第17話 動き出す寸前

「えっ」


 清瀬きよせさんが旅行に行っている間に、ある人からメッセージで誘われた。

 上手く断る口実はなく、渋々その誘いに乗った。



 大学駅前で待っていると、その人は現れた。


「こんにちは」

「よっ」


 川嵜かわさきさつき。

 いつもは結わないのに、今日はポニーテールだ。

 オフホワイトのオフショルダーブラウス、ジーンズのショートパンツを着こなし、黒のキャップを被っている。

 ドキッとしてしまった。

 スポーティーな服装なんて、初めて見たから。


「ありがとう、来てくれて」


 眉をへの字にして感謝を言ったさつき。


「別に」


 俺は素っ気なく返した。


「移動しよっか」


 さつきの合図で、2人で移動を開始した。



 喫茶店に入る。奥のテーブル席に向かい合うように座った。

 緊張してしまう。

 店内だし、人はある程度いるのに、奥の方にいるから、2人だけの空間ではないかと錯覚してしまいそうになる。

 向かいに座るさつきはキャップを脱いで、結い直ししている。

 俺は視線を横に逸らす。

 女子の脇なんか見てはダメ。

 欲情は全くしないが、見てはいけない所のような感じがするから。

 結い直しが終わったようだ。


「どうしたの?」


 キョトンとした顔で俺を見るさつき。

 なんだか調子が狂うな。


「何頼む?」


 メニュー表を開いて、話を逸らす。


「そうだね~」


 楽しそうにさつきは見ていた。


 フラれたとはいえ…一緒にいると、やはりクラッとはくる。

 1度好きになったから、だよな。

 このまま一緒に過ごしたら、またー…。

 いや、ないない。あり得ない。

 何も起こらない事を願う。



 メインを食べ終わり、食後のデザートの一時を楽しんでいた。

 さつきはプリン、俺はチーズケーキ。

 デザートは、美味いな。

 でも、辛いのが1番だ。

 コトッ、とスプーンを置いた音がした。

 顔を上げると、さつきはプリンを食べ終えていた。

 スプーンはテーブルの上に直置きではなく、ペーパーを折り畳み、そこに置いた。

 真っ直ぐさつきは俺を見る。

 数秒間、見つめ合う。


 ドッ、ドッ、ドッ…


 鼓動が早くなり欠けたその時。

 さつきは頭を下げて、こう言った。


「あの時は、ごめんなさい」


 あの時…って…。


「告白のことか?」


 さつきは顔を上げて、ゆっくりと頷いた。


「もう、遅いよ…」


 俺は俯いた。今さら、言うなよ。


「分かってる」


 なら、どうして。


「それでも、聞いて欲しい…」


 チラッとさつきを見ると、真剣な顔をしたさつきが視界に入った。

 溜め息を吐いてから「聞くだけ聞く」と俺は言った。


「ありがとう」


 さつきはお礼を言ってから、語り出した。

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