陽キャたちが俺が書いたという作品を馬鹿にしている。※ただしその作品は俺のものじゃない。

むこうみず太郎

陽キャたちが俺が書いたという作品を馬鹿にしている。※ただしその作品は俺のものじゃない。

「へ〜?陰キャくん、こういうの呼んでいるんだ〜?」

「っ!か、返してください。」

「えー?やだー!」



ある日の昼休み。

教室の片隅にひっそりといる。ひっそりとスマホで小説投稿サイトの投稿作品を見る。



たったそれだけのことだった。


誰にも邪魔にならないようにしていたが、どうやら俺は悪目立ちしてしまうらしい。



いつもクラスメイトにいじめられてしまう。今日もそうだった。


今日もまた、昨日と同じように陽キャと呼ばれる人種たちが俺のことを馬鹿にするために俺の席を囲んだ。


昨日と違うことをあげるとするならばがある少女がその輪に加わっていることだろうか?



隣のクラス所属の学校一の美少女とよく称せれているその少女の名は狩野マリネ。先生たちの間では優等生と知られている。


そんな彼女はその陽キャたちの俺へのいじりをとめず、逆にそれへ加担するためにか俺のスマホを掘り上げた。天はきっと彼女に性格の良さをいれることを忘れてしまったのだろう。


この輪の中で唯一隣のクラスである彼女は俺をいじるときにいつもいるわけじゃないが、時々俺の前に現れる。わざわざ、だ。


そして必ず俺のスマホを奪い、



「へー?陰キャくん、こんなの読むんだ〜!なになに〜?『そして真里は言った。「嫌なんて言ってないじゃない!」と。その言葉に俺は』‥‥‥ってあはっ!陰キャくん〜?こーゆーの書くの好きなの〜?キモチワル〜!何この薄っぺらい言葉〜!!キャラもやばくない?こんな女の子、実際にいるわけないじゃん!」



俺が読んでいる小説投稿サイトの投稿作品である小説の一節を必ず読んで、それを馬鹿にする。


そこには作者へのリスペクトも何もなく、ただただ侮辱するだけ。


許される行為ではないのだろうが、俺は黙っておく。どんなにこの作品を狩野さんが侮辱しようと俺は黙ることしか出来ないからだ。


それに狩野さんが言うようにこの作品は薄っぺらいし、キャラも薄い。だが、本当に熱意だけは俺はこめ。いや、今の狩野さんにどれだけ言ったって、どれだけ思ったって、きっと無意味なんだろうな。


