第10話 修正【完】

 金曜日、西園寺は俺を昼食に誘わなかった。

 西園寺は西園寺で俺が友達との交流を守ろうとしていると感じた。

 ただ、西園寺が教室で弁当を食べている姿を見ていたら、神威が「誘え」って言ってくれた。


「ありがとう」


 そう応えて西園寺の下に向かって、一緒に食べないかと誘う。


「良いんですか」


 目を見開いて、驚いたように神威を睨み、俺を見る。

 神威は頷き、俺も頷く。


 俺と神威が対面に、横に西園寺が机を運んで引っ付けて弁当を食べる。

 基本的に神威と俺の会話だが、それを聞きながら西園寺は弁当を食べている。

 さっきまでの悲しい雰囲気はどこにも無く、俺も少し嬉しかった。


「〇スラの次巻が気になる」


「まぁ、漫画の画力良いもんな」


「累計ランキングの上の方はどんどん完結になって行く。悲しいぜ。人気で続けている人は番外編頑張っているけどさ」


「特に〇勇だな」


 そんな会話をして、昼の時間を終えた。

 次の時間が近くなった時に再び朧に呼ばれる。

 あんなあからさまな嫌がらせをして来るやつなんて先生と呼ぶのは言葉だけで十分だ。


 今回も「なにかの間違いだ」と言われて終わるだろう。

 それが続いたので行かなかったら、「呼んだだろう?」と吐かしやがる。

 しかし、ここは最速の帰宅部であった俺の競歩により、全く問題にはなって居なかった。担任の理解も得たし。


 朧のあからさまな嫌がらせに西園寺が怒ってくれたが、あの程度造作もない。

 父親の姿を思い出せば、大抵の事は乗り越えられる。その度に吐き気がするが。

 その場合は愛海と海華の姿を思い浮かべる。

 すると背筋がゾワゾワする。

 その場合は西園寺の顔を妹2人の所に入れる。

 すると問題無くなる。


 これを繰り返して土曜日。

 午後からバイトのシフトが入っているので、午前は愛海に料理を教えて貰う。

 ある程度の事は出来るが、素早く丁寧に行うのは愛海の方が上手い。

 それに、愛海の作った料理の方が美味い。


 伊集院家は課題はどんな量でもその日に終わらせるようにする。

 と言うモノがあり、西園寺含め全員で行った。


 なので、休みは基本的に自由だ。

 愛海を連れて厨房に行くと、料理人が朝食の準備を始める所だった。


「拓海様に愛海様。それに、雪姫お嬢様に海華お嬢様。揃ってどのような要件でしょうか」


 料理長の人がそう言って来る。

 途中から気づいていたが、2人とも追って来ていたようだ。


 2人にバイトの事を話、皆で作る事になった。


「ホットケーキかぁ。ママと一緒に作った時以来だなぁ」


 愛海もやる気満々のようだった。

 だが、海華。お前はダメだ。

 海華は小学五年生だ。

 厨房は危険過ぎる。その事を言うと、返って来た答えはド正論だった。


「もう小5だよ! 家庭の手伝いで食器運び以外にも料理の手伝いはしても問題ないくらいの年だよ! それに調理自習もあって包丁とか使ったし!」


 4人でやる事になった。

 西園寺が途中で梅干しを入れようとした所を料理人がアワアワして見ていた。

 なにか問題があるだろうか?


 皆出来たホットケーキを見せ合う。

 見た目は西園寺と愛海が圧倒的で、俺は少し一部が大きい。

 海華は焦がしてしまった。綺麗な丸みなので、実質俺よりも上手い。


 皆で食べ比べをする。


「悔しいですが、愛海さんの方が美味しいです」


「雪姫さんも、少し酸っぱいですが、美味しですよ」


 愛海が1番美味く、次にそこそこの酸味を醸し出す西園寺。

 次に焦がしてしまったが、甘みに苦味を付け足しただけで普通に美味い。

 西園寺はちょっと苦手らしかったけど。

 俺達三兄妹は全然平気だった。

 最後に俺のだったが、まぁ3番目くらいの味だった。


「お兄ちゃん。私気づいたんだけどさ。貧乏生活続けて来たから、なんでも美味しく感じるんじゃない?」


「そんな漫画みたいな味覚になる訳ないだろう」


「だね」


 昼になり、俺はバイトに来て居る。

 現在メイドさんが注文を受けて、俺が必死にホットケーキを作る。

 何故ホットケーキだけなのか。それは「美味しい」と言われたのはホットケーキだけだからだ。

 逆に言えばホットケーキしか頼まれない。

 お陰で、食材の八割はホットケーキの材料である。


 他にも注文は来ないのだろうか?

