赤い実エクスプロージョン

樫木佐帆 ks

プロローグ、または、バックグラウンド(ラフ)

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ワールド1:幻想世界セクト


世界設定とキャラクター設定で手伝ってくれた胡桃さんに多大なる感謝を。


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***scene1


 誰かが革命の決戦場へと続く螺旋階段の入り口のまでの緩い階段を昇っている。


  ラ・フランス第五層。賢者の森。果実が実らない木の森の奥にその革命の決戦場へと続く螺旋階段はある。


 今はもう自分で立つ事もままならない、思考が幼子のようになった「姫」を手で支えながら道を踏みしめる女騎士。


 気が重いからだろうか、その足取りは重かった。


「ねえねえカーディナルさま、どこへいくの?」


 その女騎士ことカーディナルは「姫」の無邪気な問いかけに答える気力も残っていなかった。そのかわりに少しだけ微笑む。むりやり作った微笑みだった。



 やがて螺旋階段への入り口に辿りつく。



 そこには何一つ汚れていない、まるで神殿のような白い石で作られた建物と重厚な扉がある。


 これまで何度も見てきた扉。第一の扉だ。


 契約書のような白くて薄い板の映像が「何者だ」と問う。


「カーディナル。カーディナル・クレーム・ド・カシス」


 白い板の映像にカーディナル・クレーム・ド・カシスという名前の文字が刻印され、歯車が、ばきんがきん、と軋みながら動く音と共に、その扉はゆっくりと開く。


 その先には螺旋階段がある。


 またか、と思い、騎士はその階段を見上げた。まるで貝殻のように見える。頂点へ向かって伸びていく螺旋。中はどこから光が入っているのかわからないが、明るい。銀のように見える白さを帯びた黄金の光の天幕に、血のように真紅の色をした螺旋階段。


 その螺旋階段はどう表現すればいいのだろう、赤い硝子というには濁っているが透き通っていて、浮いている。そしてその場で構築されるのだ。デジタルデータのように。


 さ、行くよ“リューシュー”、とカーディナルは言い、先ほどと同じように螺旋階段を登り始めた。


「姫」の本当の名は“リシュリュー”なのだが女騎士はいつも“リシュリュー”を“リューシュー”と呼んだ。


 最初はカーディナルにとって“リシュリュー”と呼びにくかったから“リューシュー”と呼び、現在は昔の“リシュリュー”、あの頃の“リシュリュー”に戻ってくれないかとそう呼んでいる。


 そして今はリューシューと呼ぶ事さえ、疲れを感じている。


 本当の事を言うと、限界だった。何もかもを投げ出したかった。



 僕、頑張ったよね。もう、いいよね。



 笑う事が少なくなり、表情というものが薄くなった女騎士の脳裏に飛び交う、自分の声。


 しかし、行かなくてはならない。革命をすると決めたのだから。


 カーディナルの赤くて長い、少しだけ癖毛の髪が、憂鬱そうに揺れる。


 今まで何度、この螺旋階段を昇ってきただろう。そんな事をふと考えるが、思い出というには重すぎて考える事を止めた。


 2人とも硬い靴を履いているせいか、階段を上るたびに、こつこつ、と音がして、

それが反響して、螺旋階段の建物を揺らした。



***scene2


 その螺旋階段の頂上、そこにある「革命の決闘場」。そこで挑戦者を待つ青い髪の女の騎士がいる。


 寂れた空中庭園、または廃園のような場所、その中央にある枯れた噴水の縁に女の騎士は腰掛けている。


 ラ・フランスの壁の天辺と同じ高さに、この「革命の決戦場」は位置しているので、壁の外、世界を食い尽くした薔薇の花びらと花粉が上昇気流で空を踊り、この場所にひらひらと舞い落ちている。


 夜のせいか透明とさえ思える青い髪の先が、薔薇の匂いがする風と戯れた。


 少しぼやけた月の光と共に、夜に溶け込みそうなほど青く真っ直ぐな髪が揺れるので、風景と溶け込んで、まるでそこに存在していないような儚さが感じられる。それは、悲しいほどに、その女の騎士に似合っていた。


 春にして四月。


 その女の騎士の名は橘美鈴と言った。


 十二節季の騎士と呼ばれる、第四層守護者の上位12人の騎士、その1人。


 遅いですわね、と、橘美鈴の姫である「燐」は橘美鈴の袖を握って言った。


 …ああ、としか橘美鈴は答えなかった。その顔は無表情である。


 カーディナル抹消命令。最も革命に近くなったカーディナルを何としても抹消する事。それが上位守護者…偽械天使機構からの指令だった。


 しかしもう、カーディナルに敵う者などいない。革命の決闘では想いが強い方が勝つ。


 あいつは…カーディナルの願いは…誰にも止められない。


 青い髪の女の騎士はカーディナルを知っている。


 橘美鈴は上を見上げる。白い霧によって少しは曇りかかっていたが、空が近いためか、満点の星空が見えた。


 良い夜だ、と橘美鈴は呟いた。まるで遺言のように。



 あいつとは仲良くやれそうだったのにな。



 そして、隣に居た姫…燐の名前を呼び、諦めの顔で、それでも精一杯の笑みを浮かべて、ごめん、ここで終わりらしい、と燐に告げた。


 燐は少し吃驚したような顔をし、自らの騎士である橘美鈴に何か言おうとして、止めて、一瞬だけ悲しい顔をしたが、すぐ、橘美鈴を慰めるように、いたわるように、優しく微笑んだ。なにもかも分かってる、死を覚悟しているような、そのような微笑みだった。


 燐がそんな風に笑うので橘美鈴は心が潰れそうになる。


──そんな顔されたら、決闘依存症で、決闘さえ出来れば良いと考えてたお前にそんな顔されたら。


 私の願いは、そうだった。革命の決戦に勝ち続けて、第六層に居るという女王を倒し、この世界の頂点に立ち…そして燐をこんな決闘から引き離す事だった。その為に戦い、戦い続け、勝ってきて、守護者の上にも立ち、燐を傷つける者全てを許さなかった。燐を傷つけようとする全てを許せなかった。


 …なあ、燐。私は、ちゃんとお前を守れてたか?


 決闘で無傷で相手を倒す度にお前はとても詰まらなそうな顔をして…。もしかしたら、私が相手の剣を食らってお前に快楽を与えたほうが良かったのか…?


 燐があまりにも酷く優しく微笑むので、橘美鈴は視線を燐から外した。そうしないと泣きそうになるからだった。


 …これから戦う相手がカーディナルだからか、少し感傷的になりすぎているのかもしれない。


 カーディナルの姫は何度も壊れ、直され、それまでの記憶が無くなった。


 修復措置の時、守護者に記憶を奪われたのだ。カーディナルは革命の危険性があり、それを防ぐために記憶を奪ったのだ。


 幼子のようになってしまった姫。そこからカーディナルは強くなった。革命の危険性を処置した結果が、革命の危険性を更に増加させたという皮肉。本当はどうなのか知らない。守護者がわざとやっているのかも知れないが、そんな事はどうでもよかった。


 姫の記憶が失われたその時に「姫を元に戻し、永遠に共にいる事」という、とても強い願いを持ったのだろう。


 失われた記憶を取り戻して、あの平和だった時へ。方向は違えど、私の願いと一緒ではないか。一緒だからこそ、どちらの願いが真に強いのかわかってしまう。決闘に負ければラ・フランスの都市を破壊する巨人となってしまう。止めてくれる奴は…ユウか坂本がいいな、と橘美鈴は思った。あいつらなら私情を持ち込まずに機械的に私を殺してくれるだろう。本当は青龍が良かった、というか私の事を憎んでいたから青龍にやってほしかった。だが。青龍はもう居ない。私がこの革命の決闘で倒してしまったから。



 煙草が吸いたかった。


 青龍がいつも持っていた煙草。



 もしかしたら青龍とも仲良くやる事ができたのかもしれない。


 今となっては過ぎた事だが。


***scene3


 螺旋階段の終わりにある第二の扉の前。その扉は「何を犠牲にするか」を問う。


 だから問われる前に言ってやった。


 精一杯の声で。ピンクというには赤い髪を振り乱して。これが最後の決闘となるから。


「リシュリューの記憶を取り戻し、そしてもう、こんな決闘をやめさせる! 代償は僕の命!!」


 声を枯らしてしまいそうになるくらいに叫びながら、女騎士は少しだけ泣きそうになった。


 女騎士の背中に姫の体温が移る。ぱしぱし、と叩く手。


「ねーねー、カーディナルさま、おぶって、おぶってよお。リュシュ、疲れちゃった」


 第二の扉が開かれる。第二の扉からは一本道だった。


 カーディナルは仕方が無いという顔をして、おいで、としゃがみ、姫を背中におぶった。手で支えている「姫」の体重が重い。本当は軽いのだが女騎士にはやけに重く感じられた。



 最後なんだ、それだけがもう、支えだった。


 勝てば願いが叶う。



***scene4


 ラ・フランス第四層都市、「名も無き施設」内。そこにはどこにも入り口が無い“秘密の女学園”がある。守護者たちが「姫」を飼うための施設である。


 永遠に年を取らない365人の「姫」、というよりかセーラー服を着ているので女子達というべきだろうか。その365人の女子達が空が無い校庭に集まり、輪を作り、空を見上げている。


 上から見たら魔法陣のように見えるだろう。


  365人の女子達は黒い空、つまり天井の向こう、第四層を越え、その先の第五層の螺旋階段へと瞳を向けている。革命の決闘場へ向かう螺旋階段はこの365人の女子達の能力で構築されている。


