25.どんなお菓子を作るか決められない
うーん、どんなお菓子を作るか決められん!
店に売ってる材料を見て決めるか。
大体どんなお菓子でも使うのは、砂糖、卵、乳製品だよな。
とりあえず、商店に見に行ってみよう。
露店以外の商店に行くのは初めてだな。
レッドさんとこのロンビ商店は除く。
ロンビ商店には買い物に行ったわけじゃないし。
ここだここだ。ラツカヒ商店。
見た感じ、食品専門店っぽい。
サトナカ亭と冒険者ギルドの間にあって前から見かけていたけど、自分で料理することはないからスルーしてたお店だ。
「おじゃまします」
「いらっしゃい!」
店のおばさんが、威勢のいい声を掛けてくる。
「何をお求めだい?」
「今度お菓子を作ることになりまして、その材料を見に来たのですが」
「それじゃあ、この辺りかねぇ」
ほー、砂糖とか小麦粉とかは量り売りなのか。
欲しい量だけ買えるのはありがたいな。
「どんなお菓子を作るのかは決まってるのかい?」
「いやぁ、材料を見てから決めようと思いまして。ちなみに卵はどこにありますか?」
「残念だけど卵は品切れ中だよ」
「あー、やっぱり生ものは朝のうちに来ないと売れちゃうんですね」
「いやそうじゃないんだよ。いつもオーソイ町から仕入れてるんだけどね、最近卵が入ってこなくなっちまったんだよ。困ったもんだねぇ」
卵が……ない……だと……?
それじゃあ、もったりプリンもふわしゅわパンケーキも他のお菓子も作れねーじゃねーか!?
これは大問題だ。
あめの祭りが出来ない…………ことはどうでもいいが、お菓子が食べられないのは全世界の損失だ。
卵はお菓子だけじゃなく、良質なたんぱく質や栄養が豊富に含まれているため日々の食事に欠かせない。
完全栄養食とも言われるくらい凄いものなのだ。
それが入ってこない。
事件の匂いがするな……?
冒険者ギルドに戻って聞いてみよう。
―◇◇◇―
「ライチさん、卵の流通が止まってるみたいなんですけど、何かあったかわかりますか?」
「卵の流通が減ってるのは把握してるんにゃが、原因まではわからないにゃ~。特に盗賊が出たとか魔物が出たとかいう話もないにゃ~」
盗賊でも魔物でもないのか……
それじゃあいったい何故なんだ?
卵好きの富豪が買い占めているのか?
「卵が欲しいなら、オーソイ町近くの養鶏場に行ってみるのもいいかもにゃ~」
そうだなぁ、今日は暇だしちょっと行ってみるかな。
卵の流通が滞ってる原因がわかるかもしれないし。
「ありがとうございます。ちょっと行ってみます」
こうして俺はオーソイ町近くの養鶏場に向かうことになった。
―◇◇◇―
俺は今、オーソイ町へ続く街道を歩いている。
若干後悔している。
いや、結構後悔している。
筋肉痛めっちゃ痛い。
瞬間移動できる魔法とかワープポイントとか無いのかよ……
せめて乗り物欲しい。
自転車ってすごい発明だったんだな。
ガソリンも電気も無しで動く、異世界最強の乗り物だろ。
自動車や機関車よりも自転車の発明が後なのは、どう考えてもおかしい……
馬車の車輪はあるんだから作れるでしょ……
誰か先人の転移者が作ってないかなぁ。
ちょっとこの辺で休憩しよう。
俺は街道の端に座って休むことにした。
転移してから結構運動するようになって、慣れてきたと思ったんだけどなぁ。
休憩しながら街道を行き交う人達を目で追う。
やっぱり徒歩、馬車、馬のどれかでみんな移動している。
自動車も自転車もない。狼やトカゲに乗っている人もいない。
……現実逃避しててもしょうがないから歩こう。
狼系の魔物を絶対テイムしてやると心に誓って、俺は休憩を終えて再び歩き出した。
―◇◇◇―
「ようこそオーソイ町へ」
