第6話 憂鬱な挨拶1

貴重な休日をまたニルス様の為に使うことになり心底嫌気がした。

お洒落とかあまりしたことないから服もあまり無い。侯爵家の令嬢だがほぼ、引きこもって研究ばかりの毎日だから私が自由に使えるお金はいつも、高い薬草や本、材料費に消えていた。

服だって興味は無い。誕生日に家族たちからやたら服やアクセサリーを貰ったけど私はそれらを売り研究の材料費に充てた。


夜会にも出なかったし。

だってあんなつまらない所より研究の方が好きだし早く透明になり生きていきたかった。

サラは乗り気でカミラ姉さんのお下がりのドレスを繕い直した。


「やっとお嬢様の着飾った姿が見れますわ!ニルス様もきっと気にいる様にしてあげますわ!」

とサラはニコニコ上機嫌だった。


休みの日にカミラ姉さんのお下がりを着た。シンプルな胸元に青のリボンのあるグレーのワンピースドレスを纏い馬車に乗り公爵家へと向かう。


公爵家に着くと…門の前に見知らぬ馬車とぎゃあぎゃあ騒ぐ男女がいた。


「え?」


あの水色の髪とアクアマリンの瞳の特徴的な美人は…アンナ先輩じゃない?何故ここに?


「帰れと言ってる!君は呼んでいない!」

男の方はニルス様だ。


「酷いわ!今日はお祖父様にご挨拶をと思って来たのよ?」

とアンナ先輩が言う。


「いや、だから君は招待してないし呼んでいない!………あっ!イサベル!」

私に気付いたニルス様は私服の緑のベストに白のタイをつけて黒のズボンを履き遠目からでも素敵な振る舞いだ。流石公爵家の跡取りで王子の従兄弟だけある。


「……あらご機嫌様。1学年の方。名前を忘れてしまったわ。ごめんなさい。貴方は何故ここへ?」


「いや…あんなのでも俺の婚約者でね!今日呼んだのはあいつの方なんだ。君は帰ってくれないか?」


「どうして??私お祖父様に挨拶したいのよ?だって私達付き合ってるじゃない?」

と言うとニルス様は少し拳を震わせ真っ青な顔で


「…は?いつだ?君に言い寄られてはいたが俺は返事をした覚えなどないが?」

と言う。ん?付き合ってるもんだと思ってたのに違うの?あんなに学園でもベタベタしていて、私には婚約破棄予定と言っていたのに?


あの日透明になり生徒会で聞いた愚痴は好きなアンナ先輩を他の男に横取りされた悔しさからと思っていたのに。


「そんなの言わなくったってわかるでしょう?それとも何?この子を婚約者と紹介するのかしら?何故?日頃から貴方はこの子を嫌悪して婚約破棄予定だって言ってたじゃない!」

と言う。確かに嫌と言うほど聞かされている。


というか私はこのまま門の前でどうしたらいいのか?


「おい!お前!突っ立ってないでこっちへ来い!とにかくアンナ!君は帰れ!」

とニルス様は言う。呼んでないのに来るアンナ先輩。まるで先を読んでたかの行動。


私は今日いつもの三つ編みを後ろで纏めたものを下ろして銀髪は肩より少し長くふわっとした仕上がりである。


仕方ないから薄く開いた門の隙間から入ろうとしたら髪をアンナ先輩に掴まれた!


「待ちなさいよ!泥棒猫!!私のニルス様に近寄らないで!ニルス様!この女は魔女と同じ様な者よ!?貴方の心を操り自分のものにしようとしてるのよ?いつも何か実験してるでしょ?それはきっと男を思う様にする薬じゃないの?」

と的外れなことを言う。


「ち、ちが!いたっ!」

引っ張られた髪が痛い。折角サラが手入れしてくれたのに!


「そんなバカな…。とにかく辞めろ!」

と揉めていると後ろにいたニルス様の執事らしき男の人が困り果て手を叩く。

すると奥からゾロリと男の使用人達がやってきてアンナ先輩を羽交い締めにして何かハンカチを当て気絶させる。そのまま彼女の乗って来た場所に詰め込み御者の男に


「伯爵家までお帰りを」

と言い、金貨を渡されると御者は頭を下げてポコポコと馬車は走り去った。

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