 365人の女子達が次々と呟いた。プログラムコードのように。


 カーディナル・クレーム・ド・カシスと橘美鈴の決闘を承認します。

 カーディナル・クレーム・ド・カシスと橘美鈴の決闘を承認します。

 カーディナル・クレーム・ド・カシスと橘美鈴の決闘を承認します。

 カーディナル・クレーム・ド・カシスと…


 光が乱舞し、螺旋階段を構築していた真紅の階段の踏み板が一瞬にして弾け飛び、バラバラのワイヤーフレームへ、そしてそれは薔薇の花びらが乱舞するように舞い、第二の扉から第三の扉へと続く道を構成する。


***scene5


 橘美鈴は挑戦者を待っている。


 アーク灯なのかろうそくの灯なのかはわからないが、決戦場がライトアップされる。古く、廃墟となった庭園、朽ちた植物の残骸に薔薇の花びらが降っている。



 最後となると色々思い出すね。


 カーディナル、あいつは出会った時から生意気だったな。


 あいつに剣の使い方をみっちり教えたというのに、あいつは姫が近くに居ると途端に隙だらけになって、初々しいと思っていた。


 私達にもそんな時期があった。


 まだ騎士というのが何か、姫と言うのが何か、決闘というのが何かを知らなかった時だ。私と燐は蜜月のような日々を過ごしていた。


 しかしそんな幸福な時は短く、第三層学生騎士どもに挑発され、決闘を受けて、それから──



 決闘の全てを知った。燐の、「姫」というモノの本性を知った。



 ただ快楽のために攻撃を受けようとする、床に這い蹲る燐。


 私はそんな燐を見たくなかった。誰かの手で蹂躙される燐など… 


 あの第三層学生騎士どもは許せなかった。だから革命の決闘で真っ先に消してやった。


 ああ、本当に色々と思い出すね、燐。泣きそうだよ。


 泣いてるのかもしれない。



 私はカーディナルのように強くはないんだ。



***scene6


 第三の扉。開ければ戻れない。


 問われる事は知っている。


 一刻も早く、革命しなければ。


 願いは? と扉は聞く。


 決まっている、私とリューシューの永遠だ。


 扉が開かれる。



***scene7


 遅かったじゃないか、と、そこに居た青い髪の女騎士はゆっくりと立ち上がり、言った。女同士だからか、その声のトーンがどこか悲しいのが赤い髪のカーディナルにはわかる。


 相手はカーディナルが昔、学生の頃に先輩と慕った、橘美鈴先輩だった。


「センパイ…?、どうして貴女が…?」


「君を抹殺しろ、との上のご意向でね。やあ、こうしていると懐かしいね、勇者君」


「…昔のあだ名で呼ぶな!…どうして、どうして貴女が、最後の…?」



 どうしてだろうね。私にもわからないよ。



「それも上の意向だよ。それよりも君のそれは大丈夫かい?」


「…関係ないだろ」


 そう言われてカーディナルは幼子のような姫を橘美鈴の視線から離すように「姫」の前に立ち塞がった。


 その姿にかつての私と燐の姿を垣間見る。



──ああ、本当に、懐かしく思うよ。



 カーディナルの耳元から聞こえてくる、幼児のような姫の声。


「決闘…決闘? きもちいい、決闘、いっぱいいっぱい刺して、いっぱいいっぱい刺されて、きもちいいの。すごくきもちいいの。自分でしてるときよりずっとずっともっときもちいいの。ぐちゃぐちゃにかき回されて、深いところにズンズン来て、頭がまっしろくなって…」


 カーディナルが姫の口を指で覆った。自分にも橘美鈴にも聞かせないようにするためだった。


 言わないでよ、そんな事。お願いだから。


 そんな事を言えない代わりに拳を床に叩きつける。


橘美鈴が燐の胸から剣を取り出した。日本刀“月明かり”。


「さて、時間だ、カーディナル。始めよう。」


きっ、と橘を睨む瞳。


良い瞳をしていると橘は思った。


…ねえ、お願いがあるんだ。



私の代わりに…願いを叶えてくれないかな。



***scene8


女騎士がやってきた扉は消え、枯れた噴水にどこからか水が注ぎ込まれる。


やがてそれは溢れ出し、朽ちて起伏が出来た地面を静かに濡らしていく。


そして音が一つずつ違う鐘の音が決闘場を包んだ。


無数の薔薇の花弁が空を舞い、落ちて、水に漬された地面と共に流れ、下層の都市に落ちていく。


「リューシュー、我慢してて、勝って帰ったらイナゴ食べさせてあげるから」

「イナゴより決闘がいい。決闘がいい!決闘がいいの!体ぐちゃぐちゃで、えへへがいいの!」

「そんな事言わないで、ほら、決闘だから、君の好きな」

「また頭まっしろになれる?」

「…うん」

「ぐちゃぐちゃ?」

「……うん」


そのやり取りを聞いて、橘美鈴は、ああ、と思った。


燐に猫々飯店の肉まん買ってこさせるのを忘れていた。少し大目のお金を渡して、燐が余ったお金で好きなお菓子を買ってきて…燐がおいしそうに食べるのが好きだった。


最後にしてやれなかったな。


***scene9


LP.2010。


カーディナルこと、カーディナル・クレーム・ド・カシスとその姫、リシュリューは

最後の決闘者である橘美鈴に勝利し、第六層、女王のいる宮殿で革命を果たしたという。


しかし、誰も知らない。何も変わっていないからだ。


カーディナルもそこにいて、リシュリューもいて、橘美鈴や、革命の決闘で負けて巨人になり消えた者もそこに居る。まるで世界がリピートしているように。


しかし、おかしい。革命はなされたはずなのに。


何故、何も変わってはいないのか。


***scene10


永遠という事は不変を意味するが、時が止まってしまうような、そういうものではない。

音楽を聴いていて、最後のトラックからまた最初のトラックに戻るように、

或いは傷が付いたレコードのように、いつまでも、同じところを繰り返す。


それに誰も気付かないのであれば、幾度も、幾度も、それは繰り返され…



最後の場所、第六層の女王の宮殿で、そのモノは待っているだろう。


かつて騎士だったモノは幸福だったあの頃の、全ての永遠を願ったが故に。


かつて姫だったモノは歪んだ愛を願ったが故に。



LP.2010のL.P.は年月を示さない。ループの数だ。


2011回目のループがこれから始まる。



かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ?




***scene11


層移動都市型エレベーター内、その上層。


ラ・フランス唯一の教育機関である「籠目ノ鳥学園」。第二層剣術部。


橘美鈴がカーディナルと木刀で模擬戦をやっている。


木刀がぶつかり合う、木独特のくぐもった音が連続して響く。


打ち合いの疲労のせいか、カーディナルが持つ木刀は先の方が震えている、が、手を離すわけにはいかない。


ちらっと、剣術部の道場の隅で行儀良く、にこやかに座っている姫──リシュリューを横目でみる。


「やぁあああ!」カーディナルがこの一撃で決めようと全力で切りかかる、が。


橘美鈴は剣の流れを見極めてるように攻撃を受け流し、その一瞬の隙、騎士ならば見逃すわけがない、ましてや橘美鈴にとっては一撃必中であろう隙、そこに橘美鈴が強打した。


どす、という鈍い音と共に、カーディナルは吹き飛ばされ、苦しそうに咳き込む。


「ほら、カーディナル、姫をぼさっと見ているから隙が出来るんだ!」


「く、くそ…まだ…」とカーディナルは木刀を使って立ち上がろうとするが、無理だった。


「一日一回、私に挑戦するのは威勢があって良いが、基礎が足りないな」


橘美鈴はカーディナルに手を差し出す、が、その手を軽くはたき、「自分で立てます」と咳混じりに言った。。


みぞおちに打撃を喰らったようだった。


そうでなくともカーディナルの体には木刀で打たれた痕がある。


勝気な顔の橘美鈴「へぇ、生意気じゃないか、勇者くん」


カーディナルは橘美鈴に勝手に付けられた「勇者くん」というあだ名が舐められているようで気に入らない。


橘美鈴から目を逸らして拗ねるように横を向いた。


視線の先にはカーディナルの姫であるリシュリューが行儀良く、にこやかに座っている。


それでカーディナルはそっちの方を向けなくなり反対側を見た。


橘美鈴もカーディナルの視線の動きでそれに気付いたようだった。


「まったく、たるんでるな。騎士になってから弱くなりやがって。素振り1000回だな」

「そんなぁ リューシュー、僕が部活終るの待っているんですよ」

「ほう、打ち合い一万回でもいいんだが」

「えー」

「えー、じゃない」と橘美鈴は軽く木刀の先でカーディナルの頭を叩いた。

「いったたた、木刀で直で頭ってのは痛いですよ橘センパイ。やります。やりますってもう」


剣術部のドアが開く音。しつれいしまーす、と可憐な声が聞こえる。


「まだ終わらないんですかぁ?」と可愛い声が聞こえる。髪をショートにした女の子。


部員は気にしていないのでいつものことなのだろう。…一人除いて。


「うらら!うららぁ~、頬擦らせて~」と先ほどまで倒れていたカーディナルが


傷なんて嘘ですよ、な感じでぴょんと起き上がり、ドアの方にダッシュするところを橘美鈴に捕まれた。


首根っこの襟で捕まれたので、がくん、となり、ぐ、と苦しい声を上げるカーディナル。


小さくて可愛い女の子は「花咲うらら」という。カーディナルの後輩である。


そしてもう一つドアから覗く顔があった。カーディナルは、げ、という顔。


「まだまだ弱い先輩は居残り練習ですよねー」


うらら、という名の少女の横にいた、活発そうで生意気な女の子が言った。こちらも後輩で「神崎ヘレナ」という。


「もう少しで終わるなら待ってよう、かな」と花咲うららが可愛い事を言うのでカーディナルはデレデレとなり、次にキリッと「すぐに終わるから」とキメた、はずが、橘美鈴が首根っこの襟を捕んで空中に浮かせているのでキマらなかった。


それどころか後ろから闇オーラを察知して振り返るカーディナル。


鬼の形相の橘美鈴がそこにいた。「…素振り1万回だな」


「えー!?ちょっと先輩、それは無いですよ、あの、えーと」


橘美鈴はゆっくりと「1万回」とドスの効いた声で言うのでカーディナルは逆らえない。


「当分終わりそうもないから、こんなバカほっといて行こ行こ、うらら」と神崎ヘレナ。


でもでも、という表情と仕草の花咲うらら。


「待ってよう、というか待っててよぅ~」


神崎が勝ち誇ったように「いやいやいやいやカーディナル先輩はごゆっくりどうぞー、というわけで、こちらはうららと楽しくお茶してますから。…独占で!」

「神崎っ、おまっ、今やるんで、光の速さで素振るから!待っててよぅー」

「いこいこ、うらら、あんなのほっといて」

「あ、あ、うん、ヘレナ。じゃ、カーディナル先輩、公園で待ってますので」


神崎がへっへっへと悪い笑みでうららの肩を掴み、連れて行った。


「すぐ行くからー!」と言った後、がくーん、となるカーディナル。


橘美鈴が呆れたように言った。


「お前、そんな元気あるなら何でさっき出さないんだ」

「だってあの、好きな人がいるなら頑張れるじゃないですか」

「お前の姫は」

「別腹です」


はぁーと落胆の深いため息をつく橘美鈴。


その会話を横で聞いていた女顔の少年が口を開く。


「えーっと、あの、さっきから自分の存在を忘れている会話をありがとうございます」と皮肉っぽいニュアンスで言った。

「何言ってんだよユーリ!仲間じゃないか!」

「何ですかその薄っぺらい言葉」


少年の名は鈴白ユーリという。これもまた後輩で生徒会に属しながら剣術部にも属している。


「ユーリも来るだろ?委員会とか大丈夫?」

「お茶する時間くらいならありますよ。16分20秒は」

「いそがしいもんだね委員会って」

「じゃあ手伝ってくださいよ。第二層学生自治委員会って立場弱いから人いないんですよ」

「んあーめんどいからパス」


そこに橘美鈴が割って入る。


「こらっ!何を話しているんだ?ちゃんとやれ!いいか稽古というのは───」

「はいっ!」

「(ほら、怒られちゃったじゃないか、ユーリのせいで)」

「(僕のせいじゃないですよ)」


***scene12


層移動都市型エレベーター内、下層。


この巨大と言うにはあまりにも大きすぎるエレベーターは上層と下層に分かれている。

広さ0.8k㎡、全長2000m。この広さというのは延べ総面積ではない。


層移動都市型エレベーターは層から層への人や物資の移動、教育機関である籠目ノ鳥学園、室内テーマパーク各種、ホテル、ショッピングセンター、病院、オフィスを兼ねる。つまり一つの街である。


層移動都市型エレベーターは5つのエリアがあり、エリア毎にバラバラに動く。

それがエレベーターの上層。全長2000mの上から1500m。パスを持つ一般住民ならアクセスできる場所である。


そしてエレベーターの下層、それは第四層守護者の活動エリアである。


各層に住む一般市民や、エレベーター内にある学生達は下層の存在を知らない。いや、知らないように振舞っているのだ。でなければ簡単に命を消されてしまう。


「歴史は滞り無く進んでおります」

「カシキブレインデバイスコンピューターによるとLP0000からさして歴史には影響していません」

「さして、という意味は?」

「はっ、失礼しました、女王の計画書によって誕生した騎士は全員決闘に負け巨人化、討伐されています。あるいは第二層や第三層で過ごす内に願いを持たなくなったと」

「女王の計画書か…LP2010での女王の計画書には?」

「解析が終了していませんが、存在する事は確実との見方です」

「早急に解析を終わらせろ」

「はっ、そして本日、第三層学生騎士ミシェル・ウィルソンと第二層騎士ソン・ジョンファの決闘が行われ、敗北はミシェル・ウィルソン、巨人レベル3で第三層チーナ地区に出現予定です」

「被害予測は?」

「出現場所は人口が密集しており、避難が遅れれば200人は建物の破壊に巻き込まれ死亡、また、第三層重要移動手段である橋があり、破壊されると交通の面で被害が出るという予測です」

