第189話 妹が帰って来る

「ただいま~~♪」


 玄関から、虹心の陽気な声が響いてくる。

 虹心はそのまま自室に向かうかと思っていたが、台所の方へやって来る。


「おぉ!!」

「台所に、兄ちゃんが居た!!!」


 虹心が台所に入って来た直後、俺を見てワザとか、少し大きめな驚きの声を上げる。

 俺は別に驚かせるつもりは無いので、穏やかな表情で虹心に帰宅の挨拶を掛ける。


「お帰り。虹心!」

「時間的に、演劇部へ顔を出していたのか…?」


「そうだよ!」

「演劇部は、これから一つの山場を迎えるからね!!」

「夏の演目(小演目)が終わるまでは、幽霊部員でも化けて出て来ないとね♪」


 嬉しそうな表情で言う虹心。

 本当に好きで、部活動をしているのだろう。

 虹心は穏やかな表情に変わって、俺に話し掛ける。


「兄ちゃんは試験が終わったら、そのまま家へ帰って来たの?」


「そうだよ!」

「コンビニで昼食を買ってから、家へ帰った!」


「あ~~。そうなんだ!」

「別にコンビニ寄らなくても、家に食べる物は有ったのに!!」


「虹心が居ればそうしていたけど、食べては行けない食べ物とかも有るんだろ!」


 母親や虹心も毎日買い物に行ったり、買い物をして帰宅してくる訳では無い。

 この家の冷蔵庫には、何かしらの食べ物が常に入っているが、俺は何を食べて良い物か、悪い物かが理解し切れていない。


 冷凍食品類は電子レンジで、簡単に調理出来て食べられるが、その冷凍食品が昼食向けなのか晩ご飯向けなのかは、実質母親と虹心しか知らない。

 冷凍ピザやドリア系は、晩ご飯の食卓に先ず出て来ないが、グラタンは昼食向けでは無く晩ご飯向けだった事が有り、注意を受けた時が有る。


「兄ちゃん!」

「それなら学園へ行く前に、私やお母さんに一言聞いて置けば良かったのに!」

「お小遣い、損しちゃったね!!」


 和やかな表情で言う虹心。

 言われて見れば虹心の言う通りで有るが、朝の時間帯は何かと忙しい為、うっかり忘れたり聞きそびれたりする。


「今日は部活を頑張ったから、喉がカラカラだ!!」


 虹心は笑顔で独り言を言いながら、食器棚からコップを取り出し、冷蔵庫からペットボトルのジュースを取り出して、それをコップに注いで飲み始める。


「ゴク、ゴク、―――」


 見るつもりは無いが、美味しそうにジュースを飲む虹心。

 ジュースを一気に飲み終えた後、二杯目を新たに注いでいる。

 俺の視線に気付いたのか、虹心は和やかな表情で声を掛けてくる。


「兄ちゃんも、飲む?」

「美味しいよ!♪」


「……俺は、さっき飲んだばかりなんだ!」

「だから、台所に居る」


 俺は澄ました表情で言うと虹心は、和やかな表情で言う。


「そうなんだ!」

「今日も、蒸し暑いしね♪」


「ゴク、ゴク、―――」


 そう言いつつ、二杯目も豪快に飲む虹心。

 虹心は女性で有るが、外でも同じように飲んでいるのだろうか?


「ふぅ~~」

「ジュースを飲んで落ち着いたし、着替えて来ようと~~!」


 ペットボトルを冷蔵庫に仕舞い、コップを流し台に置くと、虹心はそのままカバンを持って着替えに向かった。


(元気な妹だな……)

(虹心を彼女にしたら飽きないとは思うけど、色々と振り回されそうだな!)


 俺は虹心以外に、小鞠ちゃんや伊藤さん。二村さんと親友関係を持ったことが有るが、虹心が一番元気で陽気な子で有る。

 虹心は妹で有るし、家族で有るから、遠慮の壁は存在しないし、上下の関係も無い!?


(妹でも、虹心を彼女にしたらどうなるのかな?)

(今と変わらない関係がそのまま続くのか、それとも急に心変わりをして、俺へ尽くしたり、小鞠ちゃんのように大人しく成るのだろうか?)


 身近な異性で有る虹心。

 俺は虹心が嫌いでは無いし、虹心が何処まで本気かは知らないけど、好意を持っていてくれる。

 怒らしたら厄介な虹心で有るが、俺は何となく意識し始めていた……

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