第20話 修正【完】
私は麻美、西園寺家に仕える西園寺雪姫お嬢様の専属メイドで側近です。
雪姫様は幼い頃からやりたい事があると、やるまで駄々を捏ねる困った子でした。
旦那様はそれを満足にやらせ、習い事でもある程度の成績を残すと飽きて止めるのが雪姫様でした。
いつからでしょうか。
急に「乙女心を学ぶわ」と言ったのわ。
最初は「あぁ、また頭のおかしい事を」と思っていました。
花嫁修行の事諸々、ある程度やったら飽きる、そう思っていました。
だけど、数年経った今でも続けています。
これは私含め、雪姫様に仕える全ての人が驚いていました。
本当に頭がイカれたと思ってしまいました。
しかし、雪姫様は育つに連れて感情と欲が薄れて、あまり話さない人になってしまいました。
ま、それだけが理由では無い⋯⋯寧ろ本当の理由があるとは思うんですけどね。
あまり思い出したくもない事ですが。
そして、最近の雪姫様は乙女になりました。
なんだか昔の雪姫様に戻ったようで、私含め使用人達はとても嬉しく感じています。
それが長年の想い人らしい伊集院拓海と言うどこぞの馬の骨とも知らない男を12年間お試しの恋人になったようでした。
まじで意味不。なんだよ12年間のお試しで付き合って。それを了承する男もアホだと思う。
伊集院拓海様の戸籍の住所を変更し、荷物を運び出し、引越しさせました。
雪姫様は毎日幸せそうにしています。
他の人から見たら分かり難いかもしれませんが、雪姫様の歩く時に少し上がる高さが2ミリ上がっているのです。
笑顔も増えました。
相変わず、美味しい料理にアルティメットクラスの無駄な一手間を加えてゴミにしているのはとても愛くるしいです。
それでも拓海様は美味いと言います。
世辞ではなく、本心から。
少しは見所があるかもしれません。
最近私に雪姫様が構ってくれません。
なので、旦那様にも言われたのを口実に、拓海様に日頃の恨みも込めて厳しく婿修行をさせました。
人との関わり方、食事のマナーなどなど。
すぐに覚えてちょっとムカつきました。
いえ、ちょっとではなくかなり、ですね。
しかし、大黒柱と言うよりも、執事の方が近い気がします。
そして、今日旦那様からとある一通の電話が来ました。
丁度食器洗いをしていて、手に食器を持っていました。
私は初めてミスをしました。
食器を落としてしまったのです。
この言葉によって。
『桜井財閥の令嬢2人がそっちに住む事になったからよろしく〜名前は凛桜と愛桜でな。2人とも雪姫と同い年だ。世話、頼んだ』
「⋯⋯はい」
噂で良く聞きます。
クレイジーピンクデーモン、
桜井財閥の長女で桜井財閥の当主をも縮こまらせる程のモンスター。そして、相手の目を見る事で奥底に眠る『感情』を読み取る超人。
「麻美様、どうかしましたか?」
ギャルっぽいメイドの1人が私のミスに驚いて、話しかけて来ます。
私はメイド長、この屋敷の使用人達の基本は私よりも下。
「⋯⋯片付けを頼めるかしら?」
「そらは、構いませんが」
「ちょっと、皆さんを集めて来ます」
「え、はい。(何があったんだろう? 失恋?)」
部屋、余ってある⋯⋯わね。
拓海様や雪姫様に報告しておきましょう。
「お嬢様」
「なに?」
「新たな同居人が来ます」
紅茶を一口啜る雪姫様。
紅茶を置き、私に顔を向ける。
「麻美が冗談を言うなんて珍しいわね」
「悲しい事に冗談ではなく、旦那様からのお通知です」
「で、誰?」
「桜井財閥の凛桜様と愛桜様です」
「一体誰よ!」
雪姫様、大きな財閥同士、せめて名前はご存知であって欲しかったです。
次に拓海様です。
「実は、新たな同居人が」
「愛桜さんと凛桜さんですか?」
「ご存知の通りです」
「どうしてこうなったんでしょうか?」
「一常人の私には分かりかねます」
「ですよねー。どうしてこうなった」
私も思います。一緒に思いましょう。
スウゥゥゥ──どうしてこうなった!
