第23話 魔法と剣

-鍛冶屋-


今、鍛冶屋の主人はクルスの装備を選びに、奥の工房へと行っている。


『本当に鍛冶屋なのか怪しいですわ』


「さっき工房が見えたから本物だよ」


ベルは今でも疑っている。

さきほどクルスは、自分がナムル村出身で、ここへは冒険者になるために来たこと。そして知り合いのエルフに、聖なる宿り木を紹介してもらったこと。宿に行くとドレイクさんが宿賃を無料にしてくれたこと。最後に今日冒険者になったことを、主人に正直に伝えた。

主人はクルスの説明にかなり驚いた様子だった。


「ドレイクがタダにするなんてありえない・・・このガキに特別な何かが・・・?」


独り言を言いながらクルスを見つめている。突然、主人が立ち上がった。


「お前にのを探してくるから待ってろ」


クルスにそう言い残して、店の奥にある扉を開けて消えていった。どうやら、置いてある装備を見に行ったらしい。扉が開いたとき、クルスには工房らしきものが見えた。装備はここで作っているようだ。


しばらく待っていると主人が戻ってきた。両手には剣が入っているさやと胸当て、そしてマントを持っている。


「ほら、受け取れ」


主人は持ってきた装備をカウンターに置く。クルスは恐る恐る鞘を持ち上げた。


「あれ、軽い!」


クルスが想像してた以上に鞘が軽かったため、思わず声に出てしまった。腕を組んだ主人がニヤリと笑う。


「いいから、抜いてみろ」


クルスが鞘から剣を抜いた。見た目は鉄で出来た普通の片手剣だ。しかし異常に軽い。


「その剣が軽いのは魔法をかけてあるからだ。知り合いの魔法使いがかけた。見た目からして非力そうなお前にぴったりだろ」


『剣に魔法ですって?(ニャン?)』


主人の説明にベルは驚いている。主人は鳴き声でベルの存在に気付いたが、全く気にしてないようだ。クルスはじっくりと剣を見た。刃は吸い込まれそうなくらい綺麗で、刃こぼれなどひとつもない。これでもかというくらい磨かれており、自分の顔が映っている。素人目でもこの剣が業物だとわかる。


「剣はそこにおいて、これを着てみろ」


慎重に鞘に剣を納めたクルスは、主人から胸当てとマントを受け取った。胸当てをつけてみると丁度よいサイズだ。剣ほど軽くはないが、動きやすい。そしてかなり頑丈そうだ。

マントは冒険者にとって必須らしい。雨風から身を守り、防寒具にもなる。


「あ、あの・・・」


「ダンだ」


ベルが驚いたのと同様に、クルスも剣に魔法をかけたということが気になっていた。


「ダンさん、どうやって剣に魔法をかけるんですか?」


「そんなの俺にわかるわけないだろう。面白い魔法を発見したと聞いて、試しにその剣にかけてもらっただけだ」


ダンの話を聞いて、魔法は発見するものなのかと、あまり理解していないクルスは納得する。ベルはというと驚愕の表情を浮かべていた。


『魔法の真髄しんずいはすべて理解されたと思っておりましたのに・・・クルス、その魔法使いがどこにいるのか、そのドワーフに尋ねてください!(ニャオ!)』


「その魔法使いはどこに・・・?」


クルスはベルに言われた通りダンに聞いてみる。


「バーン・・・魔法使いの名前だが、バーンは数年前までこの街にいたんだが、次の魔法を探求すると告げ、旅に出てそれっきりだ」


『・・・それは残念ですわ(ニャ)』


ダンからもういないことを告げられ、ベルは落胆している。ふとクルスはあることに気付いた。


「ということは、この剣と同じような物は?」


「ヤツが魔法をかけたのはその剣だけだ。剣を試した次の日に、置き手紙だけを残して、突然旅に出たからな。相変わらず変わったヤツだ」


バーンは魔法が成功したから、次の魔法を求めに行ったのだろう。クルスはそう解釈した。そしてこの剣はどのくらい貴重なのかと、怖くなってきた。


「こんなすごい剣を買うお金が――」


「金などいらん」


クルスはダンのその一言に驚いた。その姿に満足するかのように、ダンは椅子にどっかと腰を下ろす。


「そのかわり、剣のことを誰かに教えてはいかん。無論、触らせることも。外観は普通の剣と変わらんから、気付かれないはずだ。ああ。その胸当てとマントはだ」


先ほどとはうって変わって、真面目な表情で話すダン。そんなダンを見てクルスは深読みをする。


(・・・もし剣を渡す相手を間違えると、おおごとになる。それならいっそのこと、新人冒険者に手渡そうと考えたんだろうか。新人がこんな剣を持っていても、誰も気付かないだろうし・・・)


「・・・わかりました。ありがたく頂戴します」


「ふん、早く持っていけ。」


クルスはカウンターに置いてある鞘を手に取り、店の扉へと歩き出す。扉を開けて外に出たとき、後ろからダンの声がした。


「剣にキズがついたら、ここに来い」


クルスは頷くと、そっと扉を閉じた。クルスとベルは街へと歩き出した。


「何だか、よくわからないけれど、いいのを貰っちゃったな」


『いいのどころではありませんの!その剣の価値は・・・あなたに言っても仕方がないですわ!』


なぜか怒り出すベル。しかしクルスはベルの態度など、まったく気にしていない様子だ。


「たしか宿の裏に広い庭があったよね。宿に戻ったらドレイクさんにお願いして、素振りさせてもらおう。」


上機嫌に歩くクルス。

今回でお金がかからない出来事が2回目。クルスも多少は気にしているが、それほど深くは考えない。自分が重要人物だと思われている事など、知るよしもなかった・・・。


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