第29話 傍若無人な姉
「そういえば、あなた達がヒロと一緒に部活してる子?」
緋由は俺から興味の対象を伊色や依代へと変える。
二人は突然年上の女性から声を掛けられたことに驚いたのか、緊張しつつも簡単な自己紹介を返していた。
「はい……伊色 悠香と言います」
「よ、依代 翠です!」
「ふ~ん……伊色さんと依代さん……ね。うん、良いね。元気があって」
伊色達が名前を答えると、一瞬だけ表情を変える緋由。……間違いなく元カノだとバレた。
当時、振られた相手について苗字だけ答えてしまったのが、こんなところでアダになるとは……何やってんだ、昔の俺。
俺に意味深な視線を向けてくる緋由の視線から逃れることはできず、せめてもの抵抗としてその顔を睨み付け返してやる。
「……なんだよ?」
「ん~? 別に?」
「……本当、お前何しに来たんだよ」
「だから部活の見学だってば。ま、ヒロが手芸部に入ってるっていうのは驚いたけどね~。部屋の中に手芸の本とか無かったし」
「勝手に人の部屋漁るんじゃねぇよ……」
「言っておくけど、私ヒロがどこにああいうの隠してるかも知ってるよ?」
「えぇ!?」
ニコニコと笑いながらとんでもないことをのたまう姉の言葉に、依代が驚いて声を上げていた。おまけに、伊色からは理不尽に睨み付けられてるし……なんでだよ。
「……適当なことばっかり言ってると、今すぐにつまみ出すぞ」
「それはヒロじゃなくて先生が決めることでしょ? ね、先生?」
「ま、まあ……」
突然、話題を振られてしまい困惑した表情を深める三日下先生。……もう部活どころじゃねぇな。
そんな中、ふと緋由は俺の座っていたところまで来ると、ニコニコとした表情で俺の座っている椅子を指差した。
「ヒロ、そこ退いて」
「……俺の席なんだが?」
「うん、知ってる。でも、私はお客さんなんだし、今日は別の椅子出して座ってよ」
「……へいへい」
逆らうだけ無駄だということをよく知っている俺は、さっさと折れて部室の後ろの方に寄せられていた椅子を一つ取ってくる。すると、上機嫌に俺の座っていた椅子に座る緋由を見ていた伊色と依代が驚いた顔を向けてきた。
そして、依代はそんな俺を見ながら放心状態で声を上げた。
「……スドが素直に従ってる」
「……見世物じゃねぇぞ?」
「ガン付けられた!?」
余計なことを口走るからだ。
騒がしい依代を置いて俺が伊色や依代、そして緋由からあえて離れた位置に椅子を置く。
そうして俺が呆れたようにため息を吐いていると、伊色は気を遣ってか、よりによって緋由に質問を投げ掛けていた。
「……普段からこんな感じなんですか?」
「ん? ああ、私達のこと?」
「えっと……はい」
「大体こんなもんだよ、家だとね。この子、私が居るとはしゃいじゃうから」
「……おい、大学生。真っ昼間から酒でも飲んでたか?」
「失礼だな、今日はシラフだよ」
「だったら余計にタチが悪ぃな。アルコールが抜けきってないらしいから、帰りに病院連れってやる。だからその口閉じろ」
「大丈夫だって、帰りは大学に寄るから途中で帰るし」
「いや、何も大丈夫じゃねぇから……」
「あ、そうだ―」
頭を抱えている俺には目もくれず、緋由はニコニコとした笑顔を伊色と依代へと向ける。
何を言い出し始めるかと冷や冷やしていると、いつものように掴みどころのない笑みを浮かべたまま、緋由はとんでもないことを言い出した。
「―悠香ちゃん、翠ちゃん。ねえ、部活が終わったら一緒に帰らない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます