6.初めての装備と公衆浴場
トラブルはあったがなんとか日が傾く前に薬草30束を採取でき、冒険者ギルドまで戻ってきた。
「いらっしゃいにゃ~」
「どうも。薬草の換金をお願いします」
「今日の薬草も全部質がいいにゃ~。ほい、300円にゃ~」
「ありがとうございます」
無事換金できたし、お婆さんの露店に急ごう。
「すみません。朝、ナイフを取り置きしてもらった者ですが」
「おや、しっかり稼げたのかい? ナイフを買ったせいで宿屋に泊まれない、じゃあ困るよ?」
「はい、なんとか大丈夫です」
「あんた薬草採取の腕がいいんだねぇ。それじゃあ、150円だよ。むき出しだと危ないから、鞘はサービスで付けてあげようね」
「ありがとうございます!」
革の切れ端で繕ったような鞘だが、あるのとないのとでは雲泥の差だ。
俺は150円を渡しナイフを受け取る。
これで残金225円。
また朝食抜きでサトナカ亭に泊めてもらうしかないな。
宿屋の子に「まともに泊まるお金もないの?」って目で見られてしまうがしかたない。
俺は重い足取りでサトナカ亭に向かった。
―◇◇◇―
「……いらっしゃい。今日はキンジと一緒じゃなかったみたいね」
「あ、どうも。キンジくんに何か用事がありましたかね?」
「別に。あんたには関係無いでしょ? それより今日はどうするの?」
「今日も朝食無しで宿泊させていただきたいと……」
「そう。それなら220円ね」
俺は220円を宿屋の子に払う。
これで残金5円か……
懐がさびしい……
「……はい、カギ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
昨日より少し時間帯が早かったので、俺はカギを受け取りとりあえず部屋へと向かう。
―◇◇◇―
ナイフ買っちゃったよ。
俺は誰もいない部屋でナイフを眺めている。
前の世界では包丁くらいしか刃物に触ったことがなかったから、異世界に来て初めての武器にちょっとテンションが上がる。
刃のカーブとか鈍い色とか、かっこいい。もはやエロい。
よく見てみると刀身に何か書いてあるな。
うーん、読めないなぁ。日本語じゃないのか?
このナイフを造った人の名前でも彫ってあるのだろうか。
そういうところも何かかっこいいし、いいよな。
ひと通り眺めて満足、満足。よろしくな相棒。
さて、まだ時間もあるし、公衆浴場に行ってみるかな。
―◇◇◇―
ここがワカワの湯か。
サトナカ亭から歩いて数分の場所に公衆浴場ワカワの湯はあった。
なかなか趣きがあって期待できそうだ。
もしかしたら、浴場の壁面に富士山なんかが描いてあるかもしれないぞ。
てか、着いてから思ったけど、俺着替えもタオルも持ってないぞ?!
着ているものは宿に戻ってから洗濯すればいいが、タオルは無いと厳しい。
どうする、また別の日にくるか!?
「あれ? イヒトさんじゃありませんか? さっそく来てくださったんですね!」
見つかってしまったーーーー!!!!
俺のバカ! どうしてちゃんと考えてから行動しなかったんだ!
銭湯なんて子供の頃以来、来たことなかったから、何が必要かなんて失念していた。
「あ、えっと……すみません、着替えとかタオルとか忘れちゃったんで、また今度来ることにします」
恥ずかしいーー!!
絶対、「この人手ぶらで何しに来たの?」って思われてるよ。
本当は着替えもタオルも忘れたんじゃなくて、持ってすらいないんですけど……
「大丈夫ですよ。うちはタオルの貸出しサービスもやってるので、今日はタオルも無料でお貸ししますね。着替えは、そうですねぇ……今日は特別にイヒトさんがお風呂に入っている間に洗濯しておきますよ!」
えー! そこまで至れり尽くせりでいいんですか!
神様ありがとうございます。弱小女神様しかこの世界の神を知らないが。
「いいんですか? ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「では、ご案内いたします」
オリーブさんはにこりと笑い公衆浴場へと入っていく。俺はそれに続いて扉をくぐる。
男湯女湯ののれんもあって雰囲気あるなぁ。
さすがにコーヒー牛乳は無いみたいだけど。
おっ、料金表もあるな。入浴料15円、タオルの貸出料10円か。
今の収入でなんとか毎日入れる値段だ。
まだ欲しいものが沢山あるから、しばらくは数日に1回になりそうだが。
「こちらがタオルです。着替えはお風呂に入っている間に洗濯するので、脱衣所のカゴの中に入れておいてください。それでは、ごゆっくり」
お礼を言って、俺は脱衣所へ向かう。
脱衣所の棚にはたくさんカゴが置いてある。
日本の脱衣所とあまり変わらないな。
扇風機や体重計といった機械は無いが、鏡は存在していた。
俺はオリーブさんがわかりやすいように、1番端のカゴに脱いだ服を入れる。
タオルを腰に巻いて、いざ浴室へ。扉オープン!
ガラガラッ
おー! やっぱり富士山描いてあると思ったよ。正面にそびえる神々しい大きな山と抜けるような青空、そして富士を際立たせる少しの白い雲。
この世界の富士山の名前を未だに知らないが、素晴らしさは変わらない。
浴場、浴槽は結構広いが、シャワーは無いようだ。
俺は隅に重ねてある桶を取り、浴槽へ近付く。
桶でお湯をすくい、体の汚れを落とす。
ちょっと熱めのお湯で気持ちぃー。昨日は水でちょちょっと拭いただけだったから、こんな当たり前のことに幸せを感じる。
それでは体もきれいになったことだし、メインディッシュの浴槽をいただきますか。
ちゃぽんっ
「っく~」
生き返る~。最っ高~。
こんなん何回入っても生き返るわ。
「ほっほ、いい表情をしておるの、坊主」
先に風呂に浸かっていたお爺さんに話しかけられた。
「いやー、気持ち良くて生き返った気分ですよ」
「なるほど、生き返るか。確かに疲れが取れて生き返ったような感じじゃな。わしは鍛冶師をしておる、トトシというもんじゃ。お前さんは冒険者……というには体が鍛えられていないし、商人というには頭が良さそうには見えないの」
「ははっ、訳あって最近冒険者になったんですよ。だからこの歳でもあんまり鍛えられてなくて」
「冒険者をやっとるのか! 機会があったらわしの店に来てみるとよい、武器も防具も質のいいのを揃えておるぞ。いい値段もするがの、ほっほ」
「いいですね。今日初めてナイフを買って武器に興味が出てきたところなんですよ。懐がさびしくてまだ買えないですけど、見に行くだけでもいいですか? 金額がどのくらいかわかると目標にもなるので」
「もちろん、見るだけならタダじゃからの。そのかわり客としては見ないがの」
「ありがとうございます。今度行かせてもらいます」
鍛冶屋と知り合えたのはラッキーだ。こっちの世界じゃコンビニやスーパーなんて無いから、店に入るのも緊張するからな。
顔見知りの店っていうだけでも、少し安心できる。
特に鍛冶師なんかの職人は気難しい人が多そうなイメージがあるから、余計にありがたい。
まぁ愛想が良さそうなイメージの宿屋の人があのツンツン具合だから、俺のイメージなんて当てにならないが。
俺はトトシさんに挨拶して風呂を出る。
トトシさん、俺より前から入ってるのにのぼせたりしないのか?
やはり鍛え方が違うな。
扉を開けて脱衣所へと戻る。
―◇◇◇―
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