11.食事処で初バイト
ここが食事処アズーマ小屋か。
ログハウスっぽいオシャレな感じのお店だ。
どんな仕事を任されるか聞くのを忘れたが、何とかなるだろう。
世界一のサービスを誇る日本で接客業(コンビニのバイト)をしてたんだ。
恐れることはないはずだ。皿洗いでもホールでもキッチンでもどんとこい。
チキンを揚げるのは得意だったんだ。
できれば雇い主は優しい方でお願いします。
ガチャッ
「すみませーん。冒険者ギルドから依頼を受けて来たイヒトと申します」
俺は店内に入り店員を探す。
「はーい! あ、冒険者ギルドから派遣されてきた方ですね? 私は看板娘のミカナです! 自分で看板娘っていうのも恥ずかしいんですけどね……てへっ」
はい、勝ちました。
敬礼しながら自己紹介したあとに、ちょっと恥じらいながら片目を閉じ、舌をペロッと出す。
もうね、あざといことこの上ない。
あざとい、あざとあー、あざとえすとですよ。あざとえすとミカナ、最上級ですよ。
ここで働かせてもらってお給金までもらっていいんですか?
いいんだよなぁ。
「どうかしました?」
近い近い!
そんな近くで上目遣いされたら、おじさんにクリティカルダメージだよ!
「ちょ、ちょっと緊張してしまって……」
「そんなに固くならなくても大丈夫ですよっ!」
ぽんっ
はわわっ。
この子本物だよ。
肩にぽんって、あまりにも自然にボディタッチが出来てしまう。
ナチュラルあざとえすとだ。
「初めまして。冒険者のイヒトです! 皿洗いでもなんでもやらせていただきます!」
はっ! つられて俺も敬礼してしまった。
「イヒトさんは冒険者さんっぽくないんですね。もっと怖い人が来ると思ってたので、イヒトさんみたいな人が来てくださってよかったです!」
確かにギルドマスターみたいな人が来たら最悪だ。
絶対、人前に出る仕事は任せられないよな。
「冒険者さんにはお皿洗いをしてもらおうと思ってたんですけど……うーん、イヒトさんになら給仕もお任せして大丈夫そうですね!」
「はい! 接客業をしていたので、任せてください!」
「そうなんですね! それじゃあ、頼りにしてます!」
頼りにされたら、おじさん頑張っちゃうもんね。
「それでは……食事処アズーマ小屋、開店します!」
―◇◇◇―
がやがや、がやがや
本当にすごい混んでるな。これなら冒険者でもいいから人手が欲しいと思うのも頷ける。
外に列が出来るほどの盛況っぷりだ。
「申し訳ありません。現在、店内が大変混雑しておりまして。恐れ入りますが、店の壁に沿って並んでお待ち下さい」
「2名様ご案内いたします!」
「ご注文をお伺いいたします」
ひぇー
俺は店の外へ中へと大忙し。
ミカナさんと同じところで働けてる喜びを感じる暇もない。
「すみませーん!」
そんなことを考えている間にもお客さんに呼ばれてしまう。
「ただいまお伺いいたします!」
ミカナさんは他のお客さんを接客中なので、俺が注文を取りに行く。
「お待たせいたしました。ご注文を承ります」
「えー、なんでミカナちゃんじゃないんだよー」
20代前半くらいの男性客に文句を言われる。
そう、そうなのだ。
この店、ミカナさん目当ての客がめちゃくちゃ多い。
この手のクレームも、もう何度目かわからない。
そりゃあそうだよ。俺だってミカナさんかショボい男かどっちか選べるなら、ミカナさんに注文取ってもらいたいよ。
それでも店が忙しいから俺が受けるしかないんだよ。
俺は心を鬼に、顔は営業スマイルを貼り付けて対応する。
「申し訳ございません。現在店内が大変混み合っておりますため、私が注文を承らせていただきます」
「ちぇっ、しょーがねーなー」
よかった。みんなミカナさん目当てということもあり、あまりしつこくしてミカナさんに嫌われたくないという思考が働くのだろう。
お願いすればすぐに折れてくれる人が多くて助かる。
このまま大きなトラブルなく、無事に終わると良いのだが。
ガチャ
外の列を抜かして、体格のいいチンピラ風の男が店に入ってくる。
荒らしか? いや見た目で判断するのはよくないな。
「申し訳ありません。店内が大変混雑しておりまして、列の後ろに並んでお待ちいただけますか?」
まだ客である可能性を踏まえて、俺は丁寧に案内する。
「あぁ? 俺はミカナちゃんに用があるの! お前はお呼びじゃないんだよ!」
あー、こいつは客じゃないわ。
見た目通りのやつだったわ。
トラブルなく無事に終わって欲しいとか考えると、大体こういうことに巻き込まれるよね。
失敗した。
―◇◇◇―
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