15.新たな出会い

「今日中に頼むぞ」


「ハイ、イッテキマス……」


 俺は少し重さのある包みを背負って冒険者ギルドを出発する。

 それぞれの集落は街道で繋がっているから、街道を通っている限りは迷うことも魔物に襲われることもないらしい。

 盗賊なんかはたまに出没するらしいが、しばらくこの辺りでは確認されていないとか。


 右手に海を見ながら街道を行く。

 たまにはこうやって景色を楽しむのもいいよな。

 俺は日本でも海沿いの町に住んでいたから、海の壮大さや潮の香り、波の音を感じると落ち着く。

 日本もこの世界も海は変わらないなぁ。


 ちょっとノスタルジックな気分になってしまったな。

 俺は視線を海から進むべき道へと戻す。


 ん? 馬車が停まってるな。

 こういう時のパターンは2つ。

 襲われているか故障しているか。

 争う声も音も聞こえないから故障のパターンだろう。

 俺に何ができるわけでもないが、一応声だけはかけておくか。


「あのー、すみません。大丈夫ですか?」


「どなたですか? ウチになんや用事でも?」


 ハキハキと喋る女性が馬車から顔を出す。


「いえ、馬車が停まっていたので何かトラブルでもあったのかと思いまして」


「なんやそういうことか。新手のナンパか思ったわ。特にトラブルやないから安心してー」


 そういうと女性はまた馬車の中に引っ込んでしまった。


 まぁ困ってないならいいか。ただ休憩してただけかもしれないしな。

 俺には今日中にやらなければならないミッションがあるんだ。先を急ごう。


 その後はトラブルもなく順調に進んでいくと、ようやく集落が見えてきた。

 港に船も見えるぞ!


 集落を囲う塀も心なしか立派に見える。


 門番さんにギルドカードを見せ、オーソイ町の中へ入る。


「オーソイ町へようこそ!」


 足を踏み入れた瞬間、熱気を感じる。

 市場だろうか野菜や魚を売る店がズラッと並び、活気がすごい。

 他の町からも買い付けに来ているのだろう。

 町というだけあってニミノヤ村とは規模が違うな。

 

 俺は市場をウィンドウショッピングしながら冒険者ギルドへと向かう。

 正直、自炊しない俺にとって生鮮食品はあまり魅力がない。

 ニミノヤ村も海に面しているから魚に不自由しているわけでもないし。

 特にこれと言って異世界ならではのものもなさそうだ。

 魔物肉とかは売ってないんだろうか?


 そんなことを考えているうちに冒険者ギルドに着いてしまった。

 ニミノヤ村のよりちょっと大きいな。


 カラーン


 中に入ると造りはほぼ一緒だ。

 俺は一直線に受付を目指す。


「すみません。ニミノヤ村の冒険者ギルドから荷物を届けに来ました」


「ありがとうございます。すぐに中身を確認致しますので、ギルド内でお待ちいただけますでしょうか」


 わーお、ライチさんとは対応が大違いだ。

 一般的なギルドの受付はこれくらい丁寧に対応しているのだろう。

 まぁ俺はライチさんの対応も嫌いではないが。


 俺はギルド内の休憩スペースで一服することにする。

 1時間半歩きっぱなしだったけど、山の麓で中腰で作業する薬草採取に比べれば楽だったかな?


 カラーン


 ぼーっとしていると、冒険者ギルドに誰かが入ってくる。


「あっ」


 やべっ、声に出てしまった。

 見覚えのある人だったから、つい。

 さっき街道に停まっていた馬車の中にいた女性だ。

 俺はそっと顔を逸らす。

 頼む……気付かないでくれ……!!


「あれ? さっきの新手ナンパ男やん。冒険者やったんか」


 やっぱり気付かれてしまったー!

 しかもあだ名がひどい……

 この人も冒険者なのだろうか?

