五ノ環・魔王と勇者の冒険か、それとも父と子の冒険か。12

「ブレイラ~~~!!」


 イスラが抱きついてきました。

 小さな体を受け止めてハウストを見つめます。


「ハウスト、私はいったい……」

「お前は突然意識を失ったんだ」

「ええっ、そうだったんですか?!」


 驚きました。何がなんだか分かりません。

 花畑に行ったらハウストもイスラもいなくて、ゼロスと名乗る男に首を絞められました。でも今、目の前にハウストとイスラがいて、私はなぜか意識を失くしていたというのです。あれは夢だったのでしょうか……。でもそれにしては首を絞められた感触や息苦しさ、押し倒された重みも鮮明に残っています。

 不可解な出来事に困惑していると、ハウストが私の首元を見て険しい顔をしました。


「ブレイラ、その首の痣はなんだ。見せてみろ」


 ハウストは有無を言わせぬまま私を上向かせて首元を露わにする。首筋をそっと撫でて目を据わらせました。


「これは手形だな」

「手形?! それじゃあ、あれは夢じゃなかったんですね……」


 思わず首を押さえました。

 やっぱり首を絞められていたのです。

 私の反応にハウストが訝しむ。首を押さえていた手をやんわりとどかされ、ハウストがそっと首の痣に触れました。


「痛みは?」

「ありません。でも、これ、首を絞められた痕に見えますか?」

「ああ。急に痣が現われた」

「…………そうですか。どうやら不思議な体験をしたようです。ハウスト、イスラ、こっちに来てください!」


 私は立ち上がり、あの花畑へと急ぎました。

 あそこへ行けば何か分かるかもしれません。そしてあの男がいる可能性も。

 しかし。


「え? 枯れている……」


 茂みを掻き分けた先、そこに広がった光景に息を飲む。

 あれほど濃厚な香りを放っていた花々が一つ残らず枯れていたのです。

 茶色く変色した花に生気はなく、花弁を散らして萎れている。

 僅かな間で枯れてしまった花々にますます混乱しました。


「そんな、いったいどうして……。ハウスト、おかしいですっ。ここには一面の花が咲いていて、とても強い香りを放っていたんです。そして、男がいました」

「男?」

「はい。ゼロスと名乗る男です」

「ゼロスだとっ……?」


 ハウストが息を飲んだのが分かりました。

 彼の強張った表情。

 三界の王たる魔王のこの反応に、世界で何かが動きだしているのを私は察したのでした……。






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