◇
翌日、玄関に行くと、ピンク髪の2人の女の子が居る。
「貴女方でしたか。桜井と言う人達は」
「そうです。西園寺雪姫さん、これからよろしくね。伊集院君もこれからよろしく!」
西園寺が俺の腕に絡みつく。さらに愛海も。
「拓海君は私の彼氏ですのであまりベタベタしないでください。同じ空気を吸わないでください。視界に入れないでください」
「ルームメイトとして仲良くするだけだよ」
「ほんとですか?」
「ほんとーほんとー」
「姉貴、目が⋯⋯なんでもないです。その、皆さん。姉貴の暴走でこうなってしまいました。よろしくお願いします。すみませんでした!」
愛桜はとても大変な子だと、俺はこの時に再確認した。
そのまま学園に行くと、当然目立っていた。
右腕に絡みつく西園寺、その逆には凛桜が絡みついて来る。
「あの! 拓海君から5メートル離れてくれませんか」
「友達だし、ごんぐらい良いでしょ〜?」
「あの、俺の事も考えて」
周りの怒りのオーラをきちんと見てください。
分からない? そっか分からないかー。
新たな目を交換してくれる所を探してみようかな?
後ろには神威と愛桜が並んで歩いている。
「これは良いネタが。噂のカップル、男が何と二股。先輩入れたら三股!」
「ガセにも程があるだろ」
「神凪さん。いい情報他にもありませんか?」
「無いよ」
「親友なのに全然知ってませんね」
「最近アイツ付き合い悪いよ」
「理由は分かってますよね」
「そうだな」
「中学からの馴染みだと聞いておりますが、その頃の事を聞いても?」
「悪いが、それだけは絶対に言わない」
「目がガチっすね」
最新、俺は一人の時間が無い気がする。
あ、目の前に相葉が出現した。
「や、
「相葉さん、おはようございます」
「「⋯⋯ッ! 拓海君(伊集院君)!」」
「そこでなんで俺を見る。痛い痛い関節曲げないで」
「拓海君、両手に花だね〜」
「見てないで止めてくれませんか?」
「いーや。だったら私はここかな!」
そう言って後ろに周り、抱き着いて来る。
「「ッ!(キッ)」」
西園寺と凛桜が相葉をキッと睨む。
「あぁー私、『この2人』と違って大きいから抱きつきにくい〜」
な、何言ってんのこの人!
痛い! 普通に折れる! 折れるから、ドードー西園寺アンド凛桜!
「わ、私着痩せするタイプだし!」
珍しいな西園寺が敬語使わないなんて。もしかして焦ってる? そして痛い止めて。
「わ、私普通に大きいし! ブラキツめにしてるだけだし!」
「姉貴ー他の男の耳があるから控えろー」
凛桜の事あんまり知らないけど恥ずかしげもなく良く言えるな! それと痛い止めて。
「私もキツめだ、か、ら?」
煽るの止めて相葉さん! ま、ちょ、まじで冗談なくやばい。
結構嫌な音聞こえて来る。
周りの目とか気にしている暇もなくやばい。
痛い。痛すぎる。
「ハイハイストープ! 拓とは今から話があるので回収して行きマース」
ナイス神威!
「邪魔するな」
「なんだこのゴミ」
「おーい姉貴ー猫被れー」
「先輩の邪魔するんだァ?」
「こ、怖い⋯⋯拓、行くぞ!」
「まじ感謝」
「今度ホットケーキを奢ってくれ」
「よかろう」
腕の痛みが引いて行く。
あの二人、格闘技でもやっていたのかな?
そして俺は後々知ることになる、相葉は2年のマドンナと言う事を。
そして、とあるサークルが出来る。
その名も『ビューティハーレムボーイ撲滅サークル』と言う。
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