4.初めての宿とスキル検証

「いやぁ、キンジくんのおかげで助かったよ。ニミノヤ村は初めてで、右も左も分からなかったからさ」


「いえいえ、気にしないでください! 困ったときはお互い様ですから。それにニミノヤ村は小さい村なので、イヒトさんもすぐに慣れますよ」


「ありがたい。本当にキンジくんを見ただけで良い村だってのがわかっちゃうよ」


「あはは、何言ってるんですか、イヒトさん」


 尊い。


「あ! サトナカ亭が見えてきましたよ。あの看板が出ているところです!」


 キンジくんが指をさして教えてくれる。

 確かにサトナカ亭って書いてあるな。

 店先もキレイに掃除されてるっぽいし、期待できそうだな。


「キンジくん、今日は本当にありがとう。お互い頑張って冒険者ランク上げていこうね」


「どういたしまして! 僕もイヒトさんに負けないように薬草採取頑張ります。それじゃあ失礼します」


 キンジくんとサトナカ亭の前で別れ、俺は1人で扉をくぐって中に入る。


「……いらっしゃい」


 少しツンとした感じの女の子が出迎えてくれた。

 ツンというか怒ってない?

 俺、初対面だと思うんだけど……


「えーと……泊まりたいんですけど……なんか怒ってます?」


「いえ、別に。ただ、さっき知り合いの声が聞こえた気がしただけよ」


「もしかしてキンジくんのことでしょうか。キンジくんとは今日たまたま出会って、ここまで案内していただいたのですが……」


 女の子の怒りオーラが怖くて、俺の方が年上のはずなのに敬語で話さざるを得ない。


「あなたキンジと知り合いなの? ……まぁ、別に私には関係ないけど。泊まりたいなら素泊まり150円、夕食と朝食付きで250円よ。どうする?」


 おっ、意外と安い。でも食事付きだと残り50円か。

 薬草採取に便利なナイフとかも買いたいから、100円残せたら大きいんだが……


「ち、ちなみに朝食無しで200円とかになります?」


 俺は女の子の圧力にビビりながら確認する。


「……それなら220円ね」


 ほぉ、素泊まり150円、夕食70円、朝食30円って感じかね。

 確かに朝食よりも夕食の方が豪華そうだもんな。


「じゃあ、それでお願いします」


「そう。これカギね。夕食はもう食べる?」


「あ、いただこうと思います」


 俺はお金を払ってカギを受け取り、夕食のテーブルに着く。

 すると、もう用意してあったのか、すぐに食事が出てくる。


「どうぞ。それじゃあ、ごゆっくり」


「あ、どうも」


 彼女はテキパキと料理をセットして、奥へと去っていってしまった。


 彼女とキンジくんはどんな関係なんだろうか。

 家も歳も近そうだし、幼馴染みってやつかな?

 ま、考えてもわからないから、考えるだけ無駄か。

 今は異世界初の食事に集中しますか。


「いただきます」


 まずは主食。これは白米だった。

 パンでも玄米でもなく、白米。

 これを見ただけで食文化のレベルが高いと分かる。


 スープは……これは魚介系の出汁と醤油がベースか!

 驚いたな。ここまで進んでいるとは。

 もっと味気ない塩味にクズ野菜のスープが出てくるかと思っていたが、いやはや嬉しい誤算である。


 そしてメインはなんと、唐揚げである!

 揚げ物料理まであるとは!

