【旧版】インペリアル・フロンティア ~絶対支配のビーストテイマー~

手嶋柊。/nanigashira

第1部:支配の代償

第1話 絶対支配

 霊長が猛き獣を使役する。

 契約紋と呼ばれる、呪術のアプローチ。

 黒衣の青年がまっすぐにふり翳す、細く白い右手の甲に刻まれたあるじとしての刻印。

 ――そして彼の慟哭とともに、彼だけの従者が顕現した。


「無生物さえ使役する、絶対の支配。

 あれが……」


 絶対支配アブソリュートドミナ

 召喚された、黒い機械仕掛けの異形鴉カラミティ・レイヴン

 少女は“召喚”などというものを、生まれて初めて見た。

 金属でできた全長八メートルはあろう異形が、まるで生き物のように蠢いている。


「ビーストテイマー、本物の選者プレイヤー……」


 彼が、そうなのだと。


 対峙せしは全長17メートルはあろう岩竜。

 十二支族において、霊長に通ずるゆえの畏敬を得る。

 知性と崇高を持っているのだ。『王』でもない存在が、契約紋を獲得するためには、それらが必須となる。

 モンスターとそうでないものをわかつために、知性を持ったそれを、プレイヤーは『オルタナ』と呼び表す。

 彼らがこの世界へ持ち込んだ言葉だった。

 彼ら曰くのNPC《ノンプレイヤーキャラクター》、この世界における純人間種も、亜人種族も、ひっくるめて彼らはそう呼ぶのだ。

 そしてその淘汰が終わったころ――


「ネーネリア、と言ったか」


 機械の鴉は、竜の屍を結晶化クリスタライズしつつ啄んでいく。


「やめておけ。プレイヤーはお前を守らない」

「――」


 それは彼へ、彼女が先ほど持ちかけた契約に起因する。


「さっきの、技。

 身体に負担がかかるんですか」


 召喚のことではない。

 彼が苦しい顔を作るのは、先ほど鴉を“纒って”放った技を転機としていた。


「君には関係ない。オルタナのきみには」


 そうまでして、私をのけ者扱いしたいのか。

 大斧を握る彼女は、肩を落とし、ごちた。


「私にはあなただけなんです!」

「ギルドから解雇されたなら、これを契機に冒険者などやめてしまえばいい」

「――」


 すぐに口を噤む。

 彼の言っていることは正しい。私はこの人に、甘えようとした。


「……どうしても続けたいなら、しばらくそこの女についていけば。俺はお前の面倒まで見切れない」

「は、はい!」


 加わった行を、ネーネリアは聞き逃さない。

 彼は腕の一振りで、顕現していた機械鴉を一瞬にして消し去る。周囲がどよめいた。

 ギルド『アーキヴァス・タネガシマ』の面々だ。遠中距離からの攻撃手段を重点的に強化するプレイスタイルで、集団の戦法により、人員の損耗を極力防ごう無難な強さのプレイヤーギルドだが、そこが守りたいのはあくまで所属するプレイヤーであって、その下についたオルタナに対する扱いは軽い。

 時として、肉の盾。

 前にそこで所属していたパーティが迷宮で壊滅し、オルタナであるネーネリアのみが生き残った。すると彼女は自分だけ帰ってきたことを咎められ、負い目を感じていた彼女自身、抗弁の余地もなく追い出されてしまった。

 ゆえに彼女は今、どこにも所属していない。

 でももし――仲間としてついていけるなら、私は


 立ち去る青年の背中へ、ギルドのプレイヤーが心無い言葉を投げかけた。


「あれが始末屋のプレイヤーキラーか。

 たく、ただの人殺しのくせによ――」

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