「第三層には…ああ、坂本玲人とシャーリーが居たか。どちらかを出しておけ。」

「はっ、そのように」

「人権に対する考えが弱いチーナ地区住民など守らなくても良いのだが、輸送に関わる橋と道は守れ」

「はっ、それでは坂本玲人に伝達致します」


***scene13


ラ・フランス第二層、C地区。


今はもう浮浪者となった髭の男が酒を飲んで酔っ払っているが風向きが変わるのを感じる。

それは騎士にしか感じる事が出来ない予感。


誰かの決闘が行われるのだ。


「おーいハロルド、ちょっくらテレビ付けてくれ」

「んあ、何、決闘?」

「らしいね。おーいみんな!決闘だ!決闘始まるぞ!さあ、ハッパ吸ってないで賭けの始まりだ!」


ジャックはボロボロのコートから「七星」という銘柄の煙草と取り出して、吸った。吐き出す白い煙と煙草から立ち上がる煙が、そう明るくも無い空色の天井に溶けていく。


そこに現れる、一人の女性。般若の仮面を被っている。


第二層では知らない者はいない、最も残忍な守護者と恐れられる、青髪、常に般若の

仮面で顔半分を隠す女性。


その女は黙って強引にジャックのコートから煙草の箱を奪い、去った。


歩きながら煙草に火を付けて吸う、後ろ姿。


ジャックはその女の後ろ姿を見て、一人だけ面白そうに笑う。


女の姿が見えなくなってからハロルドがジャックに尋ねた。


「たまにここに来るけど、何だい、ありゃ」

「昔のツレさ」

「あの青龍がお前の彼女だったってか!?嘘だろ!?」

「仕事を一緒にしていたんだよ、もう遠い昔の話さ」




***scene14


ジジ、ジジジジジ、ジジ、キュイーン、ギギ、ガガ──


あーあーあー聞こえますかーぁ?

こちらコッペリア放送局、ただいま何と、革命の、革命の、革命の、

決戦が行われようとしてまーす。中継のフェリシアちゃーん?


はーい、みなさまのオナオナアイドル、フェリシアちゃんでーす。

こちらでは両者ともにぐるぐるぐるぐる螺旋階段を登っているところですねー。

目回んないのかしら。

そして、はーい、扉どーん!両者、決闘場に来たみたいですねー。目つき怖ッ。

えーこちらに届いた情報によると、どちらも次期女王の座を狙ってるらしいですよー?

一旦スタジオおかえししまーす。あ、最近twisterはじめたのでフォローよろよろー。


はいはーい、スタジオのスピカでーす。

twisterはじめたとかそんなんどーだっていいわよ。

さーてこの決闘、どうなることやらどうなることやらー?

でもさ、次期女王の座って、なんかごーまんちきよねー。




***scene15


ラ・フランス各層の各場所で決闘の映像が映されている。


富裕層が多い第四層では巨大な空中モニタがあり、皆それを見ている。


層移動都市型エレベーターでも、また。


決闘の時は「コッペリア放送局」による電波ジャックが発生する。


ラ・フランス各層の都市の全ての受信機、つまりテレビ、ラジオ、電話などが乗っ取られる。それは日常的に起こるのでラ・フランスの住民は不思議に思っていない。


生まれた時からそれがあると、それが当たり前だと思ってしまうように、存在する。だが、この電波ジャックを行っている「コッペリア放送局」という放送局はどこにも存在しないのだ。


「籠目ノ鳥学園」には第三層学生騎士が戦うという事で学生達がフロアに集まってきている。ミシェルお姉さま素敵ー!がんばってー!という黄色い声援が飛ぶ。




***scene16


層移動都市型エレベーター、下層、姫製造エリア。


赤いランプに照らされた室内の水槽の中、一人の姫が目を覚ます。


作業員が上へと報告する。


「女王の計画書の予定通り、姫の一人が目を覚ましました」

「病院のデータはどうだ?」

「同日時の同時刻に騎士が生まれたそうです。現在16歳」

「わかった」




***scene17


既に戦闘に入っている2人の騎士。動きの一つ一つに数値が光として飛ぶ。


剣の打ち合いが連続して行われる。


騎士ミシェル・ウィルソンにダメージが入り、後ろにいる姫が吹っ飛ぶ。


姫の方に振り返って声を掛けるが、ミシェルの姫は苦悶の顔に一瞬だけ快楽を貪るような表情をしている。


それを見て痛ましい表情をするミシェル。




***scene18


くりーんひっとー!やっぱり経験の差? 初体験って早く済ませちゃったほうがいいよねー。

えー中学生にもなって童貞ー? キモッ、ありえなーい。

はーいここで第四層カジノでのオッズ、やっぱりソン・ジョンファが人気っぽいですねー。

どうですか解説のオクムラヒデアキさーん。髭剃ったほうがいいよー。


…うるさいな。まあ、戦闘経験の差とあと若さですかね。

若いと相手の力量というものがどうしても見誤ってしまいますからねー。

あとナイフは例外的に2刀流なんですよね、攻撃力は全体的に低いんですが、

2回攻撃が出来ますから、防御ミスるとキツいですねー。

それと宣伝ですみませんがこの度「サテライトクラスタ」というゲームを作りま、あ、マイク返してくだ


まったく誰よー 番宣とかやらせんじゃないわよー むきー。

それじゃここで中継のフェリシアちゃーん、そっちどーなってますかー?


えー、スポンサーさんと寝まくれって?あんなキモ親父たちと?

お金持ちなのはいいんですけどーキモい顔は生理的にムリっていうかー。

ブドーカンとってくれるっていうなら別ですけ…

あ、はーいはーい、みんなのオナオナアイドル、フェリシアちゃんでーす。

こっちら、すごいですよ、打ち合い打ち合いまた打ち合いの連続!

ソン・ジョンファの方は短剣でキツイかなと思ったんですが、

何と4回連続攻撃でーミシェルちゃんぴんちーってところでーす。


おおっと、ミシェルちゃん捨て身で行ったー!

自分の身長ぐらいある剣を振りまわーす、も、回避!

そしてソン・ジョンファちゃんは止めの一撃!!

決まったー!あ、イッちゃった? イッちゃったのー? いいなーうらやましいなー。




***scene19


立つ事も出来ないミシェルの姫。


もっと、もっと──苛めて、と騎士の姿を見ずに倒れこんだまま体の苦痛と快楽を味わおうとしている。


騎士ソン・ジョンファの蔑視。


「哀れ、ですわね」とソン・ジョンファの姫が言う。


わたしもああなりたかったな、と、ソン・ジョンファの背中にすがり付き、せがむような目つきをする。


それをソン・ジョンファは振り払う。ソン・ジョンファは悲しそうな顔をして、どうして、と繰り返す。


どうしたの?という表情をするソン・ジョンファの姫。


自分で遊ぶために、わざとそのような顔をしているのだとソン・ジョンファは知っている。




***scene20


いつからだろう、姫を憎むようになったのは。


私は騎士となり、姫という唯一の守るべき存在がいて。


最初は守らなければならないと思っていた。


姫には自分しかいなくて、愛しくて、愛しくて、体を交わして。


しかし、決闘で行われるのは、ただ、ひたすらの、凌辱だった。


体を切り刻まれる度に、痛みと、それを凌駕する程の性的快楽が姫を襲う。


セックスの快楽など比較にならないほどの。


一度、その快楽を知った姫は依存症のように決闘を要求する。


壊れても構わないと思っている。


壊れる時には想像もできない位の快楽が待っているから。


だから、憎い。


好きなのに、愛しているのに、私の手では、姫の望むようにはできない。


だから、変える。


世界はラ・フランス。長期熟成によって腐敗が進み、高貴で芳醇な腐臭を放つ果実。


最上層には女王が存在し、女王の力で第一種永久機関が動いている。


女王さえ殺せば、世界は私の思うがままに変わる。


革命せよ。


それしか姫を救済する手段がないのなら。




***scene21


騎士ミシェルが姫を抱き起そうとするが、姫はそれを振り払う。


口には満足そうな笑み。傷つくミシェル。


それを覗き込むソン・ジョンファの姫。ミシェルの姫をうらやましそうに見ている。ミシェルは心が折れたように崩れ落ち、この世界を憎むように泣きながら咆哮、姫の首を強く絞める。


