第2話 秀雄と和代
秀雄は目を覚ました。汗をたくさんかいている。インフルエンザに罹って3日間苦しんだことがあるが、それを思い出した。あれはまだ二十歳のころだったような。熱くて死にそうだったが4日目の朝は驚くほど爽やかな、体中の苦しみは汗と一緒に蒸発したようなそんな開放感を思い出した。まさに今が全く同じ感覚に包まれている。体が少し軽く感じ、顔を洗おうと洗面台へ向かう階段も足が勝手に上がっていくような感覚になっていた。不思議な感覚に包まれたまま鏡を覗くと信じられないものが映っていた。それは紛れもない秀雄自身の顔なのだがとても若い。数十年、いや、半世紀近く若くなっている可能性もある。秀雄はしばらく鏡の前で固まった。これは夢なのか。高熱にうなされて頭がおかしくなったのか、それともタイムマシンとかなんかで過去に戻ってしまったのか。知り合いに有名な白髪の科学者なんていないはずだよな、とこんな状況でもくだらない事を考えてしまう。おそらく、夢でもなければ過去に戻ってもいない。それはこんなことをやるなんて、それこそ夢にも思わなかったが、頬を抓って痛かったからというのと今この洗面台が過去のものではないからである。つまり自分自身が若くなってしまったのだ。秀雄は急いで妻のもとへ駆け寄る。まさか、和代はどうなってしまったのか。布団をめくるととてもきれいなお嬢さんが眠っていた。そう、和代も若返ってしまったのだ。
秀雄の呼びかけに気が付いた和代は目の前の秀雄に驚愕した。若かりし頃の、出会った頃の秀雄がいたからだ。しかし、秀雄に指摘されて鏡を見たときはもっと驚愕した。まさに若かりし頃の、秀雄と出会った頃の自分が映っていたからだ。驚きつつも居間に戻り冷静さを取り戻そうとした。そして二人は今起きている事態を分析しようとした。なぜこうなったのかそしてこの状況はいつまで続くのか。さらには、今暮らしている環境に変化はないのか。二人でいろいろと検証し始めてみた。真っ先に思い立ったのは昨晩の身体の変化であった。身体中が熱くなりうなされるあの感覚は和代も経験したらしい。そして気が付けば若くなっていた。お互いがこれが原因で今の事態を引き起こしていることに異論はなかった。しかし、結果からみると納得できるような気がするが、決してこの現状を現実だとは思えなかった。夢なら早く醒めて欲しいけど夢ならもう少し楽しみたいとこの期に及んで秀雄はのんきに考えていた。とりあえず秀雄と和代は街に出てみることにしてみた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます