第17話 動き出す寸前
「えっ」
上手く断る口実はなく、渋々その誘いに乗った。
※
大学駅前で待っていると、その人は現れた。
「こんにちは」
「よっ」
いつもは結わないのに、今日はポニーテールだ。
オフホワイトのオフショルダーブラウス、ジーンズのショートパンツを着こなし、黒のキャップを被っている。
ドキッとしてしまった。
スポーティーな服装なんて、初めて見たから。
「ありがとう、来てくれて」
眉をへの字にして感謝を言ったさつき。
「別に」
俺は素っ気なく返した。
「移動しよっか」
さつきの合図で、2人で移動を開始した。
※
喫茶店に入る。奥のテーブル席に向かい合うように座った。
緊張してしまう。
店内だし、人はある程度いるのに、奥の方にいるから、2人だけの空間ではないかと錯覚してしまいそうになる。
向かいに座るさつきはキャップを脱いで、結い直ししている。
俺は視線を横に逸らす。
女子の脇なんか見てはダメ。
欲情は全くしないが、見てはいけない所のような感じがするから。
結い直しが終わったようだ。
「どうしたの?」
キョトンとした顔で俺を見るさつき。
なんだか調子が狂うな。
「何頼む?」
メニュー表を開いて、話を逸らす。
「そうだね~」
楽しそうにさつきは見ていた。
フラれたとはいえ…一緒にいると、やはりクラッとはくる。
1度好きになったから、だよな。
このまま一緒に過ごしたら、またー…。
いや、ないない。あり得ない。
何も起こらない事を願う。
※
メインを食べ終わり、食後のデザートの一時を楽しんでいた。
さつきはプリン、俺はチーズケーキ。
デザートは、美味いな。
でも、辛いのが1番だ。
コトッ、とスプーンを置いた音がした。
顔を上げると、さつきはプリンを食べ終えていた。
スプーンはテーブルの上に直置きではなく、ペーパーを折り畳み、そこに置いた。
真っ直ぐさつきは俺を見る。
数秒間、見つめ合う。
ドッ、ドッ、ドッ…
鼓動が早くなり欠けたその時。
さつきは頭を下げて、こう言った。
「あの時は、ごめんなさい」
あの時…って…。
「告白のことか?」
さつきは顔を上げて、ゆっくりと頷いた。
「もう、遅いよ…」
俺は俯いた。今さら、言うなよ。
「分かってる」
なら、どうして。
「それでも、聞いて欲しい…」
チラッとさつきを見ると、真剣な顔をしたさつきが視界に入った。
溜め息を吐いてから「聞くだけ聞く」と俺は言った。
「ありがとう」
さつきはお礼を言ってから、語り出した。
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