何を言っても無駄なことはわかっているが、一応言っておくか‥‥‥。伝わらないだろうけど。



「そ、その作品は俺の書いたものではありません‥‥‥。ですがその作品には魂が込められていて‥‥‥!!」


「こんなのに魂なんて入っているわけないじゃん。馬鹿なの?陰キャくん?」


「アイツってホントキショいよなぁ〜!」


「狩野さんに口答えなんてほんとに馬鹿じゃん。」



狩野さんがあざ笑ったのを境に口々に陽キャグループが俺のことを便乗して馬鹿にしてくる。



「書いたのは陰キャくん?」


「いや、あの‥‥‥。」


「何いってんの?こ〜んなに気持ち悪い作品、おんなじぐらい気持ち悪い陰キャくんぐらいしか書けなくない?ねえ、陰キャくん?誤魔化さなくたっていいんだよ?」


「狩野の言うとおりだな。」


「マジで気持ち悪いもんな。この陰キャ。」


「それに『真里まり』ってもしかして狩野さんのことなんじゃない?ほら、『マリネ』じゃん?狩野さんって。」


「うっわ。きっしょ。ヤバすぎない?陰キャくん。」


「え?陰キャくん。普通に気持ち悪いんだけど。狩野のこと好きなの?」


「うわ〜。だったらごめんなさいだわ〜。」



周りにそう答えつつ、俺に歪んだ表情を示す狩野さんに俺は限界が近かった。



「きも。」


「陰キャくんって本当に存在自体終わってね?」


「それな!」



誰もが俺のことを悪く言う。こんなのが俺の昼休みだ。早く休み時間が終わるか、スマホを返してほしい、が‥‥‥。



狩野さんの様子を見るとあと少しというところか。


しょうがない。

俺はため息を密かにつきながら、狩野さんと向き合う。



「何度だって言います。その作品には魂がこもっています。確かに少し薄いところはありますが、それでも確かにこの作品には熱意が入っています。」


「‥‥‥陰キャくん。いつもそうやってスマホの小説のこと言っているけど、やっぱ陰キャくんが書いたんでしょ?自分が書いたんだからそうやって言われて悔しいんでしょ?」


「あ!ね?ほら〜。狩野さん見て〜?ログインされてるよ〜?これ。マジで陰キャくんが書いたんじゃね?」


「うわっ。まじじゃん。」



狩野の周りにいる陽キャたちが狩野の持つ俺のスマホを触りだしたことで慌てる。


っ!不味い!!


今までは昼休みまでにログアウトしていたから俺のアカウントに触られていなかったけど、今日はしてない!!


今触られたら一発でアウトだ!!ヤバい!!


「返し、」


思わず俺が怒鳴ろうとすると、いきなり狩野さんが『あっ!』と声を出した。


「もう私、帰るわ〜。チャイムもう少しだし。」


と、俺のスマホを持った狩野さんが言って、俺にスマホを投げる。


危うくキャッチ出来たが‥‥‥、もう少しで落としそうでヒヤリとした。



だが、周りの陽キャどもはそれが気に食わない様子だ。



「え〜?いいとこだったのに〜?」


「いや、先生にバレたらヤバいじゃん?一応私、優等生さまだから。」


「そういやそうだったな。狩野が優等生とか笑えるわ。」


「何を〜!?ま、そういう訳。また遊ぼうね?い・ん・きゃ・くん?」





******





家に帰った俺はスマホでSNSのアプリを開いた。


「俺のスマホ触られなくてよかった‥‥‥。あっぶな。変なことされたら今度の企画がなくなるとこだった‥‥‥。」


俺は確かに狩野さんの言う通り、小説を投稿している。


ただし、あの作品は俺のものじゃない。


仲のいいネッ友から頼まれて読んでいるものだ。


『投稿した作品に感想をください』、そう言われて読んでいたものだ。



「お、来てる。」


ちょうど頼んできた人からのDMが送られてきていた。


〈感想、ありがとうございましたm(__)m〉


__〈あれでよかったのか?〉


〈はい。自分の思っていた通りのアドバイスでした(笑)今後に生かしていきます。〉


__〈ところで、今日学校でアカウントが乗っ取られそうになったんだが、俺はこの怒りをどこにぶつければいい?〉


〈‥‥‥すみませんでした(-ω☆)キラリ〉



と。その言葉に俺は思わず叫んだ。


「まじで絶許!!狩野マリネ!!」


と。




******






あの作品は鹿だ。


俺と狩野マリネが仲良くなったのは一年前。ちょうど俺と狩野マリネことPNペンネーム、『かまりんとう饅頭』が仲良くなったのはその頃だ。


俺のサイトの投稿作品を見て感銘を受けたとかなんだとかで書き方を教えてほしい、と初心者の『かまりんとう饅頭』さんからDMが来たのだ。その勢いに負けて、色々とアドバイスをしていた。その頃は確か高1ぐらいだったと思う。