「どうして!どうして!どうして!どうして…!」


分解されていく、ミシェルとその姫。




***scene22


ラ・フランス第三層都市、チーナ地区。


坂本玲人は携帯電話をポケットに閉まった。


「行くのですか?」と、彼の姫、明倫。


坂本玲人はサイズの合わない、プラスチックで出来た眼鏡のフレームを上げ、答える。


「……仕事なのでな。今はまだいい。第四層どものショーの時間だ」


また同じく、チーナ地区の別の場所。


「決戦の処理も楽じゃないね」と呟く賞金稼ぎの騎士。




***scene23


層移動都市型エレベーター、上層、籠目ノ鳥学園。


アナウンスが流れる。

「第三層に巨人発生、学生騎士は討伐に向かってください。繰り返します、第三層に…」


ミシェルの敗北、そして巨人化に呆然としている生徒達。




***scene24


各層にて巨人発生アナウンスが流れる。


第四層から降りてくるエレベーターから巨人の姿が見える。


超富裕層の第四層住人が持つ私設軍隊が巨人へ砲撃を開始。


銃弾、戦車砲、ミサイルが巨人の全身を貫き巨人の進行を妨げる、が、すぐに回復する。


火炎放射器が胴体から足元まで一瞬で焼くが、それもあまり効果が無い。


1分持続する粘着フラッシュグレネードが巨人の首元に打ち込まれ、その光で巨人はその場で暴れた。


エレベーターの展望レストランからショーのように眺める2人の客がいる。


このラ・フランスでは貴重な太陽の光で肌を焼いた少し小太りの男が言う。


「海の上で酒飲みながらカーレース見るのも良いがやはりこっちの方がおもしろいね。どうだい、特等席だろう?」


向かい側にはワインレッドのドレスを着た女性。


フォークとナイフでかちかちと肉を切り、口の中へ運び、ちらりと外を見る。


「でも所詮ショーでしょう?決闘に負けた負け犬の」


ヴィンテージのワインを飲みながら男が言う。


「それがいいんじゃないか。哀れで」


女性は興味なさそうに、「男の人ってそういうの好きよね。怪獣とか」と答える。


その間にも巨人に対して爆撃が続けられる。




***scene25


層移動都市型エレベーター。


そこにはエレベーターの動きを制御する5人のエレベーターガールがいる。


この5人の彼女達はエレベーターの中にいながらも、外の様子がわかる。



その瞳は何もかも知っているように冷たい。




***scene26


私設軍隊による爆撃が終了する。巨人が倒されたわけではない。


巨人は物理的な爆撃では死なないのだ。


待機していた騎士が巨人へと駆け寄り、攻撃を加える。


急所を見極めた一閃。


巨人が崩れ落ちる。仕留めたのは坂本だった。




***scene27


各層に巨人発生警報が解除された事のアナウンスが流れる。


エレベーター展望レストランの客は残念そうに「もう終わりか」と呟き、

自分の会社の自慢話をするが、女性は興味なさそうに聞いている。




***scene28


ラ・フランス第三層都市、チナ地区。

崩れ落ち光になって消えていく巨人の傍、出遅れた賞金稼ぎの騎士が、巨人を倒した騎士に「たまには俺にやらせろよ」と吐き捨てる。


巨人を倒した坂本はその言葉を無視し、その場を去った。


「無視かよおい、酒でも付き合えっての」




***scene29


層移動都市型エレベーター内、籠目ノ鳥学園、第二層剣術部。



そこで汗を流す“あなた”がいる。


“あなた”ではなく別の“あなた”なのかもしれない。


巨人発生アナウンスは聞いていたものの、先ほどの決闘は見ていなかったようだ。

横で素振りをしているカーディナルを見て綺麗な人だなと思う。

カーディナルは“あなた”の視線に気づいたのか少し困ったように笑う。




***scene30


どこかは分からない暗室、守護者達の会議。取り出されるファイル。

「カシキブレインデバイスコンピューターによる女王の計画書のLP2010、現段階の解析によると…」



ファイルにある写真は“あなた”のものだ。



「女王の気まぐれにも困ったものだ」

「我々には不都合しかないな」

「姫は?」

「女王の計画書の通り、この人物と同じ誕生時刻に目を覚まし、培養液を洗浄、既に用意できております」

「LP2010まで事は起こっていないが、そうとは言え何が起こるかわからん。監視を続けろ」

「誰にやらせましょう」

「この人物の周囲の人間を脅し、こちら側に付かせればいい。手段は問わない」

「はっ」




***scene30


第二層剣術部の外、廊下を通りすぎる少女がいる。女生徒。


“あなた”はその少女に一瞬目を奪われ、その隙を突かれて攻撃を食らってしまう。


「たるんでるなー」とカーディナル。

「おまえもだ」と橘、木刀で軽くカーディナルの頭を叩く。


この2人は気づいていた。


さっき通った女生徒、それが「姫」だということに。


騎士ならば気付いてしまう。2人は驚いたように“あなた”を見る。




***scene31


“あなた”はこの世界の住人になる。


『騎士』となり、『姫』と共に他の騎士達と戦うのだ。




***scene ??


ラ・フランスには存在しない場所。どこかの放送局の収録スタジオ内。

髭を生やした架空のゲームデザイナーがいる。


はい、収録オッケーでーす、おつかれさまでしたー☆ と頭を鈍器で殴るようなキンキン声が聞こえ、男はこのままここにいると脳がおかしくなるなと思った。


少し遠くから、初老の男性達の、年を取ると台詞覚えが大変で、という会話が聞こえ、

また別の所では作り物の武器を片付けたり、セットを解体している。


「──この物語はフィクションであり、か」


横にいたアナウンサーの子が、オクムラさん収録おつかれさまでしたー☆ と挨拶をし、オクムラと呼ばれた髭の男は、ああ、お疲れさん、とだけ答える。

ADになりたてと思われる女の子がオクムラに飲み物を差し出し、オクムラはそれを飲んだ。




ラ・フランスでは栽培していない、酸味が強い、赤い実のジュースだった。



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