キャラは作品の命です

「ええっと……このミカサという女の子に片思いしているのはジーハルーという男の子よね? で、実はミカサはポングという男の子に密かな思いを寄せている、と」

「そうです。あ、先生、ポングはこっちでジーハルーはこっちです。それにこの子はミカサの親友ですって。見ればすぐ分かるじゃないですかー」


 いや分かんねえわ。

 私は生徒から説明を受けて、改めてキャラ設定を見たが、やはり違いが分からない。少し頭を抱えたくなった。


 赤いシュシュで髪をまとめているゴブリンレディーのマリガンが、熱く説明をするのだが、何しろヒロインのミカサもモブの友達も、イケメンヒーローたるポングとライバルのジーハルーもみーんな同じ顔なのである。

 女性は髪の毛が多い、結び方が違う、などまだ分かる部分もあるが、男性はふわふわした髪の毛も顔立ちも体形も同じにしか見えない。

 一度、もしやこれは私の目がおかしいだけで、皆はきちんと判別出来るのだろうかと周囲の生徒に確認してみたが、ゴブリンの種族の人たちは概ね違いが分かるようだが、他種族の人には全く同じにしか見えないようだ。


 文字ネームが一通り済んで、キャラ設定を考えて貰う際に、私は生徒たちにキャラクターは作品の命だ、と強く訴えた。


「出て来る登場人物、つまりキャラクターさえ魅力的だったら、ストーリーに多少雑なところがあったとしても、マンガは八割成功したも同然です。皆さんもマンガを読んでて分かるように、主人公やサブキャラに魅力があって好感を持てるキャラであれば、より物語に感情移入しやすいし、長編なら続きを読みたいと思うものです」

「何人も登場人物が出る場合、顔や体形、髪型など同じようなキャラクターばかり出て来れば、分かりにくいし飽きられます。最初は下手でもいいですから、人物の描き分けを意識して下さい。人間を主人公にしなくても構いませんが、どんな種族の人が読んでも、それが何というキャラクターなのか、というのがパッと分からなければ物語を楽しめません。皆さんが同じ種族ならば分かるような細かな違いは、他の種族には理解出来ないこともある、というのを肝に銘じて下さい」


 としつこいぐらいに伝えたのにこれである。

 まあ他種族がわんさかいる国ではこんな問題が起きてもしょうがない。

 マリガンにはひとまず、服装やアクセサリー、髪型など少しオーバーな位に変化をつけることを指導する。

 まあ、そんな他種族あるあるなどがありつつも、皆何とかキャラ設定が出来上がり、マンガ形式でのネームに移ることが出来た。


「はーい。では本日は終了です。家で頑張って描いて、明日進捗状態を教えて下さいねー」


「「「はーい。リリコ先生さよーならー」」」


 生徒たちに手を振り、よし今日も無事終わったぞー、と帰り支度をしていると、画材を片付けて鞄にしまったクレイドがやって来た。


「リリコ、話があるのだが」

「はい? ネームの件ですか? それなら城に戻ってからでも──」

「いや、紙と印刷の件なのだ。道中説明するゆえ付き合ってくれぬか」


 これから東ホーウェンの町まで行くという。

 ちなみに町の名前は東ホーウェン、西ホーウェン、南ホーウェンに北ホーウェン、という個人的には覚えやすい名前で大変有り難い。だが話は聞いていても、大きな町に出るのは初めてだ。

 馬車で片道一時間ほどの距離らしいし、紙と印刷と聞いては私も落ち着いてはいられない。二つ返事で馬車に乗り込んだ。

 そして東ホーウェンに着くまでの馬車の中で驚く話を聞いた。


「──実は、町で新聞というのが出来たらしいのだ」

「え? それじゃ、印刷技術が発明されたってことですか?」

「ではないかと思う。ただ、移動商人が世間話ついでに聞いたということだから、実際に目にしてはいないそうだ。だからリリコと一緒に確認に行こうかと思ってな」

「それは期待が高まりますね! でもまだ電気とかはないんですよね?」

「……おそらく」

「おそらく、って何ですかおそらくって」

「いや、私はここ暫く東ホーウェンには行っておらぬし、町の発展のために周囲で大雨だの土砂災害などを意図的に起こして、消耗した橋などの劣化を早めたりはしていたが、五年十年単位で様子を見に行く程度なのだ。私は子供や女性に怯えられやすい顔つきらしいのでな」

「ああ! 確かに一見強面ですもんねクレイド様」

「──そこは『そんなことありません』と擁護すべきではないか?」

「ですが実際に子供に泣かれたり、女性に怯えられたりしたんですよね?」

「……まあな」

「私も最初は怖いなと思ってましたし、そこは認めましょうよ。あ、今は勿論そんなこと思ってないですよ?」

「そうか……やはりリリコも怖かったのか……」


 少し落ち込んだような顔をするクレイドの肩をてしてしと叩いて笑った。


「そんなに気にしないで下さい。これからクレイド様のマンガが広まって人気になれば、子供からは一気に尊敬の眼差しに変わりますから。目つきの怖さとか気にならなくなりますよ」

「──そうであろうか?」

「そんなものです」


 彼も自分が強面であることを気にしていたのだろう。

 いい大人なのにしゅん、とした姿を見ていると、頭を撫でたくなるような可愛らしさを感じる。

 それにしても、まだ先の話かと思っていた印刷技術が実用段階にあるのかも知れない。そう考えると、私の興奮は高まるばかりであった。




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