第185話 夜更け前の来訪者 その2

「……虹心は俺が小鞠ちゃんに振られたことを、小馬鹿にしに来たのか…?」


 その言葉を言う虹心の表情を見て、俺は少し『ムスッ』とした表情で言う。

 だが虹心は、真面目な表情に変わって話し始める。


「馬鹿に何かしていないよ!」

「兄ちゃんらしいねって、だけ!!」


「私が兄ちゃんの部屋に来た理由は、小鞠ちゃんの気持ちを伝える目的も有るけど、兄ちゃんの今後の対応相談も兼ねて、来て上げたのよ!!」


(来て上げたか……虹心らしいな!)

(兄には下目線で有るが、俺には常に上目線だ!!)


「今、俺にとって、心の内を話せる異性は虹心だけだからな…」

「気持ちは嬉しいが……その辺りも、小鞠ちゃんから聞いているだろ?」


 俺は悩んだ表情で言う。

 虹心は今後の対応相談と言ったが、俺は小鞠ちゃんに『冷却期間』を置くと言ってしまっている。


 二村さんを完全に敵に回した現在、二村さんは松田達の力を使って、俺の悪口を言い触らすだろう。俺の彼女作りを妨害する為に……

 それをしなくても、俺は学年女子から良い好意は貰えていない。


 天然気質の二村さんが、何故か俺に好意を持ってくれたが、俺は二村さんの親友で有った伊藤さんに目を奪われ、二村さんを失った挙げ句、伊藤さんも者にする事は出来なかった。


「うん!」

「小鞠ちゃんから聞いたけど……兄ちゃんは、それで我慢出来るの?」


「我慢…?」

「何を言っているのだ。虹心!?」


 虹心が真面目な表情で言う中、俺は顔を引きつらせながら言う。

 虹心はその表情で言葉を続ける。


「だってこんな短い時間の間に、私を含めて四人の女の子に好かれて、一気に私以外に去られて、兄ちゃんはそれで我慢出来るの??」


「……何が言いたいのだ。虹心…!」

「俺は小鞠ちゃんを傷付けてしまったし、二村や松田達にも宣戦布告をしたような者だ!」

「こんな状況下で、新たな新天地を求めての行動は出来ないよ(汗)」


 俺は困った表情で虹心に言うが、力説をするように言葉を続ける。


「これを太平洋戦争で例えると、連合国の手に依って沖縄本島が陥落したのに、日本軍はハワイに再奇襲を掛けるような、作戦を立てるのと変わらないよ!!」

「あの時でも僅かな空母は有るが、それを運用出来る絶対数の航空機が無い!!」


「だけど、最大の問題で有る燃料は疎か、真面まとなな人員が居ない!!」

「俺の状況は、今まさにそんな状況なんだよ!!///」

「俺の場合は無条件降伏する必要は無いが、体勢を立て直すには時間が必要だ」


「……兄ちゃん。いきなり戦争ネタを出されても、私が困るのですけど…(汗)」

「要するに兄ちゃんにはもう、彼女を作る体力や気力が無いで良いんだね……」


 虹心はジト目表情で言った後、呆れた表情に変わって言う。

 こんなネタを出されても、真面に相づちを打ってくれるのは岡谷君ぐらいだろう!?

 俺は落ち込んだ表情で言う。


「うん……。しばらくは気持ちが起きない…」

「伊藤さんのような美少女と関係を持ててしまうと、新たな人でも、どうしても比べてしまうし、伊藤さんももしかしたら、何処かで気が変わるかも知れない…」


「!」

「まだ……伊藤さんに、未練を持っているんだ…!」


「あぁ……小鞠ちゃん…。意外に見る目有るな!!」

「あそこで兄ちゃんを本当に許していたら、小鞠ちゃんは当て馬にされているよ!///」


 俺の言葉で虹心はびっくりして、何かを悟った表情で言う!

 俺、何か不味いことを言ったか?


「なら、しばらくはそうするんだ」

「相談には何時でも乗るから、気軽に言ってね…」

「お休み……兄ちゃん…」


 虹心は少し寂しい表情で言い終えると、就寝の挨拶をして、俺の言葉を待たずに部屋から出て行く。


『パタン!』


(虹心には悪いが、今の状況で新たな行動を起こす気には成れないよ…)

(彼女は欲しいが、一度冷静に成る時間が必要だ!)

(俺は誰を一番求めて、何がしたいかを……)


 虹心に今後の相談をしていれば、どんなアイディアを出したかは分からないけど、今度は虹心単独に成るだろう。


「……今日はとにかく、寝よう」

「良いことも有ったけど、悪いことの方が多かった…」


 俺は独り言を呟いて、今度こそベッドに潜り込む。

 夢の世界だけでは、良い夢を見たい物だ。

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