第18話 修正【完】
土曜日は休めたのか休めなかったのか分からない日だった。
日曜日、今日は雨のようだ。
バイトである。
「伊集院君今日も頑張ろうね!」
そう言って笑顔を見せてくれるのはこのバイトで1番良くしてくれる女の子、名前は相葉愛子である。
「相葉さん。そうですね」
と、言っても相葉さんは表、俺と明は裏で働く。
明の卵割りの速さと正確さは俺とのオムライスやオムレツ作成で凄い上達した。
「伊集院さんって本当に料理上手ですよね。羨ましいですよ〜」
「ま、色々とバイトで経験して来たからな。それにあんまり上手くないよ。俺の妹の方が上手い」
「そうなんですか〜1回見てみたいですね」
「だいぶ注文も安定してるし、表に出ていいよ。多分4番席の女子3人組の蒼髪の子だよ」
「そうですか? では、行ってきますね」
まじで行くのね。
数秒後、それとなく伝えて来た言葉に息を飲んだ。
「あの、3人組じゃなくて5人でしたよ。なんか、似ているピンク女の子が2人⋯⋯」と。
まさかの桜姉妹も来ているようだ。
なんでだろうか? 俺がバイトに入ると時々数が増えて行く。
なんでこうなるかな?
あんまり働いている姿見られたくないんだけどな。
そして頼まれたのはホットケーキであった。
西園寺達が頼むのは基本的にホットケーキになった。
西園寺達を対応する人も既に決まっている。
それが1番仲のいい、相葉である。
「どうぞ、ホットケーキと紅茶です。新しいお嬢様ですね。美味しくなるおまじないしますか?」
「あ、お願いします」
「あ、ちょいと待ってなぁ。一口食べてからにする」
「畏まりました。それでは⋯⋯て、今なんて」
「え? おまじないしてくれんですよね?」
「食べたんでお願いしゃーす」
「(この子達、いい子だ。本当にいい子だ。伊集院君のお友達にこんな人達が居るなんて。私、感動)⋯⋯ッ!」
「あ、姉貴どうしたん? それに西園寺雪姫穣に愛海ちゃんまで。怖いでほんま」
「お、美味しくなーれ美味しくなーれ、萌え萌えキューン。そらでは!」
「(ごめんなさいメイドさん。それと、ネームプレート逆になってますよ)あん。モグモグ。(あ、味変わんない、しかも空気が重いせいか喉に通りにくい)」
ひと休憩していると、相葉が俺の下にやって来た。
「休憩?」
「うん。相葉さんも?」
「そそ。にしても、伊集院君のお友達にもメイド喫茶のおまじない受けてくれる人居たんだねぇ〜びっくりだよ」
「友達なんてあの中に居ないよ?」
「え?」
「(お試し)彼女と妹2人(信じて貰えてないけど)、そして⋯⋯よく分からない2人」
桜姉妹の立場ってなんだろうな?
ぶっちゃけ分かってない。
友達⋯⋯では無いな。
一方的に知られているって感じだし。
「か、彼女、そっか。伊集院君って恋人居たんだ。へ、へぇ」
「相葉さん?」
相葉さんがフラフラしながら椅子に座る。
何か悪い事でも言ってしまったのだろうか?
謝った方がいいよな?
「あ、相葉さん」
「ご、ごめん伊集院君。私ちょっともう無理だから早退するよ。店長に言っておいて!」
「あ、ちょ」
そう言って相葉さんは更衣室へと行った。
背後に明が現れて、横に座る。
「拓海君って彼女さん居たんですね。以外です」
「え、まぁ。12年間のお試しだけど」
「え、そうなんですか?」
そうよ。
◇
数時間後のとある公園のベンチで座り込んでいる人が居る。
名前は相葉愛子。
バイトの後輩に恋愛感情を抱いて玉砕した失恋した子である。
「はぁ。明日から学園行くのもしんどいなぁ」
涙を必死に堪えながらそう呟く愛子の姿はとても痛々しい。
だけど、泣く訳にはいかない。
必死に耐えて、必死に耐えて、そして涙を堪える。
(私が伊集院君の事を1人だと思っていただけだしね。人は見かけによらないって言うしね。あぁ、ああ)
その隣に座るピンク髪の女の子が現れた。
「さっきの人ですよね」
「え、あ、さっきのお嬢様」
「うちは愛桜って言うねん。よろしゅう」
「私は相葉愛子」
「なんか悲しい事でもあったん? 泣いとるけど」
「え? 私、泣いてますか?」
「ええ。そりゃあ凄く」
「そうですか。実は、失恋しましてね」
「伊集院さんの事ですか?」
「え」
「図星ですね。そうですね、あの人は西園寺雪姫と言う美少女と付き合ってますよ。公言はしてませんが」
「そう、なんだ」
「まぁ別に問題あるんですか?」
「え?」
「そんな簡単に好きな人の事諦めるやなぁと思いまして」
「え?」
「うちの姉貴は完全敗北撃沈確定と分かっている試合にも全力で挑もうとしていますよ。ま、すぐにまた会う事があるでしょう。相葉先輩、7時半に学園の校門を潜って見てください」
そう言って愛子の下を去る愛桜。
その姿を呆然と見守る愛子はただ呆然としている。
「ま、まさか!」
◇
翌日、教室に向かっていると背後から声が掛かる。
「い、伊集院君」
「や、伊集院君」
「え、相葉さんに、凛桜さん?」
え、待ってなんで相葉さんがいるの?
もしかして、相葉さんも高校生バイトの人だったの!
あの喫茶高校生のバイトの割合多くない? 多すぎない?
店長の趣味か?
「相葉さんがどうして」
「私、ここの2年だから」
「相葉、先輩?」
「ちょ、止めて。さんで良いよ」
そう言って近付いて来る相葉。
右側の腕が引っ張られて相葉から距離をとる。
右を見ると今まで見た事のないような鋭い目を西園寺が相葉に向けていた。冷たくはなかった。
「なんですか、貴女?」
「あらあら。先輩に対して失礼じゃない?」
「そうですね。拓海君は『私の』ですから」
「え、2人って付き合っているの?」
「そうです」
「そう。でもまぁ先輩として仲良くしようね」
「遠慮します。拓海君も貴女の事嫌いって言ってました。それでは」
「え、待って伊集院君ほんと!」
「いや、言ってないけど」
「拓海君!」
西園寺と相葉が言い争う。
その隙間を通って凛桜が前に出て来て、俺に話し掛けて来る。
「さっきの幻聴はともかく、あの、伊集院君。今日の昼一緒に食べませんか?」
「拓海君は私と2人っきりで食べるの!」
「わぁ」
腕を強く引っ張られてバランスを崩す。
「別に独り占めする必要ないでしょ?」
「拓海君は私の彼氏なんですよ、ボーイフレンドです。分かりますか? か、れ、し!」
「あーあーまた幻聴が」
「病院に行きなさいよ」
「私全然平気だから」
「じゃ、私は行くね。学園でもバイトでも先輩だけど、別に畏まらなくて良いからね。伊集院君だけ特別だよ」
「あ、はい」
「拓海君!」「伊集院君!」
この光景を遠くから撮影する人が二人。
「
「あんたに言われたくわ。
「姉貴と被るんで愛桜で良いですよ。桜井財閥と西園寺財閥が揃う、なんとも稀な光景⋯⋯姉貴、勝てますかね?」
「勝って欲しい?」
「姉貴ですからね。まぁ、難しいそうですが。何か情報持ってませんか?」
「特大な情報を持ってるぜ」
「取引しません」
「俺は親友を売らないの。それに、今の状態も面白いしな」
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