 外はサクッと、中はジューシー。

 白米に合う濃い目の醤油ベースのタレ。


 ここまで食文化のレベルが高いと、知識チートで稼ぐのは無理そうで残念だが、食事は美味い方がいいしな。


 サラダはいたって普通だったが、さっぱりとしたドレッシングのようなものがかかっていて、唐揚げの油っぽさを取り除いてくれる。


 唐揚げを口に放り込み、白米をかき込む。それらをスープで流し込み、サラダでリセットする。

 そのループが止まらない。バランスが完璧過ぎる。

 今日は体を動かしてお腹が空いていたこともあり、すぐに料理を平らげてしまった。


「ごちそうさまでした」


 いやぁ、満足、満足。

 夕食と朝食が付いて、前の世界の感覚で2500円か。安い。

 今日日、素泊まりのカプセルホテルでもそんなに安くないだろう。


 腹ごしらえも済んだし、お部屋拝見といきますか。


 俺は階段を上がって、自分が泊まる部屋のドアを開けた。

 おー、ちゃんとベッドがあるぞ。流石にスプリングは入っていないが、しっかりと干されているであろう布団はフカフカだ。


 部屋の広さはベッドでほぼいっぱいだが、どうせ寝るだけだし問題ない。

 トイレ、風呂なんかも付いてないから、共同なんだろう。

 普通の異世界なら風呂は無いかもしれないが、日本モチーフの世界観だしあって欲しい。

 というか、そういうことちゃんと聞いとけばよかったな。

 でも、あの子怖かったしなぁ……後で聞きに行こう。


 さて、これからどうするかなぁ。

 ベッドに横になって考える。

 スキルの検証すべき事をリストアップでもしとくか。


 1.本当に1日1回しか使えないのか→検証済み

 2.スキルのリセットは何時なのか

 3.離れた場所に召喚できるのか

 4.できるならその範囲

 5.物の内部にも召喚できるか

 6.毎回ギザ10が出るか、レアなのか

 

 こんなもんかな。

 今日の夜中に4以外は確認しときたいな。

 検証結果次第でこれからの行動にも大きく影響してくる。

 楽しみだな。多分、期待外れに終わるだろうが……


 考えていたら結構時間が経っていた。

 トイレも行きたくなってきたし、場所を聞きに行くか。

 できればさっきの子じゃなくて、優しいおばちゃんとかがいいんだけど……


 っと、やっぱりさっきの子がホールにいる。


「あのー、すみません……」


「何?」


「トイレはどちらにあるでしょうか……?」


「そんなの初めに聞いときなさいよ。1階の奥にあるわ」


「どうも、すみません。ちなみにお風呂なんてのはあったりなんかしちゃったり……?」


「はぁ? バカにしてるわけ? 高級宿屋じゃあるまいしあるわけないじゃない。風呂に入りたいなら銭湯に行きなさいよ。まったく」


 そんな感じかぁ。全世帯に風呂がついてるほど、進んではいないのか。


「そうですよね! 銭湯ですよね! あはは……」


 彼女が怖いので、俺はそそくさとその場をあとにする。

 銭湯に入れるくらいは稼ぎたいよなぁ。

 10円で入れれば10円玉召喚スキルの価値も……無いな……



 ―◇◇◇―



 そして、夜中0時。スキルの検証を始める。

 ベッドの横に備え付けられた引き出しの中に、10円玉を召喚できるかどうか検証したいと思う。

 これが出来れば最強への道も開けるかもしれない、重要な検証だ。


 心を落ち着けて精神を集中する。

 頼むぞ……!


「10円玉召喚!」


 引き出しを開けて確認する。


 ドキ……ドキ……




 無い!!


 そりゃそうだよなぁ。できたら強過ぎるもんなぁ。

 相手の心臓に10円玉召喚して、1日1回だけ使える必殺技にしようと思ってたんだけどなぁ。


 落ち込んでてもしょうがない。

 まだスキルがリセットされてなくて、召喚できないだけかもしれないし。

 なるべく離れて部屋の入口からベッドの上に召喚できるか確かめてみよう。


「10円玉召喚!」


 ぽとっ


 できた。

 できてしまった。

 必殺技にできないことが確定してしまった。

 やはり、俺と同じでお前もショボいスキルだったんだな、10円玉召喚スキルよ……


 俺は召喚された10円玉に近付いていく。

 せめてギザ10であってくれ……


 ひょい


 俺は10円玉を拾って確認する。

 普通だ。普通の10円玉だ。

 明日(てか今日)も頑張って薬草採取に勤しもう。そうしよう。


 検証結果はこんな感じかな。

 1.本当に1日1回しか使えないのか→YES

 2.スキルのリセットは何時なのか→午前0時

 3.離れた場所に召喚できるのか→YES

 4.できるならその範囲→未確認

 5.物の内部にも召喚できるか→NO

 6.毎回ギザ10が出るか、レアなのか→レア


 あと検証が必要なのは召喚範囲とギザ10の頻度くらいか。

 まさかギザ10は初回限定ボーナスなんてことはないよな?

 召喚範囲はまた次の日に外で確かめるとしよう。


 薬草採取しないと暮らしていけないことが確定したので、さっさと寝て体力を回復しよう。


 おやすみ……



 ―◇◇◇―

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