8章 心まで、クズになるくらいなら

第25話 口は禍の元


(……だりぃ)


 部活の時間をチャイムが鳴り、俺は荷物をまとめながらため息を吐く。


 昼間の妙な空気を思い出し、ぶっちゃけあまり授業に集中できていなかったりする。


(いっそサボろう……と思えないのが、ヘタレなんだよなぁ)


 サボったらサボったで、昼間のことを気にしてるのがバレバレだし、変にあいつらに気を遣わせちまう。


 そんなことになれば、今後も余計に部活に参加しにくくなるわけだ。


(結局は悪循環……幽霊部員ってわけにもいかないしな。俺ってば、本当に都合のいい男)


 呆れ過ぎると笑いも出てくる。


 俺は誰ともなく笑みを浮かべていると、部活に行こうと準備していた伊色と依代が目が合ってしまう。


「……」

「……?」


 なんかすごい顔で首を傾げられた。……っていうか、溢れんばかりの「何考えてんの?」みたいオーラが若干痛い。


(まあ、いっそ変な空気になったままよりはマシか……)


 今度は椅子に深く座ってため息を吐く。


 すると、そのまま俺の方を見ていた二人からさらに変な目を向けられていた。しっしっ、良いからさっさと部室行け。


 俺が野良猫を追い払うように視線で威嚇すると、伊色と依代はますます首を傾げられる。いや俺、猫好きだけど。


 そんな時だった―


「ち~っす。スドっち。元気してる~?」

「……槇村か」


 わざわざボッチの俺に話しかけながら、かつ馴れ馴れしそうに肩を組んで来る超絶面倒くさそうなノリの男なんて、そんなに多くはない。……というか、槇村しかいない。


 俺はその面倒くさそうなノリを嫌がる素振りを隠すことなく視線にガン振りすると、槇村の方にその目を向けてやった。


「なんだよ……。スドっちって……」

「ってことで、カラオケね」

「聞けよ、人の話。……つか、待てよ。なんの話も聞いてないのにいきなり無理だろ」


「え? なんで?」

「人間には常に予定というものがあるからだ」

「あ~、割引券のこと? 俺、あんまり割引とか興味無いんだよね~。ノリで入るからさ」


「……いや、予定だっての。スケジュール」

「部活、伊色さんと依代さんと同じなんっしょ? そこら辺、聞きたいんだよ~」

「いや、だから話を―ん?」


 俺が日本語としての会話が成立していない槇村との会話にため息を吐きかけていると、槇村から発された言葉に止まってしまう。


 おい、待てよ……なんで、こいつが部活のこと知ってんだ?


「おい、槇村……」

「マッキーでも良いよ?」

「ぜってぇ呼ばねぇ……。さっきの話、なんでお前が知ってんだよ?」


「なに? スドっちってニックネームの話?」

「なんでだよ……ンなもん、どうでも良いわ。……部活の話だよ」

「あ~、何? スドっちが実は手芸したい乙女趣味があったって話?」


「いや、ねぇよ……。そうじゃなくて、なんでそこら辺の話を知ってんだって聞いてんだ」

「ん? そりゃ女子に聞いたから?」


 そう言って悪びれることなく言う槇村。


 そういや、こいつは女友達が結構多いタイプだったな……俺とは別次元の人間過ぎてその発想が無かったわ。


 ついでに、俺と槇村の会話は伊色と依代にも聞こえているらしく、それぞれ反応を見せていた……特に依代。


(……そういや、あいつも女友達とか多かったよな。自分の部活とか普通に口にしてそう)

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