第3話 婚約者また現る
私は医務室に着くとベッドに横にされた。
先生は男である。端正な顔に眼鏡をかけ白衣を着て
「…しばらく寝ていれば大丈夫だね…」
と言う。
「イサベル大丈夫?…あの男!許せないわ!!」
と私の手を持ちマリーは怒る。
「いやあの、婚約破棄予定がショックで吐いたんじゃなくて人が多くて気持ち悪くなったのよ、ごめんねマリーにも汚いもの見せて」
と言うとマリーは
「そんなのどうでもいいよ!私の親友が酷い目にあったのが許せないの!何も入学早々あんな人前で言うことでもないのに!!こっちから婚約破棄したらいいのに!」
と言うマリーに
「それはニルス様からでないとダメならしいわ。誓約書があるのよ。親が決めたやつ。私からは出来ないし破棄できるのはニルス様の学園卒業時だわ。本人も言ってたでしょ?」
と言うとマリーは
「とにかくもうあんな奴と関わらずに学園生活を楽しもう!?」
と言う。
それもそうだ。気にしてても仕方ない。
「あの男もそうだけど!あのアンナって女も他の男と笑って見てたのよね!気に食わないわ!」
とマリーもアンナの事を知っていたようだ。
「……気にしても仕方ないよ…」
とは言え、何か私とニルス様がまだ婚約関係にあるのが気に食わないだろうからきっと彼女はまた何か仕掛けて来そう…。
嫌だな。平和に学園生活過ごしたい。地味に。
早く透明になる薬を完成させたい。
そう思い、鐘が鳴るまで私は少し医務室で休んで、今日は入学式とホームルームだけだったので帰り自宅と部への入部届けを出しに行こうと起き上がった所、医務室の扉がバンと開いて、またニルス様が怖い顔で立っていた!
マリーは私の荷物を取ってくると先程出ていったし先生も会議で出ていったので医務室に私一人だった!!ヤバイ!めっちゃ怒ってる!!
「おい!!倒れたらしいな!!そ、それも吐いたって!?」
と聞かれ怖さに震えつつ
「ご、ごめんなさい…その…」
「俺の評判を早速落としに来るとは!とんだ奴だな!おかげで俺は酷い奴だと一部の奴に噂された!!お前のせいだ!!」
と言う。
「ご、ごめんなさい!!」
「くっ!!謝ることしかできないのか!」
むしろそれ以外どうしろと言うのか?
「ごめんなさい…」
と泣きそうになっていると
「………ちっ!なんだよ!その顔!俺をまた悪者にする気か?いい加減にしろよ?」
すると後ろからなんか甘え声がした。
「ニルス様ぁ!こんなとこにいたのぉ?あら、1学年の…誰だったかしら?」
とアンナが笑いながらニルス様の腕に絡んだ。
「…ああ…すまない、アンナ!生徒会で待っててくれても良かったのに」
「うふふ、一緒に行こうと思って探してたのおー!」
と更にくっ付く。
「と、とにかくもうこれ以上俺に恥をかかせるなよ!」
と言い捨てニルス様とアンナ先輩は去った。
しばらく動けないでいるとマリーが荷物を持ちやってきてどうしたのかと聞いた。
私は今のことを言おうか迷ったけどマリーに心配かけるのもなと黙っておく。
そして私は薬学部に入りマリーは調理部に入った。
薬学部はひっそりとした所にあり部員数も少なくて良い。もやしみたいな三年の部長さんに副部長の女の人がいて後は男の子が一人いた。二年生らしいが結構童顔でこっちもヒョロイ。
3人は私を見て
「ええ?眩しい!!」
「綺麗な子…」
「こんな子がうちみたいな弱小の薬学部に入ってくれるなんて」
と言う。
「よろしくお願いします……私作りたいものがあるので…」
と言い、その日は挨拶をして帰宅する。
*
家に着くとサラにどう説明しようかと悩んだ。サラは私とニルス様の関係を応援していてくれたがまさか入学早々向こうはこっちと卒業までは婚約関係にあるけど卒業前には破棄する予定のことを知らない。つまり私はニルス様によく思われてないし吐いて更に問題になったことも知らない。
