから溢れ出てきたモンスターだったようだ」


【ダンジョン!】

【お。ということは、またダンジョン攻略かな?】

【うわ。楽しみ】

【ダンジョンの攻略してるのを見るのが、一番面白い】

【私は農作業する様子を見るのが好きだけど】

【俺は料理して食事する様子を見るのが楽しみだな】

【淡々と訓練してるのを見続けるのも面白いよ】

【訓練配信は虚無すぎるよ】

【ただ鍛えているだけ、だからね】

【好みは人それぞれ。色々とあるさ】


「モンスターが溢れ出てくるほどのダンジョンを放置するわけにもいかないからさ、近いうちに攻略するよ。また予定を決めたら配信で知らせるね」


 ダンジョンを攻略して最奥まで到達したら、ダンジョン内でのモンスターの生成をストップさせることが出来る。つまり、今回のようにダンジョン内から溢れ出てくることがなくなる。


 知らぬ間にダンジョンが活性化して、再びモンスターが増えることもよくあることだけど。


 また、近所にあるダンジョンのモンスター生成を停止させに行かないと。


【わーい】

【ダンジョン攻略楽しみ】

【待ってる】

【うわ、待ち遠しい。早めに頼む】


 ダンジョンの攻略も、視聴者が求める人気コンテンツの一つである。これでまた、ポイントを稼ぐことが出来そうだ。


「とりあえず今日の配信は、畑作業の続きでも」


 戦闘を終えた俺は再び農作業に戻り、コメントと会話しながら作業を進めていく。しばらく配信を続けた。


「うん。それじゃあ、今日の農作業配信はここまでにしようかな」


 そろそろ、良い時間になった。今日の配信を終えようかなと思って、視聴者に話しかける。コメントで、お疲れ様と配信終了を残念がる言葉が書き込まれていく。


【もう、終わり?】

【もっと見たかった】

【今日も大変だったでしょ。ゆっくり休んで】

【お疲れ様】

【楽しかった】

【旨い酒が飲めたよ】

【次の配信予定は?】


「次は、訓練の様子を配信しようかなぁ。うーん。じゃあ気が向いたら、夕方か夜に配信をする予定。配信しなかったら、また明日ということで」


 この後の予定を考えながら、次の配信について告知しておく。あまり細かく予定を決めずに、気が向いたらという気楽さで配信している。視聴者も俺の性格を把握しているので、詳しく予定を聞かないで受け入れる。


【りょうかい】

【待機しておく】

【じゃあね】

【待ってる】

【おつ】


「配信見てくれて、ありがとう。また次の配信で」


 視聴者に別れを告げて配信を閉じる。配信内容が評価されて、入手したポイントが表示された。


「さて。今日の結果は、っと」


配信時間は、3時間32分44秒。

瞬間最高視聴者数は2,229人。

瞬間最高コメント速度は、162コメント/分。


 そして今日の配信で獲得したポイントの数は7,292ポイント。まぁまぁの稼ぎだろう。悪くないかな。


 この入手したポイントを使って、色々と購入することが出来る。今日は何を買おうかな。それとも、入手したポイントは貯金しておくか。悩ましい選択だ。


 とりあえず、今日も美味しい飯を食べて次の配信に備えよう。俺は、食品が並んだショップページを見ながら、少し遅い昼食を選び始めた。

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