 少し退屈である。


「オムレツ3つお願いしまーす」


 まさかのオムレツを頼まれた。

 取り敢えず作って渡す。

 このオムレツが来た瞬間、注文はピタリと止んだ。

 俺も気になってホールに出ると、そことには見覚えがあり過ぎる3人が居た。


「まさか全員で来るとわ」


 3人、西園寺に愛海に海華。

 その3人がオムレツを頼んだようだ。


「愛を込めて運びました」


「「「⋯⋯」」」


 お願い。そう言う仕事なの。なにか反応してあげて。


「では、美味しくなるおまじないを⋯⋯」


「お姉さん。言葉で料理の味は変わらないよ?」


 海華ーアウト!

 まじでそれはタブーだから! そんな事言ったらまじで『メイド』喫茶の意味無いから。

 見て、周りのお客さんとメイドさん達を!

 全員なにか感が深い顔をしてるよ!


「喫茶店にしようかな?」


「俺しか料理作らない喫茶店になんの価値があるんですか」


「確かに」


 ここに来る客は料理を求めてないんだよ。

 メイドさんを求めているんだよ。時間と金を掛けてご主人様になった気分を味会う為に来てんだよ。

 メインを忘れるなよ店長。


「そ、それでは、ごゆっくり」


 後でフォロー入れておこう。


「美味しいですね」


「うん。流石お兄ちゃん」


「美味しー」


 3人がそう言ってくれると、俺もほっこりと嬉しくなる。

 ま、その後オムレツの注文が殺到したのだが。

 ふっくらとしたオムレツの焼き方を愛海に聞いておこう。

 それと、派生してオムライスの作り方も学ぼうかな?


 さて、卵割り係を要求します!


 卵割り係、同じ男性スタッフ、中性顔でメイド服に着替えないのと言う小さいクレームが発生し、偽男性スタッフとプチ炎上? したとかしてないとか言われている人が来た。


あきら君、よろしくね」


「はい。料理が出来ない手伝えない分、頑張らせて頂きます」


 ま、こっからは単純作業だ。


 ネットでは最近、『アルフヘイム』と言うメイド喫茶が話題を呼んでいた。

 メイドの可愛さと愛らしさ、そして飲み物と仲間との雑談を嗜む場所とされていたアルフヘイム。

 だが、最近では料理も少しだけ嗜めると言う噂が立っていた。


 それを見たとあるチャレンジャーが現れた。

 その名も田中奏汰。

 己を悪魔族最強の末裔の血を引く者だと疑いもしない男。

 成績はほぼ真ん中であり、運動はそこそこ出来ない方である。


 眼鏡が日光により反射して目が見えない奏汰は人生初めてのメイド喫茶に踏み込む。

 未知なる境地、そこは天国か地獄か。

 それは最初で決まる。


 誤算があるとしたら、奏汰は扉に吊るされていた『今は居ません』と言う文字を気にしてことだろう。


「お帰りなさいませご主人様。お休みになられるお席に案内しますね」


「あぁ。頼もうか」


 そして、頼んだのはホットケーキ。

 ピリつく空気、戸惑うメイドやスタッフ達。

 奥に逃げる店長。


 そして出て来たのは見た目は少し崩れた形のホットケーキだった。

 1口サイズに切り分け、口に運ぶ。


「む? こ、これは、なかなか、で、あるな」


 一緒に持って来てくれたサービスの甘い牛乳をがぶ飲みする奏汰。

 その後、ホットケーキを口に必死に詰めて、牛乳で流し込み、出て行ったとされる。

 奏汰は再び、この地に足を踏み入れる事はあるのか。

 それはまだ、誰にも分からない。


「ソフトクリーム4点になります」


 コンビニで買ったソフトクリームを即座に食べ終えた奏汰は帰路に着いた。

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