第72話 伊藤亜紀

「……」


(……どうして、伊藤さん)

(……俺、何もしていないのに)


 特進コースの人たちは、俺を横目で見るが、無言で通り過ぎていく。

 色恋沙汰が好きな女子たちですら、無言で通っていく。

 やはりこのコースと成ると、恋愛や青春より、勉学が最優先なのだろうか!?


 俺は突然の伊藤さんの暴言に、本当にフリーズするしか無かった……

 伊藤さんはそのまま、昇降口に向かって行くが……急に立ち止まり、俺の方にゆっくりと顔を向けると……


「……?」

「……!!//////」


「……///(汗)」


 すると、伊藤さんは慌てた表情をして、俺の所へ掛け戻って来た!


「ごっ、ごめん……///(汗))」

「えっと……三國君だっけ?」

「まさか……私の教室に来るとは、思わなかったから!///」


「!!//////」


 伊藤さんは頬を染めながら、申し訳ない表情で謝ってくれる。

 俺はその表情と仕草を見て、心臓が思いっきり飛び跳ねる!?

 肋骨から飛び出す勢いで、俺の胸は弾んだ!??


(この人……純粋な表情を見せたら、絶対に学年一位だよ///)

(もしかしたら学園一の、陽葵ひまり先輩と同等かも知れない!?)


(大人と子どもの真ん中で有る、本当の美少女!///)

(さっき放った言葉が、信じられないよ…)


「いっ、いえ///(汗)」

「少し驚いてしまいましたけど、大丈夫です…。伊藤さん!//////」


 俺も頬を染めながら、伊藤さんに謝る口調で言う。


「本当に、ごめん!!///」

「私はてっきり、また、何処かの男子が、好意の声掛けに来たと思っていたから…//////」


 伊藤さんは、頬を染めて平謝りしている。

 あの冷酷な伊藤さんとは、とても思えない……

 俺は伊藤さんの言葉で、思わず聞いてしまう。


「良く、有るのですか…?」


「えぇ……。1週間に1度は…!///」


「大変……モテるのですね…」


 伊藤さんは頬を染めながら呟き、俺は正直に感じたことを思わず口走ってしまう!?

 俺はそんな立場に成った事が無いから、うらやんだのか!?

 伊藤さんは澄ました表情に変わり、はっきりとした口調で言い始める。


「三國君……モテても意味が無いよ…」

「私は私で、気に成る人が居るし、それに軽々しく、声を掛けられるとムカつくのよ」

「他の人は私に興味が有るだろうけど、私は気に成る人以外に、興味は無い……」


(伊藤さんの好きな人は、誰なんだろう……?)

(伊藤さん……少し言葉が汚いけど、やっぱり過剰な好意はストレスに成るのかな?)


 俺はモテる経験をした事がまだ、虹心と小鞠ちゃんしか無いから何とも言えない。

 それにアレは、ほぼ身内と言っても過言では無い。

 小鞠ちゃんと俺の付き合いは、空白期間を含めると7~8年位にも成る。


 不特定多数の人間が短い周期で、好意の有る声掛けをして来たら、その人は気疲れするのかも知れない。

 こればかりは人それぞれだから、俺では分からない。


「……それで、急にどうしたのよ?」

「三國君も……私に、好意を伝えに来たの!?」


 伊藤さんは俺を、急に睨み付ける表情で言い始めるが……直ぐに澄ました表情に変わる。


「……な訳けないか。三國君には彩織がいるから…」


 伊藤さんが納得した口調で呟いた後、俺は伊藤さんに困った表情で話し掛ける。


「伊藤さん!」

「実は、伊藤さんの所に来たのは、二村さんのことで相談が……」


「彩織のことで…?」

「それは……込み入った内容?」


 虹心の様に喜ぶ表情や、驚く表情等は一切見せずに、岡谷君の様に澄ました表情で伊藤さんは聞いてくる。


「……込み入った内容と、言った方が良いですね」


「そう……」

「じゃあ、静かな場所に移動しましょう」

「……来て」


 伊藤さんは澄ました表情で呟くように言い終えると、勝手に歩き始めた!


(何処かの部屋で、相談するのか?)


 俺はそう思いながら、歩き始めた伊藤さんの後を追い掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る