 それにしては身なりが整っているが……


「いや、ナンパはしてないですし……俺は冒険者のイヒトって言います。あなたも冒険者だったんですか?」


「はっ! そんなわけないやろ! ウチみたいなべっぴんさん捕まえてなんちゅうこと言うんや!」


 いや、べっぴんと冒険者かどうかは関係ないだろ……

 確かに、冒険者じゃないだろうなぁ、とは思っていたが。

 てか、自分でべっぴんさんって。

 まぁ、べっぴんさんだと思うが……


「ウチは商人の娘のレッドや! よう覚えとき!」


「その商人の娘のレッドさんが何故冒険者ギルドに……?」


「そや、ギルドに依頼を出そ思て来たんやけど……あんた冒険者っぽく見えへんし、真面目そうやし、ウチの依頼受けへん?」


 はい来ました、これ絶対面倒くさいやつ。

 冒険者ギルドに依頼しに来て、冒険者っぽくない方がいい依頼なんて……

 しかも相手は商人の娘。何を企んでいるかわからない。


「いや、ちょっとまだ依頼中というか……はは」


 嘘は言っていない。

 まだ中身を確認してもらうまでは依頼中……


「あ、イヒト様。ニミノヤ村からの輸送依頼ありがとうございました。中身の確認ができましたので報酬をお支払い致します」


 タイミングゥゥゥゥーーーー!!

 なんでいつもこうタイミングが良いというか悪いというか、絶妙なんだよなぁ……


「へぇ、なんやわからんけど、依頼終わったみたいやなぁ?」


「は、はは、そうみたいですね。ちょうど今終わったみたいですね」


 空笑いしか出ない。


「で、でもこれから急いで帰らないといけないというか、なんというか……」


 く、苦しい……


「ふーん? そうなんや。残念やなー、ウチにちょこーっと付き合うだけで、報酬1000円やったのになぁ」


 はぁ!? ちょっと付き合うだけで1000円!?

 いきなり目標額達成できるじゃん!

 革の胸当て買えるじゃん!


 ……いや、待て待て待て。

 騙されるな。そんな簡単に1000円なんてもらえるはずがない。

 俺が真面目に薬草採取して3日間かかる金額だぞ!

 舐めんじゃねぇ!


 ……


 …………


 ………………


 ……でも、ちょっと依頼内容聞くくらいはいいよな……?


「ち、ちなみにどんな依頼内容でしょうか?」


「あれれー? 急いで帰らなきゃいけないんやなかったっけー? なんやウチの聞き間違いやったんかなぁ? まぁええわ。依頼内容は簡単や。ウチの恋人のフリして、親父に会って欲しいんや!」


 あ、やっぱり面倒くさいやつだ。

 どこの馬の骨だなんだボロクソに言われてボコボコにされるに違いない。

 いや、でも商人さんならボコくらいで済むかな?


「やっぱりあかんよね……あんたの彼女さんにも悪いし。気にせんといて、ウチのことはウチが自分でなんとかするしかないやんね……ほな、もう会うことはないやろうけど……」


 悲しそうな顔で、肩を落として去っていく。

 そんな顔をされてしまったら放っておけないじゃないか。

 もう依頼内容を聞いてしまった時点で負けだったんだ。

 わかってましたよ。


「待ってください! 俺で良ければその依頼受けますよ」


 にやぁ、とレッドさんの口角が上がる。


「おおきに! あんたなら絶対断らない思たわ! 口約束でも約束やからな、もうやっぱなしにはできへんで!」


 即効で元気を取り戻したな。現金なやつだ。

 完全に嵌められた気がするが、何か事情があるのだろう。

 ちょっと付き合ってやるか。


「はいはい、やっぱなしなんて言わないので安心してください。それと"あんた"じゃなくて"イヒト"です」


「そやったな。よろしゅうな、イヒトはん!」


 こうして俺はレッドさんの恋人(仮)になった。



 ―◇◇◇―

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