第30話 アンナ先輩の奇襲
2学年になった私は休日はニルス様のお部屋で研究を進めていた。ニルス様のお部屋は公爵家だけあって無駄に広く勉強部屋とミニサンルーム・寝室と風呂トイレ完備の仕様でミニサンムームの方に研究材料を置き私が研究できるよう机や道具を運んでいた。ニルス様はその間サンルームの端っこの小さなテーブルにお茶や本を持ち込み、とても静かにしており邪魔はされなかった。研究を応援してくれているから私も安心できた。
薬は配合で時間調整が少しずつ出来る様になって来た。30分、1時間、2時間、3時間と時間を伸ばすことや量を調整したら消える時間も長くなる。でも飲み薬だと限界があるので粉薬に出来ないか今それをしている。その事を言うと
「やはりお前は凄いな」
と褒めてくれる。研究を褒めてくれる人が今までいなかったので嬉しくなった。
ニルス様は二人の時はよく甘やかしてくれる。素直になり怒鳴ることも減ったし相変わらず恥ずかしがりやで少し天邪鬼は残っているけど基本的に優しかった。
夜会には無理に出なくてもいいと言った。
「むしろイサベルみたいな綺麗な女性が出たら他の男が黙ってないだろうから…お前が引きこもりの研究バカで今は良かったと思う」
と言う。
「研究バカ…」
確かにまぁ、ずっと世界から消えようとしていた私だけどもうそんな事は無くなった。この前はニルス様が薬を飲んで効果を確かめてくれた。
勝手に飲んで謝られたが怒る気は無かった。むしろ女子から嫌がらせに用具入れに閉じ込められたのを助けてくれたしどうやら訓練の時他の男子達が騒いでたのは私の事を変な目で見てる男子達にこっそり制裁したとの事だった。
「いや…俺は直ぐバカとか言うが別に本心ではなく!!と、とにかく俺が卒業するまでは守るし、卒業後にはお前には女の護衛騎士を数人雇おうかと思っている」
「えっ!?」
と驚く。私如きにそこまで!?
「お前はわかってないだろうがお前に嫉妬心を抱く者も多い。今まではアンナがいたから手を出すのを辞めていた者も多いだろう。だがいなくなったからとこの前みたいに陰湿なことをしでかす奴は出てくるからな」
と心配された。
「ありがとうございます。…私は特に自分が綺麗だなんて思って無いしサラやマリーやお姉様やお母様お父様、うちの使用人達は皆気を使っているのだと思っておりましたが、ニルス様が言うならそうなんでしょうか?」
するとがくりとする。
「自覚が足りない。本当にお前は…」
と後ろから抱きつかれ頰にキスをされ照れる。
ああ、どうしよう、流れ的にこのまま顔中またキスされるかもしれない…。とドキドキしてしまう。
私達はまだ深いキスや身体の関係にはなっていない。ニルス様が慎重な人であり結婚までは清い関係で居たいそうだ。誠実である。好感が持てる。と言うか私が襲われて男の人が少し苦手になった事で遠慮してるのかも。怖がらせないように少しずつ愛を伝えてくれるのがとても温かく思えた。
ニルス様自身もアンナ先輩が居なくなってからよくこっそりと告白されているみたいだけどスパンと断っていた。むしろ
『婚約者のいる俺によくそんな事をしてくるな?君の精神を疑う。いい医者を紹介するから一度話に行ってみてはどうか?』
と言っているらしい。女生徒達は流石にぐうの音も出ず退散して行った。
ニルス様はやはり顔中に優しいキスをするといつもみたいに
「ではそろそろ帰るか…」
と言う。何となく寂しいけど私は迷惑をかけるわけに行かず
「はい!ありがとうございます!!今日も楽しいお休みでした!!」
とにっこりすると頭を撫でられて手を繋ぎ馬車まで送られる。使用人達には
「ま、前に迷子になったからこうしてないとこいつはダメなんだ!!」
と少し赤くなり説明していた。
アルトゥール様がたまに出てきて
「ちっ!ニルス!お前ばかりいつもイサベルちゃんを独り占めしおって!たまにはわしとお茶もしてくれ!」
と言ってきたがニルス様は
「お祖父様…最近腰痛なのでしょう?静養にいい温泉地にでも出発したらどうです?その逞しい筋肉達も休みが必要ですよ?」
と言うとアルトゥール様が
「なんと嫌味な孫じゃ。でも温泉地には言ってみたいの。イサベルちゃんも行かんかね?ワシの背を流してくれると…」
「お祖父様…」
とニルス様は睨むと
「おお怖い。冗談が通じん。こんな嫉妬深い孫ですまんの?イサベルちゃん」
「チッ…あんたには言われたく無い」
と小さな声で反論していた。
「そ、そうですね…たまにはいいかもしれません…温泉地は冬場以外ではそんなに人もいないと思いますので…」
と言うとアルトゥール様の目はギラギラしてきて
「ほうほう!約束じゃぞ!一緒に行きワシの背中を流してくれ!グフフ…」
と言い、ニルス様が久々血管を浮かせ
「お祖父様…お背中なら孫の僕がお流ししましょう!それ以来にイサベルとの混浴等はさせませんので!」
と嫉妬された。
それから馬車で帰るとニルス様はいつも美味しいお菓子をお土産に持たせた。サラ達も喜ぶから嬉しい。私とニルス様の仲は順調に良かった。
それだけに油断していたのかもしれない。毎日が楽しかったから。
ある日の学園の放課後ニルス様は生徒会の仕事があるので先に帰ることにした私は図書館に立ち寄ってから帰ると言ったらニルス様は
「なら俺も資料で使う本があるから一緒に行こう」
と言い、図書室に向けて歩き出した時だった。後ろから誰かがかけてくる音がした。
ニルス様も警戒した!
「何者だ!?」
と声を掛けるが音が止み、辺りは静かになる。
周りに人がいない。でも何故か人の気配はある。
何か恐怖が込み上げた。ニルス様の服を掴むと
「大丈夫だ。俺の後ろにいろ…」
と言われ後ろに隠れると
私の後ろからクスと小さな笑い声。その声に聞き覚えがあった。まさか!!そんな!!
「死ね…」
と言う声が近くでした。ゾクとした時、ニルス様が私を引っ張りくるんと反対側に回した!!
すると何も無い空間でニルス様はお腹を刺されたのか血が出た!!
「くっ!!」
ニルス様は痛みに耐え自分の血を触りそして刺した見えない物の腕を掴んだ!!
ニルス様の血がその人の腕を血で染めて少しその部分が空中で赤くなっている!!
細い女の腕!?
「離しなさいよ!!何でその女を庇うのよ!!」
「その声は…アンナか!?…お、お前…何故…消えて…ぐっ!」
「ニルス様!!」
痛みに耐えるニルス様と暴れる見えないアンナ先輩に私はどうしていいかわからないがこのままでは不味いと辺りを見回した。
すると廊下の隅にしまい忘れた箒があり、私はそれを持ちアンナ先輩がいる辺りを目掛けてめちゃくちゃに振り回すとガンガンと何か当たる音がした!!
「きゃ!何すんの!やめ!!…ひっ!」
とアンナ先輩の声を便りにブンブン振り回す。何回かは当たる。
「痛っ!こ、この!!」
と箒を掴まれたがもう片方の手はニルス様が掴んでいるから両手で箒を掴んでいる私は簡単にそれを外して
「よくもっ!ニルス様を刺したわね!!」
と叫ぶと空中から
「あんたを刺す予定だったのよ!!」
と返ってきたところを私は箒で思い切りドスっと何かの手応えを感じた所で
「グエ!!…」
とアンナ先輩の声がしてどうやら床に倒れたのかニルス様も血のついた腕を持ったまま座り込んだ。
ニルス様は息も荒い中、自分の血をベタベタと消えたアンナ先輩の身体に塗り少し目印を付けてあらわにしていく!
「くっ!!」
どうしよう!!…は!
私は近くにあった誰も居ない教室に飛び込みぶちぶちとカーテンを外し、急いで抱えて戻りアンナ先輩の倒れている所に持っていき上からかけるとこんもりと人がいるような盛り上がりができた。
するとそこに通りかかったヘルベルト様と護衛の人が驚いていた!!
「一体何事だ!?ニルス!?何で腹から血が出てるんだ!?」
「うるさ…い。犯人はこいつだ!」
とカーテンの盛り上がりを見せるとそのまま私に倒れニルス様は気を失う。
「ニルス様!!いやあ!!!」
と私は叫んだ。
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