私はサラに申し訳なく思いつつも嘘をついた。
「サラ…ニルス様に会ったよ。噂通り素敵な方だったわ。意思がとても強くて…」
めっちゃ怖かった。
「そうですか!やはり?お嬢様良かったですね!きっと今まではお嬢様の美しさに照れてお会いできなかったのですよ!これから頑張ってくださいまし!」
と応援された。
無理だと思うよサラ。
サラが出て行き、私は透明になる薬を早く完成させようと頑張ることにした。
私の計画ではその薬を飲みこの世界から消えたいと思っている。
誰にも見られなかったら死んだ者扱いになれば…もう周りを気にせず密やかに生きていける。
*
次の日学園に投稿すると私のあだ名は
【ゲロ侯爵家の女】
になっていた。
まぁ当然だし事実だからいい。マリーはまた怒っていたけど噂が広まるのが早いことに疑問を持っていた。
学園中に広まるのはおかしいと思っている。
まぁしょうがないし私は授業が終わると薬学部に行きそこでリフレッシュすることにした。
薬品や薬草の匂いは好きだし、人は少ない。
部長のカール・オーゲン・ファーバーさんや副部長のルイーゼ・エル・ベイヤーさんは幼馴染で共通の趣味もあり婚約者同士らしく大変仲は良い。でも人前ではイチャイチャしない割り切った人達で部員の童顔のウーヴェ・フォン・シュンツェル君も温和でフワッとして優しい性格で花を育てるのが好きらしかった。
皆私の研究には口を出さなかった。異様に真剣にやってるから。
何日か平和な日々が過ぎていく中…またニルス様が何故か薬学部に現れた!!
しかも何故かウーヴェくんの首を締め上げて
「おい!!貴様!!ふざけるなよ!?」
「ひっ!な、なんのことでしょう?」
とウーヴェくんが青ざめながら言うから私はとりあえずニルス様の脇をくすぐり離してやる。
「何をする!このっ!」
と言うニルス様に
「あの…私は何か致しましたか?」
と聞くとニルス様は怒り
「あれほど私の評判を落とすなと言ったのに!!お前!…お前はここのこの部員の男と毎日毎日浮かれながら浮気をしているそうだな!!」
「は、はああ!?」
ウーヴェ君も訳がわからない顔をしている。
「何かの間違いでは無いですか?私は普通に部活を楽しんでいるのです」
と言ってみると
「は!楽しんでね!ここでこいつと楽しくイチャイチャしてるってことか?やはりな!最悪な女だな!」
と言う。
「し、してません、私は研究をしてるだけです!」
「そうですよ!彼女は真面目に研究をしていますよ?ウーヴェ君や私達も寄せ付けないくらいのオーラで研究熱心な子が入ったと…」
と部長がフォローすると
「は!こんなひっそりとした汚らしい小屋で皆でいやらしいことをしているそうだな!聞いたぞ!」
「心外です!いくら生徒会でもありもしない噂を鵜呑みにするなど!」
「は!大体こんな薬学部意味ないんだよ!部員数は少ないしあっても邪魔なだけだ!ここを取り壊し庭園にした方が皆の憩いの場になっていいと思う!従兄弟の生徒会長に俺が一言言ったらそうなる!」
と言う横暴さに皆は青ざめた。
「やめてください!そんな事!!わ、私が薬学部を辞めますから!!」
と私は泣きついた。
「ふん!惨めな女め!!最初からそうしろ!これからは目立たずにひっそりとしていろ!!」
とニルス様は言い去った。
そして私は入ったばかりの薬学部を辞めた。
ウーヴェ君達も怒っていたがここを取り壊されるのは見たくなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます