第30話 修正【完】
「はー」
俺は自分の学校の机に突っ伏していた。
愛海の事1番知っている自負はあるが、隠し事を察する事も出来なかったのか。
一体どれだけの苦労を背負っていたのか。
兄として不甲斐ない。
「何があったんだよ」
神威が話し掛けてくれる。
「俺は兄としてダメだなって思って」
「そんなの今更だろ? 遊んでやる事もしないでバイト三昧」
ごふ。一針が刺さった。
「休日は朝早くから夜遅くまでバイトして姿を見せる事もあまりしない」
がは。二針目が刺さった。
「それで兄としてきちんと妹の事を理解してますって言われて、誰が信じるんだよ。今更だよ、お前が兄としてダメなのは」
トドメが刺さった。
そこまで言う必要あるか?
結構悲しいんだぜ俺?
「そうだな。雪姫さんのお陰で大分余裕が出来ているし、愛海達にこれまでのお礼をするか」
「ああ。それが良いよ」
そして土曜日。
今日はお客さんが来ており、麻美さんがたじろいでいたところを見ると、西園寺家絡みか。
「ふむ? 貴様が伊集院拓海か」
指を刺しながら変わったポーズを取りながら言ってくる。
「はい」
急に呼ばれたからなんだと思ったら、まじでなんだよ。
「貴様、我が愛する妹の雪姫の彼氏らしいな!」
「ま、一応」
「今すぐ別れろ。そして死ねぇ!」
いや、なんでだよ!
この意味不明な流れはとても懐かしく感じる俺の気持ち!
確かにこいつは西園寺の兄だな絶対に!
髪色とか似てないけど、なんか雰囲気が同じだ。
「お断りします」
「だが断る! 貴様に我の力を見せてやろう!」
一体何を!
西園寺兄は懐から沢山の紙を取り出して俺に投げて来る。
それを1枚取って見ると、そこには赤ちゃんの写真があった。
他にも小学生の写真。髪色やこの小さな体でも分かる目付き的に西園寺雪姫か!
「分かるか! この我こそが、この世で1番! 1番! 雪姫の事を心から愛している!」
おーけー、理解した。
俺の順応能力はここの生活で大分強化されているのだ。
シスコン、しかもかなり拗らせた。
「誰よりも雪姫の事を理解して、誰よりも長く雪姫を見て来た」
兄だしね。そりゃあね。
しかし、理解って部分で俺の中で何かがムスッと感じる。
なんだろうな、これ。
「分かるかガキ」
何がだよ!
「なんですか?」
「お前に雪姫は釣り合わない」
⋯⋯んなもん知っとるは。
「もう一度言おう、我は雪姫をこの世で1番誰よりも詳しくて誰よりも愛しているんだ! そして、そんな可愛い可愛い大切の俺の女に何処ぞの馬の骨とも知らないガキが彼氏と成ったと聞いてウルグアイから飛んで来たのだ!」
あっそ!
しかもなんだよ『女』って! 妹ちゃうんか!
あーもうツッコミ所多すぎだろこの兄貴。
「取り敢えず別れろ、そして一緒の家に住んだ罪を深く反省して切腹して苦しんだ上で死ね」
「お断りします。それに、どうしてそれを貴方に決められないといけないんですか」
「それは決まっているだろ。西園寺財閥の次期当主、そして雪姫の次期旦那!」
「兄だろ。時期何も関係ない兄だろ。紛うことなきお兄さんだろ」
「お前に兄と呼ばれる日は永遠に来ない! 兄と呼ぶなクソガキがあああ!」
「じゃあ名前なんだよ!」
「我は西園寺
分かるか!