ようやく着いた……
いや、まだこれから養鶏場まで行かなきゃいけないんだが……
まずはこういうことに詳しそうなレッドパパことロンビさんに話を聞きに行ってみよう。
「こんにちは、シギさん。ロンビさんはいますか?」
「おや、イヒトさん。またいらしたんですね。店主なら奥の部屋にいらっしゃいますよ」
「ありがとうございます」
俺はシギさんに案内されて奥の部屋へと行く。
コンコンコン
「店主、イヒトさんがいらっしゃいましたよ」
「入れ」
「それでは私はこれで」
そう言ってシギさんは店頭に戻っていった。
「失礼します」
扉を開けると高そうな椅子にレッドパパが座っている。
そうとうあくどい商売してるな。
おまんじゅうの下に小判が入ってるような取引をしているに違いない。
「イヒトくん、よく来てくれたね。うちの商店で修行する気になったのかね?」
何を言ってるんだこのおっさんは。
「いえ、違います。お菓子を作るのに卵が欲しかったんですけど、最近流通が滞ってるみたいで……何かご存知ですか?」
「ふむ、なるほど。それなら我が商店の卵を1個100円で買わんか?」
ほぉ? 卵1個を日本円換算1000円で売ろうってか?
とんだぼったくり商店だなロンビ商店は。
「ロンビさん、0が1つ間違っているようですが? お若いのにもうそんなに衰えがきているなんて大変ですね」
「おぉ、1個10000円で買ってくれるのかね。やはり、Eランク冒険者は違うなぁ」
1個多くしてどうすんだ。1個減らすんだよ。
てか、なんで俺がEランクに上がったこと知ってるんだ?
俺の冒険者ランクは世界中に知らされてるのか?
「さて、お遊びはここまでにして本題に入ろうか」
やはりな、俺もそう思っていた。
わかっていてこの茶番に付き合っていたのだ。
「イヒトくん、実は養鶏場のニワトリが急に卵を産まなくなってしまったらしい。うちも卵が入ってこなくて困ってるんだ。よかったら調査してきてくれないかね?」
「なるほど、そういうことでしたか。もともと養鶏場まで行くつもりだったので、ちょっと調べてみますよ」
「そうか、やってくれるか。この紹介状を見せれば、少しは怪しまれずに話を聞けると思うぞ」
レッドパパはさらさらと何かを書いて渡してくれる。
くっ、かっこいいじゃないか。
"紹介状? これくらいいつも書いてるよ"、とでも言いたげに無駄な動作など一切なく仕上げてくれた。
「ありがとうございます。ちなみに移動手段として大きい狼とかトカゲとかっていますか? あとは馬を必要としない車とか」
俺は気になっていたことを聞いてみる。
「狼? トカゲ? 人よりも大きな狼やトカゲみたいな魔物・魔獣はいると聞いたことがあるが、多分近付いただけで食われるだろう。王都の方では魔石のエネルギーを動力にする車が研究されているらしいが、まだ実用段階ではないだろうな。そもそも移動手段なら馬がいれば十分だろう? 馬を貸してほしいのかね?」
「いえ、実は体力に自信があるので大丈夫ですよ。興味本位で聞いてみただけです」
危ねぇ。馬なんて乗ったことないから、借りても邪魔になるだけだ。
「それじゃあ、行ってきます」
「うむ、頼んだぞ」
情報はあまり手に入らなかったが、紹介状という最高の手札を手に入れることができた。
やっぱり持つべきものは、やり手の悪徳商人の知り合いだよな。悪徳かどうかは判断が分かれるところだが。
さて、さっさと養鶏場に行くとしますか。
問題が解決できれば最良だが、せめて通常価格で卵を手に入れたいところだ。
―◇◇◇―
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