俺は中学の時から投稿していたにも関わらず、ネットでの知り合いがいなかったため、まあいいかと引き受けたのだ。


そうこうしてお互いがお互いの作品を見ているうちに俺は『かまりんとう饅頭』さんが同じ高校のやつだということに気がついた。


ご当地ネタがちょくちょく入ってくるし、うちの学校の噂がふんだんに用いられていたりして、間違いなく現役のうちの高校生だということがわかった。


そのことをDMで確かめると、なんと『かまりんとう饅頭』さんがあの狩野マリネだということでびっくり仰天。


それを知ったときに死ぬかと思った。


俺の正体もバラすと、あっち側もびっくりしてついに翌日の学校で出会うこととなった、のだが‥‥‥。


俺はクラスの陽キャどもにいじられていたため、あまり狩野さんと関わりたくなかった。


一方で狩野さんは俺に直接アドバイスみたいなのを言ってほしいみたいだ。別に変わらずDMでいいじゃないかということはいったのだが、聞き入れてもらえなかった。


そこで狩野さんは思いついた。


『いじりに参加するので、そこでアドバイスしてください!』byかまりんとう饅頭


これを言われたときは俺のことを嫌いになったのかと思った。



でもやってみると、俺のストレスが少しだけ軽減したように感じる。


学校一の美少女の狩野さんに陽キャ共が何故か従うのだ。よくわからないが。



その様子が少しだけ愉快だから、今の今までいじりの中で問題点を指摘するアドバイス方法を実践している。



唯一面倒くさいのが‥‥‥、すぐ病むことだ。


〈今回は本当にこんなのしか書けないんだ‥‥‥、才能ないっ!って病んでいましたけど、『ばいも』さんのおかげでなんだか元気でました!!(≧∇≦)/〉


__〈よかった〉


〈ただ、あの陽キャ共は今回は許せません。あんな拙作を『ばいも』さんのものだと勘違いするなんて!! (# ゜Д゜)今度制裁しておきます!!\(^o^)/多分、明日明後日あたりは学校に来ませんよ!!もうそろそろ今まで『ばいも』さんをいじめた仕返しをする気だったのでこの機会に色々とバラしちゃいますね♪〉


あっぶね〜。あのときに『作品に魂がこもっている』って言っておいてよかった!!


『ばいも』こと俺ナイス!!


コイツすぐ病むから怖いんだよな‥‥‥。しかも病んだらしばらく連絡来ない。かつ、狩野さんが病んだ次の日の先生の目が厳しくなっている。マジであいつ、あのとき裏で何をチクったんだ?



というか『明日明後日学校こない』って、『色々バラす』って何をする気なんだよ‥‥‥。狩野さん‥‥‥。



〈あ!そういえば次回作投稿したのでぜひ!!〉


__〈ああ。わかった。〉


〈それで〜!『ばいも』さん〜?〉



声が聞こえてきそうな文に少しだけ『うっ』となる。またあの話か‥‥‥。



〈いつになったら付き合ってくれるんですか!?(●`ε´●)〉


__〈そのうちな。〉



3ヶ月前に狩野さんから告られたのだがまだ返事ができていない。


それもそうだ。だって俺はかなり忙しい。誰かと交際〜、なんて時間はないから。



〈忙しいの分かりますけどぉ〜!!『ばいも』さん的には私のことどう思っているんですか?って話ですよ!!ヽ(`Д´)ノプンプン〉


__〈まあ‥‥‥。凶暴だよな。〉


〈きょ、凶暴!?(´;ω;`)ちょっと!!失礼じゃないですか!?⁽⁽(੭ꐦ •̀Д•́ )੭*⁾⁾〉


__〈そういう好戦的なとこだぞ〉


〈むむっ‥‥‥(-.-)〉



そこでDMをきるとこにした。しなくちゃいけないことが多すぎて辛い。


何せ、からな‥‥‥。


実は、『かまりんとう饅頭』さんとDMを取り始めたときには既に俺の作品は書籍化されていて、更にアニメ化がこの間決まった。展開が早すぎて追いつけないところもあるが、しっかり準備をしなければならない。


俺の作品を好きな人に完璧なものを、喜んでもらえるものを作らなくてはならない。だから狩野さんの誘いには申し訳ないながら当分乗れなさそうだ。


でも、もしアニメ化が成功したら俺は彼女に‥‥‥。



そんな妄想をしながら俺は仕事に取り組み始めた。


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