「分かる訳ないだろ!」
「仕方ないな。我は雪姫の体の隅から隅まで知っている! 知っているか、雪姫は右足の裏にホクロがある!」
「手術で摘出してるよ」
「雪姫の左目は一重だ!」
「二重だよ!」
「雪姫の好みの色は紫色だ!」
「水色だよ!」
「雪姫の好きな男はこの俺だ!」
「それはお前の望む雪姫さんだろ!」
「ふん。なかなかやるな」
「何を基準に決めてんだよ」
全く。
こいつは、あれか? 俺が嫌いなのか?
「ああ、嫌いだぞ」
エスパーか!
「好きでも無い相手に流されるままに一緒に住んで、しかもそれに身を任せて怠惰を張り、努力を止め妹達と共に雪姫の下に付いたお前をな」
「ッ!」
「雪姫が何回お前の事を好きだと言っても、お前は雪姫の事を好きだと言ったか? そう思ったか? そんな相手に対してこんな行動をする雪姫は傍から見てたら滑稽なんだよ。嫌なんだよ。雪姫が悲しむ顔を見るのは! だから別れろ。好きなだけ金はやる。お前らが苦労しないだけの金、そして住処をやる。職もやろう。だから、お前のその不純な気持ちで雪姫に近づくのは止めろ!」
「⋯⋯」
「俺は雪姫を愛している! 結婚して子供も欲しい程に愛している! だからこそ、もう俺は迷わない。雪姫を2度も泣かす事はしない! 貴様を好いてくれる人は居るだろ! 雪姫じゃなくていい筈だ! お前は雪姫の金にしか興味がないのだからな!」
「ちが」
「くない! ならお前は雪姫に何をしてやった? バイトは全部妹の為、この屋敷の掃除は雪姫の為じゃない。雪姫に何をした? 妹の事を解決したのは雪姫だろ? お前は雪姫にどんな感情がある。
そうか、こいつはそれを言いに来たのか。
こいつは歪んだ愛を持っているかと思った。
しかし、違うんだ。
何処と無く俺と同じだ。
過去に同じような失敗をして、二度と起きないようにしている。
まてよ。なんで俺はそれを言い切れるんだ。
どうして、1度西園寺が泣いていると知っているんだ。
二度と言ったから一度は泣いたと言う事⋯⋯違う。
何かが根本的に違う。
俺はこいつがどうしてここまでするのかが、その根本的な理由が分かる筈だ。
「お前は雪姫の事をどう思っている?」
「俺は!」
俺は! 俺はなんだ。
俺は西園寺に対してどんな感情を抱いている?
大切? ああ、大切だ。
今、愛海達の笑顔があるのは西園寺のお陰だからな。
違う。これはあくまで感謝、恩人としてだ。
俺は、西園寺に対してなんの感情も抱いてないのか。
「ふん。答えは出たな。さっさと荷物をまとめろ。雪姫の事を利用する事しか考えてないお前を雪姫の傍にはおけない。雪姫は我が幸せにする」
なんで、何も言えないだよ。
それが事実だからか?
それが本当の事だからか?
違う。違うんだ。
何かが。俺はこいつの言ってる事を否定したい。
なのに出来ない。なんで! なんでここまでイラつくんだよ。
コイツの言っている事は事実だ。
確かに、俺は雪姫に対して何も言ってないし何もやれてない。
しかし、雪姫に対する感情が無いなんてない!
雪姫、確かに最初は強引だったし引いたさ。
だが、それ含めて俺は雪姫の事が⋯⋯。
「雪鷹様! 拓海様!」
「なんだ麻美! 今このガキと⋯⋯」
「お嬢様が、GPSやスマホを置いて出て行かれました!」
「ッ!」
その瞬間、俺と雪鷹は走り出した。
雪姫、俺は言わないといけない。
そうか、俺は雪姫の事が好きなんだ。
この思いは、最初に雪姫に言わないと意味が無い。
あの日に誓ったんだ。全部、思い出したんだ。
思い出した大切な日。忘れないように毎日毎日同じ事を日記に書いて忘れないようにしていたあの日々を。
雪ちゃん。俺は君の─────になるって、約束したんだ!
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